「 それがね、地下鉄の駅のホームで壁にもたれて、カッコつけてタバコをふかして
いたロックンローラ。
鋲の付いた黒い革ジャン。
見た目、怖そうな奴。
サングラス掛けて、頭は金色のとさかみたいな奴なの。
列に並ばずに、壁際にずっといるの。
電車が駅に入ってきて、タバコ、ポイってホームに捨ててさ。
電車の扉が開いて、人が一杯吐き出されて、並んで居る人が乗込んで電車の中
は、もういっぱい。
そいつ、いちばん後ろから無理やり乗込んだんだ。
ギターのケースを肩に担いで後ろ向けに乗込んだんだけど、一旦、扉が閉まりか
けて、また開いたの。
扉が閉まったとき、ロックンローラの靴の先が扉に挟まって、もう一度扉が開いた
のよ。
ロックンローラ、気が付いて、扉の中に入らなければいけないって苦しい後
退り。
でも、ほんのちょっとしかバック出来なかった。
それで、自分の足先が扉に挟まれるんじゃないかと気になって俯いたとき扉
が閉まって、とさかが扉に挟まってしまったの。
だから、髪の毛が扉から抜けなくって、俯いたまま、考える人よ。
おまけに、三つ分の駅が反対側の扉が開くのよ。
だから、ジッと扉と一緒に哲学していたわ。
乗客が駅に着くとドッと人が出て行くんだけど、そいつ、一人取り残されて扉とお
話していたわ。
乗ってきた人は初めは分からないんだけど、そのうち気が付くでしょ。
女子高校生なんて、肩を上下させて笑っていたわ。
声を出さずにね。
ようやく、扉が開いて出て行くとき“けっ!”とか言ってるの。
幅のあった髪の毛は、たてに包丁みたいにペッタンコだったわ。
あれ、カツラだったら、扉に挟まったとき、スポッなんて脱げてたりして、ふふ
ふふ。
あの駅、降りる予定の駅だったのかしら・・・。
それを聞いて高木さん、バカだ、バカだって、ゲラゲラ笑ってたのよ。
でもね、次の日ね・・・・。」
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