栞36 

 バレンタインディから、3日経ちました。
私はチョコを夫に渡すかどうか悩んでいました。
夫も しおりちゃんのことは、覚えている筈です。
渡せば、過去の出来事を思い出すのは当然のことです。
 そしと、私は、ずっとしおりちゃんのことも考えていました。
どうして、チョコを食べていなかったことに気が付いたんだろう。
遺書も無く、突然に死んでしまった。
 しおりちゃんは、私がチョコを交換したことを知らなかった。
もし、交換していなかったら・・・。
私の考え過ぎでしょうか。
夫に聞くことも出来ない。
どうしたらいいのか・・・・・・。
 暗く長いトンネルだったと思います。
でも、3日目、私は思い切りました。
私には、家庭がある。
私は、今の家庭を大事にしたいと思いました。
 この部屋は、私と夫と博美の世界です。
しおりちゃんのことは、折を見て、また、夫に聞く機会もあるだろう。
今は、チョコの苦さを振り切ろう。
私は、夫にチョコを贈ることを決心しました。
 明日は、夫が帰って来ます。
私は、夫の部屋に入り、机の上にチョコを置きました。

「 これでいい。」

黒地に赤と金の筋の入ったシックな包装のチョコが机の上にありました。
 部屋を出るとき、本棚の下の方をチラッと見ました。
そこには、しおりちゃんに貰っただろう夫の詩集がひっそりと並んでいました。
私は、もう終わったことだと思いながら、電気を消して部屋を出ました。



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[ 2008/03/27 20:51 ] | TB(0) | CM(0)

栞35 

 私は、顔を上げました。
すると、博美が私の前に回って斜めの角度から、少し俯いてから顔を上げ、しおりちゃんのように私を上目使いに見たのです。
そして、言いました。

「 どうしたの?
 チョコ、食べよう。」
「 そうね、食べよう。」
「 今、食べてね。」
「 後じゃダメ?」
「 ダメ、今だよ。」
「 分かった。」

 私と博美は、顔を見合わせてチョコを取り出し、お互い口に入れました。
甘みを抑えたビターな味が口にひろがりました。
博美が私に言いました。

「 ちゃんと食べたね。」
「 食べたわよ。」
「 忘れることあるからね。」

博美は、私が食べるのを見届けると部屋に戻って行きました。



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[ 2008/03/21 20:57 ] | TB(0) | CM(0)

栞34 

 部屋に戻って来ました。
リビングに入って、直ぐに、私は博美に言いました。

「 チョコ、食べたいでしょう。
 バレンタインのチョコ、あげるから、食べよう。」
「 うん、私もチョコ、持ってくる。」

 私は、台所に置いてあった義理チョコを取りに行きました。
博美は、子供部屋に義理チョコを取りに走りました。
そして、リビングの入り口で、私は博美とチョコの交換をしたのです。

「 それじゃ、チョコ、渡すね。」
「 私も。」

 同じチョコの交換です。
そう、同じチョコを交換したことが前にもあった。
私は、リビングの扉の前で突っ立ったまま、博美のくれたチョコを手に持って見ていました。
そうです、俯いてチョコを見ながら、しおりちゃんのことを思い出していたのです。

“ あの時、箱を落としていなかったら・・・。”

博美の近寄って来る足元が、眼の端に見えました。



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[ 2008/03/15 10:40 ] | TB(0) | CM(0)

栞33 

 今日は、2月14日、バレンタインデイです。
博美は、元気に保育所に行きました。
でも、博美のバレンタインのチョコは、机の上に置いたままでした。
保育所には、持って行かなかったのです。
渡す相手は、保育所の子ではなかったのです。
 3時半になって、博美が保育所から帰ってきました。
バスから降りてきた博美に言いました。

「 チョコ、持って行くの忘れたの?」
「 ううん、違うわ。」
「 誰にあげるの?」
「 そのうち、分かるわ。」
「 ふ〜ん、妙に大人っぽい言い方ね。」
「 そうね、ふふ。」

博美とは、友達のような会話になってしまうこともあります。
博美は、私を見上げて笑いました。

“ あっ、そうか・・・。”

 私は、あげる相手が、誰か分かりました。
博美は、夫が帰ってくるのを待っているんです。
博美は、父親が大好きです。
私より父親の方に、懐いていと言っても良いと思います。
私と博美は、ライバルなのかも知れません。
女の子は、子供のときから女なのかと思ってしまいます。



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[ 2008/03/09 20:35 ] | TB(0) | CM(0)

栞32 

 私は、止められなかったことで、加奈ちゃんも自分を責めているんだと思いました。

「 分からないわよ、加奈ちゃんにだって・・。」
「 でも、私はしおりちゃんの話を聞いているのよ。」
「 聞いていても、まさか、そこまでは考えないでしょう。」
「 それは、そうだけど・・。
 様子を見ていたのだから、何か気が付いたことがあった筈よ。」
「 でも、加奈ちゃんのせいじゃないよ。」
「 でもね・・。」
「 気にすることは無いわ。」
「 う〜ん・・・・・。」
「 私は時間は掛かったけれど、何とか振り切れそう・・。
 過ぎてしまったことだし・・・。」

加奈ちゃんは、俯き加減にテーブルに眼を落としました。
そして、しばらくの沈黙の後、口を開きました。

「 そうね・・・。
 そうよね・・・・。
 うん・・・・・・。
 お互い気にしないことにするしかないわね。
 最後には・・・。
 お互い・・。」

加奈ちゃんは、加奈ちゃんなりに悩んでいたことが分かりました。

“ そう、お互い気にしないことにするしかない、でも・・・・。”

 それから、私たちは、短時間、話をして喫茶店を出ました。
私は、色々聞きたいと思っていましたが、ちょこっとだけしか聞きませんでした。
聞けなかったと言ったほうが良いのかもしれません。
少なくとも、しおりちゃんは、チョコを交換したことは知らなかったんだと思いました。
 そして、加奈ちゃんには言いませんでしたが、話している途中から、私にはある疑問が湧いて来たのです。

“ まさか・・。”

私は、もやもやしたものが残ったまま帰路につきました。



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[ 2008/03/03 21:07 ] | TB(0) | CM(0)
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