家翳32 

 家の空気は良く、怪しい感じは何もしませんでした。

「 さあ、どうぞ。」

Kさんの声を合図に、玄関にKさんの家族が家の奥から現れました。
 私は、挨拶をしました。

「 今日は、お世話になります。
 よろしく、お願いします。」
「 遠い所を良く来てくださいました。」

ご両親が挨拶をしてくれました。
お嫁さんの後ろに、四歳のお子さんが隠れて様子を窺っています。
Kさんの家族は、お父さんとお母さん、奥さんと息子さんと猫のメケ二世です。
 私は、Kさんに促されて、来客用の部屋に荷物を置きました。
Kさんが言いました。

「 直ぐに夕食にしますね。
 ちょっと待ってくださいね。」
「 ありがとうございます。」

Kさんは部屋から出て行きました。

“ カリカリカリ。”

Kさんが部屋から出て行って間を置かず、ドアから音が聞こえました。
猫の爪の音です。

“ メケ二世だな。”

 私がドアを開けてみると、メケ二世が顔を出しました。
白と茶色の精悍な猫です。
様子を窺いに、私に近付いて来ました。
 私は、ニコッと笑ってしゃがみました。
メケ二世は、私の顔を近くで見て、一言“にゃ〜”と言ってリビングの方に消えました。
どうやら、怪しい奴かどうかチェックして、私は合格したようです。



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[ 2007/09/30 17:43 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳33 

 そして、メケ二世に合格を頂いた私は、Kさんの家族と共に焼き肉をご馳走になりました。
冷房をガンガン効かせたリビングで焼肉パーティです。
その賑やかで楽しそうな家族の会話に、私も参加させていただきました。
メケ二世もチョコンと座ってカリカリを食べています。
私は、良かったと思いました。
この和やかな雰囲気は、嫌な過去を乗り越えてのことと思ったからです。
 食事の後、ちょっと休憩をおいて、早速、話を聞かせていただきました。
奥さんは、子供さんの相手で、寝かせた後は参加するということでした。
もっとも奥さんは、Kさんがこちらの家に引っ越してから知り合って結婚したということで、話は聞かされてはいますが、実際の旧家の様子は知らないので話の聞き役と言うことでした。
 一階にある和室に私とKさん、ご両親の四人が座りました。
メケ二世も参加です。
私は、言いました。

「 ボイスレコーダーで、話を録音させてもらっていいですか。
 メモをしていると、聞き漏らすこともあるかと思いますので。」
「 ええ、いいですよ。
 最近は、便利な物が増えましたね。」
「 それじゃ、メモ代わりにさせていただきます。」

私は、ボイスレコーダーの電源を入れました。

「 それでは、時間の順にお話をいただけますか。
 それぞれ、バラバラに話していただくと流れが分かりませんので。
 いいでしょうか?」



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[ 2007/09/29 17:16 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳34 

 Kさんが、メケ二世を見ながら言いました。

「 分かりました。
 それでは、私から話をします。
 いつ頃から始まったのか、明確には分かりません。
 私が、気が付く以前からあったかもしれないのですが、偶然として済
 ましていたこともあったと思います。
 その辺りのことは、みんな意識していませんでしたから、記憶に残っ
 ていないんです。
  まず、初めに気が付いたのは、メケだと思います。
 あ、メケ一世です。
 来るときに、一応、自動車の中で話したのですが、ボイスレコーダー
 に再度、説明を入れておきますか?」
「 はい、お願いします。」
「 それじゃ、続けます。
 メケ一世は、この家で二年前に亡くなりました。
 ここにいるのは、跡継ぎのメケ二世です。
 たぶん、メケの子だと思います。
 体や顔つきや感受性や態度がそっくりなんです。
  ここの家に引っ越して、しばらくして、メケが家出をしました。
 探しても見つからなかったのです。
 諦めていたのですが、一年ほど経って、ひょっこり帰ってきました。
 メケは、メケ二世一匹を連れて帰って来たんです。
 家出して、何処か他の家で飼われていた時期の子だと思います。
 当時は、メケ一匹だけでしたので、メケと言ってました。
  メケは、私が中学生二年の時、同級生から貰ってきた猫です。
 小さい頃は、家の中を彼方此方うろついていたのですが、そのうち、
 神棚の部屋を根城にするようになりました。
 メケには分かっていたんでしょうね。
 メケは、家の中で最も安全な所を根城にしていたんだと思います。



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[ 2007/09/28 17:42 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳35 

