栞25 

 には、“しおり”と書いてあったのです。
この本は、しおりちゃんの詩集じゃないのかしら。

“ いえ、そんなはずはないわ。”

夫が今も大事に持っている詩集。
カバーの表裏を逆にして何の本かわからないようにしてある詩集。
私に分からないように、本棚の隅っこにそっと持っていた詩集。
でも、もっと前、たとえば高校とか大学とかに貰った思い出の物かもしれないし・・。

“ どうしよう・・・・。”
 詩集の持ち主について、加奈ちゃん、何か知らないかしら・・・。”


私は、迷いましたが、やはり、加奈ちゃんに聞いてみることにしました。

 次の日、昼休みを待って、私は加奈ちゃんの携帯に電話をしました。
加奈ちゃんは、直ぐに電話に出ました。

「 もしもし。」
「 あら、裕子どうしたの?」
「 今、話していい?」
「 いいわよ、会社でお弁当を食べているところだから。」
「 あのね、昨日の詩集の件だけど。」
「 どうしたのよ?」



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[ 2008/01/27 19:08 ] | TB(0) | CM(0)

栞24 

 私は、夜、子供を寝かしつけてから、夫の部屋に入りました。
私は、夫の本棚を見ました。
本棚は二つあり、雑誌や書類を綴じたファイルの本棚と専門書の並んだ本棚です。
ファイルの本棚には無いと思ったので、専門書の本棚を上の段から順に見て行きました。
 本棚にあるのは、経済の専門誌や語学の本、あるいはSFや推理小説の類のものばかりで詩集と言うものはありません。
七段ある本棚の最下段のもう終わりかと言う端っこに題名の書いていない白い本があるのを見つけました。
私は、本を本棚から抜き出して見てみました。

“ あれっ、カバーが裏返っている。”

もともとあった本のカバーが裏返しにして掛けてあります。
表紙を開けると題名が分かりました。

“ リルケの詩集だわ。
 どうして、裏返してあるのかな?”

 私は、本のカバーを外して見ました。
カバーには、名前も何もありません。
私はパラパラとページをめくりました。

“ あらっ、栞・・。”

私は、床に落ちた栞を拾い上げました。

“ えっ、これは・・・。”




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[ 2008/01/23 20:07 ] | TB(0) | CM(0)

栞23 

 アルバイトを辞めてから、人と話す機会が減った私は、久々に会う友達の加奈ちゃんと楽しい時間を過ごしました。
この日は、詩集の話を最後に、また会おうねと言って分かれました。

 私は、帰りのバスに揺られながら、詩集が気になっていました。

“ 夫は、詩集は読まない。”

これは、確信していました。
それも、リルケの詩集なんて考えられない。
どうして、引き出しに詩集があったのか。
詩とか好きだよ、なんて聞いたことない。

“ 子供を寝かし付けてから調べよう。”

私は、夫の本棚を探してみようと考えました。

 マンションに帰って来たら、もう、博美のバスが来る時間です。
私は、慌てて玄関に急ぎました。
程なく、バスがやって来て博美が降りて来ました。

「 じゃあ、先生、さようなら。」
「 また、明日ね。」
「 うん。」

バスは、走り去りました。
 私と博美はマンションに並んで入りました。
博美が言いました。

「 明日は、バレンタインよ。」
「 そうね。
 あの上等なチョコ貰える人はいいなあ。」
「 義理チョコで、我慢しなさい。」
「 そうね、我慢するわ。」

どっちが親で、どっちが子供か、分からない会話です。
私は、笑ってしまいました。
博美は、時々大人っぽい言い方をすることがあります。



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[ 2008/01/18 19:42 ] | TB(0) | CM(0)

栞22 

「 そうよ、詩集よ。」
「 え〜っ、そんな柄じゃないし・・・。
 推理小説とかは見たことあるわ。
 経済紙とかも読んだりしているけど、詩集はどうかな。」
「 そう、でも、詩とか好きだよって、その時言ったのよ。」
「 その時って?」
「 引き出しがひっくり返って中の物が床に散乱した時よ。
 書類の間に、本が見えたの。
 リルケの詩集よ。
「 ふ〜ん。」
「 それも、かわいいものよ。」
「 へ〜、そんな趣味があるとは知らなかった。」
「 木村さん、これ読むんですかって聞いたら、はにかんだかわいい顔をして、
 詩とか好きだよって言ったのよ。」
「 へぇ〜、そんなの知らなかったわ。」
「 そうなの。
 男らしく見せたいから、言わないんじゃない?」
「 そうかなぁ〜。」

私は、不思議な気がしました。
夫が、そんな本を読んでいるなんて思っても居なかったのです。



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[ 2008/01/15 19:14 ] | TB(0) | CM(0)

栞21 

「 昔の話。
 そうね、あなたたちが付き合い始めた頃ね。
 私が、総務からの書類を届けに営業に行ったとき、机の前に這いつくばって金属
 の定規を引き出しの隙間に突っ込んで、ガタガタやっていたわ。」
「 そうなの。」
「 それで、どうしたんですかって聞いたら、一番下の引き出しが、奥で何かが突
 っかえて開かなくなったって言ってたわ。
 それで、木村さんが手伝ってくれって言うから、私、中の段を引っ張ったのよ。
  木村さん、金属の定規を引き出しの隙間に突っ込んで、ひっかかったらしいと
 ころを突っついて、一番下の引き出しをガシガシ言わせながら、思いっきり引っ
 張ったら、ばぁ〜んって音がして、下の二段が外れたわ。
 二段の引き出しがひっくり返って、中の物が床に散乱したのよ。」
「 へ〜、それでどうなったの?」
「 そりゃ、営業は大騒ぎよ。
 まわりの人が、机の下に散ってしまった書類を拾ったりね。」
「 ふ〜ん、そんなドジなことしていたのか・・。」

