露天風呂があると言うことで、Yさんはお酒の入ったお銚子とお盆を持って風呂に乱入です。
廊下を玄関の方に少し戻り、途中を左に折れると風呂への通路があります。
宿泊客は我々しかいないのかと思えるほど旅館は静かでした。
床のギシギシ言う風呂への通路を通過して、脱衣場に入りました。
脱衣場は、ちょっとすえた臭いはしますが、これは許容範囲です。
中に入ると、大きな露天風呂と内風呂がありました。
風呂は特に怪しい気配は無く、これなら、ここは、問題はないかなと言う気分でした。
私は、月明かりの照らす露天風呂で首まで湯に浸かっていました。
横にKさんが浸かっていて私に言いました。
「 部屋が狭くなってすみませんね。」
「 いや、多い方が賑やかで良いですよ。」
「 そうですよね、賑やかな方が良いですよね。」
私は、Kさんは先ほどの臭いのことを考えているんだと思いました。
Kさんが言いました。
「 前に、あれとよく似た臭いを嗅いだ事があるんです。」
私は、Kさんの方を見ました。
Kさんは、露天風呂の周りに植えてある木の上に覗いている月を見上げながら、私に言いました。
「 前に住んでいた家でです。」
「 引越しされたんですか?」
「 ええ。」
Kさんは、見上げていた顔を下ろして、両手でお湯を顔に掛け、ゴシゴシ洗いました。
私は、話の続きを言うのかなと思いましたが、Kさんは話を続けず、間が開きました。
私は、言おうかどうしようか迷っているようにも見えたので、突っ込んで聞こうとはしませんでした。
気分が乗って話す気になれば、また、その時、聞けばいいと思いました。
気分が乗らないときに話すと、後で後悔することが多いことは経験から分かります。
露天風呂のお湯がゆらゆら揺れています。
Yさんが、岩の上に置いてあったお盆をお湯に浮かべました。
「 お銚子を置いても浮いているぞ!」
Yさんは、お酒の入ったぐい飲みを、口に持って来てニコニコしています。
でも、露天風呂の端の方にいたTさんが突然泳ぎ出して、Yさんがお盆に載せていたお調子が波でひっくり返ってお酒風呂になりました。
Yさんは風呂でも笑わせてくれます。
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