  私が、夕方、クラブを終えて家に帰って来て、夕食までの時間、部
 屋で漫画を読んでいるとフラッとよく入って来たのです。
 とっ、とっ、とっ、と歩いて来て、ピタッと動きが止まるんです。
 そして、部屋の周り縁辺り、えっと、壁と天井の境目ですよね。
 その辺りを、じっと見ているんですよ。
  私は、メケ、何を見ているのかなと思っていたんですが、その時は
 分かりませんでした。
 しばらくの間、じぃ〜っと見ているのです。
 緊張している感じがしました。
  その後、メケは緊張がフッと解けて、辺りを見回してから、私が読
 んでいる漫画の上に寝転がって、読むのを邪魔するんです。
 何度か、そんな事があったと思います。
 後で考えると、メケは、その時、そいつが見えていたんだと思いまし
 た。
 だから、メケの様子を見ると、そいつが近くにいるかどうか分かりま
 す。
 まだ、はっきりは分からないのですが、メケ二世にもそれは引き継が
 れていると思います。」

メケ二世は、Kさんの膝のところでKさんの手にじゃれ付いてゴロゴロ転がっていました。

「 それから、メケを貰った同級生が遊びに来ました。
 そいつ、写真部だったんですよ。
 新しいカメラを買ってもらったということで、家に持って来ました。
  私の部屋で、写真を何枚か撮ったのです。
 後日、現像して何枚かくれたんですが、その中で、私が窓の所に立っ
 ている写真があったのです。
 右足の辺りに、斜めに腕のようなものが写っていました。
 そのときは、写し損ねだと思って、何も考えず捨ててしまいました。
 まだ、金縛りとかが起こっていない時期です。」



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[ 2007/09/27 19:45 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳36 

「 ネガは?」
「 いえ、残っていません。
 その友達は、何本も写真を撮っていましたので、試しに撮った写真の
 ネガは捨ててしまっていたのです。
 後で、見せて欲しいと言ったときは、もう、捨てた後でした。」
「 そうですか。」
「 メケは、何回か私の部屋に来て部屋のあちこちを注意して見ていま
 した。
 メケは、そういう類の物が見えていたのじゃないかと思っています。
  そんな事が、何回かあって、次に、私に金縛りが始まりました。
 夜中に眼が覚めるのです。
 意識はしっかりしているのですが、体が痺れているのです。
 ちょうど、正座した後、足が痺れているような感じが全身にあるんで
 す。
  最初は、“これは何だ?”って思いました。
 体の何処か動く所は無いかと意識してあちこち動く所を探しました。
 最初の時は、右足の親指が動くことが分かって、そこを動かしている
 と痺れが徐々に取れて行って、体が動くようになりました。
  学校に行って、この話をすると、友達が“それは金縛りって言うん
 だよ”と教えてくれました。
 その友達は、“ 俺だって、時々、あるよ”って言ってましたから、
 “何だ、誰にでもあるのか”と思いました。
  私は、大きな勘違いをしていたのです。
 世界中の人間が、全員、夜中に金縛りにあって固まっているなんて不
 気味じゃないですか。
 でも、その時はそう思ったんです。」
「 確かにそうですよね。
 世界中の人間が、みんな夜中に金縛りに遭っているなんて、すごく怖
 いですよね。」



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[ 2007/09/26 18:20 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳37 

「 それで、私は、これが普通だと思っていましたから、金縛りに遭っ
 ても、どうして解けばよいのかばかりを考えていました。
 まあ、何回か金縛りに遭った後、体の何処か動く所を見つけて動かし
 ていれば解けると分かって安心したのですけど。
  ところが、そのうち金縛りだけでは済まなくなったんです。
 何回か金縛りに遭っているうち、異変が起こり始めました。
 私は、それを経験するに従って、私にもともとあった霊感が強くなっ
 て行ったんだと思います。
  中学三年の夏の暑い夜でした。
 寝苦しい中、眼が覚めました。
 夜中の一時半頃だと思います。
 私は、いつものように金縛りに遭っていました。
  私と姉の部屋は、二階にあります。
 階段を上がって手前が私、奥が姉の部屋です。
 私の部屋は、家の玄関を上がって直ぐのところにある階段を上がった
 手前の部屋でした。
  私は、金縛りに遭いながら、いつものように何処か体の動く所は無
 いかと探していました。
 そのとき、音が聞こえたのです。
 ミシッ、ミシッと言う音です。
  私は、体の動く所を探すのを中止して、耳で音のする方向を探しま
 した。
 階段です。
 階段を上がってくる音なんです。
 誰かが一階から階段を上がってきます。
  メケのような軽い足音ではありません。
 もっと重い足音です。
 両親だとは思いませんでした。
 両親が理由も無く、こんな夜中に上がって来るなんて考えられないの
 です。



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[ 2007/09/25 17:30 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳38 

 私は、耳をすませて足音を聞いていました。
泥棒かな、とも思いましたが、どうも違うような気がします。
何故だか、これは泥棒じゃないと思いました。
それと同時に、ぞくぞくっとした悪寒が後頭部から背中に走りました。

“ 怖い。”