 私の前では気取っている夫に、親近感が沸きました。
それに、会社であった出来事は、私には話してくれません。
そのとき、加奈ちゃんは言いました。

「 木村さん、ロマンチストね。」
「 えっ、どうして?」
「 今も、詩集とか読んでる?」
「 ん、詩集?」



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[ 2008/01/10 18:26 ] | TB(0) | CM(0)

栞20 

「 完全に遅刻ね。」
「 そう、課長に怒られていたわ。
 それに、高木さん、よく机の鍵もなくすのよ。
 この前だって、机の引き出しが開かないって、足で蹴っていたわ。」
「 足で蹴ったの?」
「 うん、初めは、手で引っ張っていたんだけれど・・・・。
 鍵が掛かってるのよ、開くわけないでしょう。
  イライラしたんじゃない。
 最後に足でガンって机を蹴っ飛ばしたわ。
 見られてないって、思ってたのね。
 私と顔が合ったので、“えへっ!”って、こっちを見て笑ったわ。
  結構、大変なお荷物さんなんだけれど・・。
 かわいいから、男に人気があるのね。
 男って、かわいいとみんな許してしまうんだから・・。
 こまった君ばっかりだわ。
 課長だって、ほんと、ゆるいんだから。」
「 あ、引き出しだったら、私も経験があるわ。
 誰でもあるんじゃない。」
「 そうね。
 私も、机の引き出しが開かずに困ったことあったけど・・。
 引き出しに色々な書類を突っ込んでおくから、どんどん積み重なって、開きにく
 くなって行くのよ。
 そうそう、木村さんも、机の引き出しが開かないって困っていたことがあったわ。」
「 アハハ。
 物を引き出しに突っ込むのは、今もそうだわ。
 いつ頃のこと?」



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[ 2008/01/07 20:00 ] | TB(0) | CM(0)

栞19 

「 次の日、何?」
「 やっちゃったのよ。」
「 あっ、もう、笑いそう、えへへ。」
「 何があったのよ?」
「 地下鉄でね、ふふふ。」
「 地下鉄で、何があったのよ。」
「 地下鉄がラッシュでいっぱいだったんだって。
 そこにギリギリで飛び込んでドアの前に立ったら扉が閉まって、ホッとしたらし
 いの。
 ショルダーバッグを、手にぶら下げて乗りこんだんだって。
 紐は持っているのに、重みが無かったんだって。
  あれ〜、おかしいなって思って、下を見たのよ。
 バッグが無いの。
 紐の先は、扉の隙間に挟まっていたわ。
 自分のバッグ、扉の外に取り残されたの。
 バッグの紐だけ車内にあって、バッグの本体は電車の外なのよ。
 それで、ホームに着いたら扉が開くから取れると思ったら、開いたのは反対側の
 扉で、バッグは車外にぶら下がったまま。」
「 それで?」
「 降りなければいけない駅についても扉が開かないから、次の駅まで行って、扉
 が開いてバッグを取って、一駅引き返したようなの。
 駅で二列に並んでいた人の間を出て行ったらしいわ
 扉にバッグがはみ出した電車が、駅に入って来たらビックリするわよ。
 並んでいた人達、にやにやしていたらしいわよ。
 二列の真ん中通り抜けたんだって、おかしいわ。」


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[ 2008/01/04 18:20 ] | TB(0) | CM(0)

栞18 

「 それがね、地下鉄の駅のホームで壁にもたれて、カッコつけてタバコをふかして
 いたロックンローラ。
 鋲の付いた黒い革ジャン。
 見た目、怖そうな奴。
 サングラス掛けて、頭は金色のとさかみたいな奴なの。
  列に並ばずに、壁際にずっといるの。
 電車が駅に入ってきて、タバコ、ポイってホームに捨ててさ。
 電車の扉が開いて、人が一杯吐き出されて、並んで居る人が乗込んで電車の中
 は、もういっぱい。
  そいつ、いちばん後ろから無理やり乗込んだんだ。
 ギターのケースを肩に担いで後ろ向けに乗込んだんだけど、一旦、扉が閉まりか
 けて、また開いたの。
 扉が閉まったとき、ロックンローラの靴の先が扉に挟まって、もう一度扉が開いた
 のよ。
  ロックンローラ、気が付いて、扉の中に入らなければいけないって苦しい後
 退り。
 でも、ほんのちょっとしかバック出来なかった。
 それで、自分の足先が扉に挟まれるんじゃないかと気になって俯いたとき扉
 が閉まって、とさかが扉に挟まってしまったの。
 だから、髪の毛が扉から抜けなくって、俯いたまま、考える人よ。
  おまけに、三つ分の駅が反対側の扉が開くのよ。
 だから、ジッと扉と一緒に哲学していたわ。
 乗客が駅に着くとドッと人が出て行くんだけど、そいつ、一人取り残されて扉とお
 話していたわ。
  乗ってきた人は初めは分からないんだけど、そのうち気が付くでしょ。
 女子高校生なんて、肩を上下させて笑っていたわ。
 声を出さずにね。
  ようやく、扉が開いて出て行くとき“けっ!”とか言ってるの。
 幅のあった髪の毛は、たてに包丁みたいにペッタンコだったわ。
  あれ、カツラだったら、扉に挟まったとき、スポッなんて脱げてたりして、ふふ
 ふふ。
 あの駅、降りる予定の駅だったのかしら・・・。
 それを聞いて高木さん、バカだ、バカだって、ゲラゲラ笑ってたのよ。
 でもね、次の日ね・・・・。」



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[ 2008/01/01 14:10 ] | TB(0) | CM(0)
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