私は、その時、初めて思いました。
 そして、分かったのです。
金縛りは、これの前兆だったんだって。
私は、怖くなって眼をぎゅっと瞑りました。
体は動かないし、じっとしているしかありません。
私は、天井を向いて仰向けで、じっとしていました。
 足音は、私の部屋の襖の前で止まりました。
襖が開く音がしています。
私は寝ている振りをしました。
眼は瞑っていたのですが、足音と気配で何かが近寄って来ていることが分かりました。
畳に少し足を擦らしながら、何かが近寄ってきます。
そして、それは布団で寝ている私の横まで来ました。
でも、何をするのでもなく、立ったままで私を見下ろしているのです。
嫌な気分でした。
 しばらくすると、足音と気配が廊下の方に動いているのが分かりました。
そして、そのまま階段を下りて行ったのです。
私は、ホッとしました。
体の力が抜け、金縛りが解けました。
嫌な汗が体にまとわり付いています。
 私は、今のは何だったんだろうと思いました。
でも、嫌な気分と言うか、何か悪意を持ったものであることは確かであると感じたんです。
私は、その後、こいつの訪問を何回か受けることになります。
そして、こいつの訪問を受けるに従って、徐々に霊に対する感覚が鋭くなってきたんだと思います。」



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[ 2007/09/24 17:41 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳39 

 メケ二世が、退屈したのか部屋から出て行きました。
それと、入れ替わりにKさんの奥さんがお茶を持って入ってきました。

「 どうぞ、お茶でも。」
「 ありがとうございます。」
「 私は、聞き役ですので・・。」

奥さんは、Kさんの横に座りました。
 私は、Kさんに聞きました。

「 何回も、そいつは来たのですか?」
「 そうです。
 二週間に一回ぐらいの割合でやって来ました。
 特に、何をするのでもなく、立ったままで私を見下ろしているのです。
  それでも、何もしないのなら、我慢できると思っていました。
 でも、そのうち、それだけでは済まなくなりました。
 それから、両親や姉は、金縛りにあったなんて言ってませんでしたの
 で、私だけだと思っていました。
 この話をすると怖がるだろうし、話すのは止めておこうと思いました。
 だから、両親や姉にはこの話はしませんでした。」
「 それだけでは済まなくなったと言うことは?」
「 ええ、そいつの声を聞きました。
 年末の夜でした。
 ぎゅっと眼を瞑っている私の耳元で、そいつは言ったのです。

“ みんな、殺してやる。”

嫌な声でした。
 私は、心の中で言いました。

“ お前なんかに負けない、何処かに行け。”

それで、念仏を唱えました。

“ 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・。”

 そいつは、私から離れていきました。
さすがに怖くなって、次の日、神社に行って、お守りを家族分買いました。
そして、家に帰ってから家族に配りました。」




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[ 2007/09/23 17:58 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳40 

お母さんが言いました。

「 そうなんです。
 家に帰ってから、お守りを配るんですよ。
 珍しいこともあるもんだと、私、思いました。
 でも、まあ、高校受験があるので、それでかな、と思っていました。」
「 配った理由は特に言いませんでしたので・・。
 でも、私はそれをずっと持っていたから、そいつは私に近付けず、声
 を聞くことはその後無かったんだろうと思います。
 でも、ちょっと危ないことはありました。」
「 実際に、何か被害に遭われたのですか?」
「 ええ、そうです。
 そんな事があって、半年ほど経った時です。
 夜中に眼が覚めてトイレに行きたくなったのです。
 トイレは、1階にあります。
  私は、部屋を出て薄暗い階段を下りようとしました。
 半分ほど降りた所で、右足で、ぐにゅっとした物を踏んだんです。
 足が階段の段から前に滑りました。
 そして、階段から転げ落ちました。
 幸い、骨折まではいきませんでしたが、背中に酷い痣を作りました。
 階段から、大きな音を出して転げ落ちたんです。
  両親や姉が驚いて起きてきました。
 どうしたんだと聞くので、暗かったので階段を踏み外したと言いました。
 それは、怖がらせてはいけないと思ったからです。
 階段を見ても、ぐにゅっとした物は無かったのですから。
 とにかく、父に階段を下りるときは、気を付けろと言われて、その時
 は解散しました。」
「 他にも、何か起こりましたか?」
「 ええ、私の不注意とは思うのですが、家の中の怪我は多かったです。
 物理的な怪我ばかりです、風呂で滑ったりするような・・。
 だから、関連させていいものかどうかは判断できません。
 ただ、階段で滑ったときには、“ふっ”と言うような感じの笑い声を
 聞きました。」
「 笑い声ですか。」
「 そうです。
 嫌な響きでした。」



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[ 2007/09/22 17:39 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳41 

「 お姉さんは、何か感じることはあったんですか?」
「 あったと思います。
 両親も姉も、私ほど霊を感じる力は強くないのですが、あったと思い
 ます。
 姉は、今日欠席ですので、私が替わりに話をします。
  姉もこの頃、感じていたと思います。
 姉は、この時、ちょうど大学受験で夜遅くまで勉強していたんです。
 初めは、二階の部屋で受験勉強をしていたのですが、部屋を替わりた
 いと言い出しました。
  そして、替わった部屋が、神棚のある部屋です。
 二階の部屋は、誰かに見られているようで気持ち悪いと言っていました。
 神棚のある部屋は、猫のメケの根城だったのですが、同居することに
 なったのです。
 メケも特別嫌がることも無く、仲良く一緒に部屋にいました。
  その後、姉は東京の大学に合格して、家を出ました。
 部屋は、また、メケのものに戻りました。
 メケは、旧家で一番安全なところが分かっていたのだと思います。
 姉は、大学を卒業すると同時に、付き合っていた彼氏と結婚し東京に
 住んでいます。
 在学中も、バイトが忙しいと言ってあまり家に帰って来ませんでした。
 でも、この家に引越ししてからは、以前より、顔を見せるようになり
 ました。

  それでですね、その姉が友人から人形を貰ってきたことがあったん
 ですよ。
 外国旅行のお土産だったようです。
 西洋人形で、綺麗なヒラヒラした洋服を着た人形でした。
 大きさは、20センチぐらいです。
 それを、姉は玄関にある電話台の上に飾ったのです。
  電話台は昔の造りで、そこそこ大きさがありました。
 右半分に縦長の片開きの扉があり、物が収納できるようになっていました。
 左半分には、二段の本が並べられるような棚がありました。
 それで、左半分の本棚の天板は、右半分の収納の天板より高くなって
 いて、違い棚風の造りになっていました。
 この違い棚の左の高い方に電話、右の低い方に人形を置いたのです。
 私は、最初、その人形を見たとき可愛い顔をしていると思いました。



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[ 2007/09/21 17:25 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳42 

 二週間ほど経った頃でしょうか、夜中に電話が鳴ったのです。
午前一時頃ですよ。
驚きました。
私は、急いで階段を下りて電話の所に行ったのです。
でも、間に合いませんでした。
四回ほど鳴って切れました。
 家族みんな起きて来ました。
電話の前で、なんだったんだろうと言い合いました。
でも、切れてしまったので何だったか分かりません。
もう、寝ようと言うことで、その時は解散しました。
 そのとき、私は電話の横の人形を、ふっと見たんです。
そして、思いました。

“ あれっ、可愛く無いな・・・・。”

人相が悪くなってるんですよ。
最初、見た時とは印象が違いました。
 それで、電話の方なんですが、最初に電話が鳴ったのが、金曜日の夜です。
その後、金曜日の午前一時に電話が頻繁に掛かってくるのです。
さすがに気になって、家族みんなで電話の前で待ったことがあります。
午前一時前に、みんな起きて来てですよ。
 やっぱり、ちょうど一時に掛かって来ました。
それで、電話が掛かってきて、私が直ぐに受話器を取りました。
繋がっているのですが、声は聞こえません。
私が、“もしもし”って言っても、返事が無いんです。
 家族に順に受話器をまわして、それぞれが耳にあてて音を聞いて見ました。
音は何もしませんでした。
でも、電話は繋がっているんです。
こちらの様子を窺っているのか、何も話さないのです。
 私は、受話器の向こうから何かヒントになるものはないか聞き耳をたてました。
でも、分かりませんでした。
30秒ほどで、ガチャッと突然電話は切れました。
 それで、気持ち悪いので、金曜日の夜だけ電話の線を外したのです。
それで、とにかく電話は掛かって来なくなりました。
掛かって来なくなったと言うよりも、電話を鳴らなくしたと言う方が正確ですね。


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[ 2007/09/20 19:03 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳43 

  私は、それから電話当番です。
 毎週金曜日の寝る前に電話線を外していました。
 それで、毎週電話の隣にあった人形を見ていたのです。
  私は、怖くなり始めていました。
 電話じゃなくて、人形です。
 私は、姉に人形を片付けていいかと言いました。
 姉は、あっさりいいよと言いました。
  私は、あれっと思いました。
 いやにあっさり言ったからです。
 それで、どうしてって聞いたんです。
 そしたら、あんたこそどうして片付けたいと思ったのと聞き返して来
 たのです。
  私は、正直に怖いと言いました。
 そして、人形の表情が悪く変わって来ていると言いました。
 そしたら、姉も言ったのです。
 私もそう思うって。
  怖かったです。
 姉も感じていたんですね。
 でも、せっかく貰ったのに片付けてしまうのは悪いかなと思ってその
 ままにしていたらしいです。
  私は、人形を電話台の右半分にある収納に入れて扉を閉めました。
 でも、一週間ほど経った金曜日の夜です。
 電話台の上に以前あったように人形が置いてあるのです。
 ビックリして、家族に聞いて廻りました。
 人形を置いたのは誰かって思って。
  誰も触ってないんです。
 置いた人はいないんですよ。
 私は怖くなって、今度は人形を箱に入れて押入れの奥にしまい込みま
 した。」
「 それでも、出てきたと言うことはありませんか?」
「 ありません。
 どうしてかと言うと、また神社に行ってお守りを買って来て、箱の上
 に貼って厳重に包装したんです。」



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[ 2007/09/19 18:15 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳44 

「 ご両親は、Kさんのようなことはありませんでしたか。
 その、金縛りのような。
 お父さんは、どうでしょうか?」
「 私は、そんなに鋭くないようです。
 家内もそうです。
 金縛りや、黒い塊は見えませんでした。
 でも、二人とも、冠門の扉の音を聞きました。」
「 今日、Kさんに案内して貰って、旧家に行ったとき、正面に冠門が
 ありました。
 あの門ですか?」
「 そうです。
 建て直しとかは、していませんので。」
「 それは、どんな音だったんですか?」
「 夜なんですが、ぎぃ〜、ぎぃ〜と音が聞こえるんです。
 ぎぃ〜と鳴って、20秒ほどしたら、また、ぎぃ〜と鳴るんです。
 一階の部屋で寝ていたのですが、家の外のような気がしました。
 横に寝ている家内に、何の音かなぁと聞きました。
 家内が、門じゃないかなって言ったんです。
 なあ、音、してたよな。」
「 そう、してました。
 私、その時、眼を覚ましていたのです。
 確かに、音は聞こえていました。
 開け閉めするときの音で、その音がするのは門だけなのです。
 変だなぁと思ったのです。
  門は、夕方、閉めてしまうのです。
 昔は、開けたままだったそうですが、最近は、用心が悪いということ
 で閉めるようにしていたんです。
  門は、いつも、私が閉めていました。
 門を開け閉めするとき、ぎぃ〜と言う音がいつもするんです。
 当日も、私、夕方に閉めました。
 だから、閉まっている筈なのに、おかしいなと思ったのです。」



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[ 2007/09/18 17:41 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳45 

「 それで、私は、家内を部屋に残したまま、門を見ようと二階に上が
 りました。
 二階の廊下の窓からは、門が見えるんです。
 玄関を開けて、泥棒だったら怖いですから、二階から覗いて見ること
 にしたのです。
  二階に上がって窓から門を覗くと、門の左右の扉が閉まって行くの
 が見えたんです。
 両側の扉が同時にゆっくりと閉じて行くところでした。
  また、開くかなと思って見ていたのですが、開きませんでした。
 私が見た、閉じるところが最後だったようです。
 しばらく、様子を窺っていたのですが、人影も見えませんでしたの
 で、一階の部屋に戻りました。
 家内が、どうだったと聞くので、状況を話しました。」
「 私、門の閉め忘れかなって言いました。」
「 私は、閉め忘れて、風に吹かれて動いているんだろうと言いました。
 それで、もう、音は止んだので、寝ることにしたんです。
 玄関から出て行って、きっちり閉めに行っても良かったんですが、ひ
 ょっとして誰かいたら怖いですから・・。
 まあ、家の戸締りはしてありますから、家の中には入って来れないだ
 ろうし、大丈夫だろうって・・。」
「 でも、風なんて吹いて無かったんです。
 風の音なんて、してなかったし・・。
 まあ、疑問はありましたが、そういうことにしておけば、一応、納得
 できますし・・。」
「 それで、二人とも寝たんです。
 朝まで、音はしませんでした。
 もっとも、寝てしまっていたので、気が付かなかったのかもしれませ んけど。」
「 それで、次の日、私、起きたら直ぐに門を見に行ったんです。
 気になっていましたから。
 そしたら、門は閉まってるんです。
 それも、閂が掛かってるんですよ。
 門に、木の棒が横に掛かってるんです。
  私、主人を呼びました。
 それで、閂を見せたんです。」
「 いや、驚きました。
 門は閉まってるんです。
 閂が掛かっているのです。
 閂は風では閉まりませんよね。
  私が夜中に見た門は、閉まって行っただけですから、閂が掛かる筈
 がないのです。
 閉まったとき、閂は無かったと思います。
 気味が悪いので、その後、門には新しく鍵を付けました。
 鍵を付けた後は、門は勝手に開いたりしませんでした。」




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[ 2007/09/17 20:40 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳46 

「 私は、両親から次の日、その話を聞きました。
 それで、霊に鈍感な両親でも感じるほど、影響が出てきているんじゃ
 ないかと思いました。
 それに、その頃、父の体の調子が悪くなりつつあったんです。」
「 そうです。
 門の事件があった頃、体に疲れを感じ始めていました。
 体中がじわーっとだるいんです。
  最初は、仕事の疲れが溜まっているのだと思いました。
 しばらくすれば回復すると軽く考えていたんです。
 でも、それがだんだん酷くなってくるんです。
  それで、近くの医者に行ったのですが、疲労が溜まっているのだろ
 うと言われました。
 様子を見ていたんですが、やはり、日に日に辛くなってくるんですよ。
 次に、私は駅の近くにある大きな病院に診察を受けに行きました。
 そこで診察や検査を受けたのですが、原因がはっきり分からないの
 です。
  このままではいけないと思ったので、県庁所在地にある総合病院で
 精密検査を受けようと思い立って、紹介状を書いてもらいました。
 そして、そこに入院して精密検査を受けました。
 でも、原因は分からないんですよ。
 とにかく、腎臓と肝臓が特に弱っていると言われました。
  入院しても、体が少しずつ弱って行くことが、自分でも感じられました。
 原因も分からず体のあちこちが痛く、点滴で栄養を入れて持たせてい
 る状態です。
 対症療法ばかりで、根本的なところが解明されず、不安なまま二ヶ月
 入院していました。
  その間も、徐々に体が弱り、めまいはするし、もうフラフラで、初
 めは歩けていたのですが、ベッドで横になることが多くなりました。
 そして、だんだんと気力も無くなって来て、自分でも、もうだめかな
 と思うまでになったのです。
 そのうち、私に内緒で、家内が主治医に呼ばれました。」



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[ 2007/09/16 17:55 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳47 

「 そうなんです。
 主治医の先生が言うんですよ。
 多臓器不全で、徐々に体が弱って来ていますって。
 最善は尽くしていますが、事態は悪化していますと言われました。
  表現は微妙ですけれど、病状が急変することもありますので心に留
 めておいて下さいと言われました。
 もう、その頃は、主人、ベッドでずっと寝ていました。」
「 今は、お元気そうですね。」
「 そうです、嘘みたいですよ。
 家族が引越しをしてからですね、元気が戻ってきました。
 本当に不思議です。」
「 でも、今までずっと住んでいた家を引き払うのは、エネルギーが要
 りますよね。
 切っ掛けは、何かあったのですか?」
「 それなんですよ。
 家内が、和歌を読むサークルに入っていたんです。
 その辺りの話は家内が言います。
 私は、当時、病院で寝ていただけですので・・。」
「 私、昔から古文の世界って好きだったんです。
 学生の頃からの友人で同じ趣味の人がいて、その人と誘い合って、県
 庁所在地にある文化サークルに二人で入ったのです。
  そこには、色々な人が参加していました。
 活動しているうちに、顔見知りがどんどん増えて行きました。
 そのうち、同じぐらいの年で、特に気の合う人が、もう二人出来たん
 です。
 それで、私と友人とその二人の四人で、サークルが終わった後、喫茶
 店に行ったり、神社や仏閣をご一緒するようになりました。
  そうこうする内に、隣の市にある観光寺院に行った帰りに私の家に
 寄ってくれたことがあったんです。
 その日は、私の家に着いたのが遅くなってしまったので、四人で出前
 の寿司を取って旧家で食べました。
  そして、その時は特に何も話は出なかったのですが、次の日、私
 は、その二人の内の一人に呼び出されたのです。
 非常に重要な話がある、それも、会って話さないといけないことだと
 言うんですよ。
 理由は、会ってから話すと言うことだったので、よく分からないま
 ま、会いに行ったのです。



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[ 2007/09/15 18:46 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳48 

 私、その時まで、彼女が霊感が強いことは知りませんでした。
後で、聞いたのですが、彼女の祖母もそうだったようです。
よく四人で行った喫茶店で彼女は待っていました。
彼女は型通り、昨日の夕食の礼を言った後で、話を始めました。

『 今日は、たいへん失礼な話をすることになります。
 言わなければ、今まで通りのお付き合いが続くでしょう。
 言ってしまったら、あなたに嫌われてしまうと思います。
 でも、言わなければならないと思い、思い切って、お会いしました。
 突然ですが、あなたの家で病気になっている人はいませんか?』

 私は、主人の病気のことはサークルでは言っていませんでした。
それで、私は言ったんです。

『 実は、主人が病気で入院しています。
 でも、どうしてそれが分かったんですか?』
『 昨日、私は、お寿司をあなたの家で頂きました。
 その前に、家の手前で、一度立ち止まったのです。
 失礼とは思いますが、家に入るのが嫌だったのです。
  私は、あなたの家が怖かったのです。
 私は、ずっと誰かに見られている気がしていました。
 それも、悪意を持った誰かです。
  お寿司の味も分かりませんでした。
 とにかく、早く、出たい、早く、出たいと思っていました。
 あの時、何の話をしたのかも覚えていません。
  私は、家を出て、距離をとってから、ホッと一息入れました。
 そして、悪意があなたの家族に悪い影響を与えているのではないかと
 思ったのです。』



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[ 2007/09/14 19:29 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳49 

『 その悪意を持ったものって何ですか?』
『 分かりません。
 悪意の黒い塊です。』
『 それを、追い祓うのは出来ないのですか?』
『 私には、無理です。
 強過ぎます。
 私の命も危ないです。』
『 それじゃ、どうすればいいんですか?
 神社や寺に、お祓いを頼むとか・・・。』
『 難しいと思います。
 その時は、一時的には追い祓えるかも知れませんが、戻って来ると思
 います。
 それ程、念が強いのです。
 家を引き払って引越しするしか方法はありません。』

私は、迷いました
彼女は、言いました。

『 ご主人が、一番霊的に弱いのでしょう。
 全ての霊障が、ご主人に集中します。
 命が危ないです。』

私は、頭を抱え彼女に言いました。

『 ちょっと、考えさせてください。』
『 お気を悪くされたと思います。
 すみません。』

そして、彼女と喫茶店で別れました。




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[ 2007/09/13 18:30 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳50 

  彼女は、何度も失礼なことを言ってすみませんと言っていました。
 でも、家を引き払って引越しするとなると大事です。
 そう簡単な事ではありません。
  私は家に帰って、まず子供に話してみました。
 反対されるんじゃないだろうかと思いました。
 ところが、賛成するんです。
  私は、理由を聞きました。
 その時、初めて私は金縛りの話を聞いたんです。」
「 Kさん、それまで話はされていなかったのですか。」
「 ええ、話してはいませんでした。
 家族が怖がるといけないと思ったし、田舎ですから、近所に話が漏れ
 たら、それこそ大変ですからね。」
「 私、その時、はっきり決断しました。
 このままでは、家族がボロボロになると思ったのです。
  それで、今度は私の方から彼女に電話を掛けたのです。
 もう一度、話を聞かせてくださいって。
 その時は、彼女の了承を取って、息子も連れて行くことにしました。
 一人では心細いですから。
 それに、重要なことを聞き漏らしたり、忘れたりすると大変だと思っ
 たからです。
  再び、彼女と同じ喫茶店で会いました。
 彼女は、良く決断されましたねって言いました。
 それで、子供が金縛りの件を話したんです。」
「 そうです、話しました。
 よく我慢していましたね、と驚いていました。」
「 彼女は、私たちの顔を真剣に見詰めて、要点を話してくれました。」




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[ 2007/09/12 18:01 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳51 

「 要点を言います。
 まず、家にあるものは出来るだけ、持って行かないように。
  特に、人形はやめて下さい。
 いくら、思い出の物であっても、霊が入り込み易いですから。
 でも、すべて持っていかない訳にはいかないでしょうから、生活に必
 要な最小限に抑えてください。
  それから、神棚は最後に外して持って行ってください。
 仏壇が無くなってからは、神棚だけが家を持ちこたえています。」
「 引越ししても、それは、ついてくることはありますか?」
「 おそらく、大丈夫だと思います。
 その家に憑いているのだと思います。
 先日、家に行ったとき、家全体に纏わり憑いている感じがしました。」
「 私は、ついてこないだろうと言う言葉にホッとしました。
 そして、私と母は、彼女に礼を言って別れました。
  今も、母は彼女とはいい友達のようです。
 家に帰ってからは、この話はしませんでした。
 おかしいかも知れませんが、霊に聞かれるような気がしたからです。
  関連の話は、母と外でコソコソと話をするんですよ。
 自分の家なのに変ですよね。
 でも、それ程、当時は私たち切実だったんです。



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[ 2007/09/11 19:01 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳52 

  次の日、入院している父に家族で会いに行きました。
 そして、引越しの話を父に言いました。
 今まで起こったことを話して、どうしても引越ししたいと言ったのです。
 父は、了承しました。」
「 引越しを決断するのは、お父さん、重かったと思いますが。」
「 そりゃ、小さい頃から住んでいた家だから、愛着はありますよ。
 でも、私も不安を感じていましたし、話を聞いて、私の次に家族が
 次々と病気になるのは困りますからね。
 その頃、私の病気は、一進一退でなんとか小康状態だったんです。
 まあ、私の命があるうちに家族を守るため、引越しすることにしたん
 です。」
「 父の許可も出たので、引越し先を大急ぎで探しました。
 ちょうど、この分譲地が売り出し中だったので、県庁所在地も近い
 し、ここにしました。」
「 家を建てるまで、時間がかかったのではないですか?」
「 ええ、そうです。
 でも、引越しを早くしたかったので、不動産屋に仮住まいの貸家を紹
 介してもらうことにしました。
 いったん、引越しを決めたら、一刻も早く出たいと思うようになった
 のです。
 私の金縛りも続いていましたからね。
  この分譲地を扱っていた不動産屋の関連会社の手持ちの貸家が空い
 ていたので、とりあえず身の回りの物を持って入りました。
 そして、二世帯住宅で、大急ぎでここに家を建てたんです。
 不動産屋も商売ですから、無理を言っても聞いてくれました。
  それから、家を建てている間に、旧家の家財を処分しました。
 古道具屋さんに来てもらって、引き取ってもらいました。
 言われたように、ほとんどの物を処分しました。
 もちろん、ここには入り切らないし、それに、ひょっとしてあれが付
 いてきたら嫌ですからね。
 先ほど話した人形も真っ先に処分しました。
 生活用品は出来る限り新しいものを買い揃えました。
 それで、新しい家が出来て、引越しをする日、最後に神棚を外したん
 です。




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[ 2007/09/10 17:57 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳53 

  私と母で旧家に行きました。
 がらんとした部屋に、こげ茶色の神棚は存在感がありました。
 大昔から、家に祭っていました。
 脚立に上がって、壊れないように慎重に外しました。
  それに、外したときにですね、私は音のようなものを聞いたんです。
 うぉ〜んと言う音だか声だか分からない響きを聞きました。
 空気が、重く響いているんです。
 母も音が響いているのを聞いたようです。
  私が、神棚の正面を持って、下に降ろして、母が裏側を持って、二
 人で家から持って出ました。
 私と母は、神棚から離れないように注意深く家を出て、門の鍵を閉め
 て家を閉鎖したのです。
 そして、車に乗り込んで、神棚はこの家に来たのです。
  その辺りから、父の病状が改善し始めました。
 しばらくして、退院したのですが、病名もはっきりしないまま、何と
 か症候群とか名前が付いていましたが、医者にも原因は分からなかっ
 たと思います。
 今は、もう、父は普通の生活で仕事をしています。
  最初の頃は、逃げ切れたか不安でしたが、特に異変も起こらないの
 で良かったと思っています。
 今も、旧家はそのまま置いてあります。
 手を付けると、何が起こるか分からないからです。
 私からお話しするのは以上です。」
「 貴重なお話、大変有難うございました。」

 私は、ボイスレコーダーを止めて、Kさんたちに礼を言いました。
Kさんは、家族のそれぞれが籠もっていた話を吐き出してすっきりしたと言ってくれました。



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[ 2007/09/09 19:11 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

家翳54 

 次の日の朝、私はKさんの自宅を後にしました。
その日は、朝から雨が降っていました。
私は、この地をそう何回も訪れる機会は無いだろうと思ったので、もう一度、旧家を見て帰ろうと思いました。
 帰る途中、国道を離れ、Kさんに案内してもらった昨日の道を逆に走りました。
細い町道を走り、古い町並みを外れ、町から少し離れた山裾に旧家が見えてきました。
道の畦に自動車を止めて、雨が小ぶりなので外に出て、昨日来た時と同じ位置で旧家を眺めました。
 畑を挟んで、空一面に広がった雨雲の下に、家が翳んだように見えました。
黒い霧が屋敷を包んでいました。
私は、小雨が頭にかかるのを感じながら、旧家を見ていました。
見ているうちに、屋敷を包んでいる黒みがかった霧の波が波打ってこちらに流れ始めていることに気が付いたのです。
私は、後頭部から首筋がぞ〜っとしました。
そして、大急ぎで自動車に乗り込み発車しました。

“ 確かに生きている。”

 私は、敢えて“生きている”と思いました。
あの家に何か悪意を持った黒くてぞっとするものが生きていると思ったのです。
私は、ボイスレコーダーが壊されていないか不安を感じながら、後ろを見ないで帰路につきました。


 完了

読んで頂きありがとうございました。



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[ 2007/09/08 19:10 ] 家翳 | TB(0) | CM(0)

静かの海27 

 あ、先生、ちょっと、待って、待って!
先生、そろそろ、窓の景色、変えてもらえまっか。
精神が落ち着くちゅうんで、まあ、ええか、と思ってたんやけど、飽きて来ましたわ。
え、まだ、そのままの方がええってですか。
しゃ〜ないなあ。
ちょっと、変化があった方がええんやけど・・。
考えといて、おくれやっしゃ。
頼んまっせ・・・。
 ああ、行ってしもたがな。
窓に張ってある景色の壁紙、変えて欲しいわ。
ほんま飽きるで、月から見た地球って、SF映画みたいやがな。
機械操作でボタン押したら、直ぐに画面変えられるやろに・・。
あ〜あ、ほんまに飽きた。
画面、綺麗な、ねぇ〜ちゃんにして欲しいわ。
 ん?
あれっ?
なんか飛んで来たがな・・・。
うわっ、すげぇ〜、ロケットや。 
ロケット、飛んで来たがな、あはは。
先生、気利かして、画面に変化付けてくれはったがな。
あはは、おもろいがな。
ロケット、降りて来たで。
ちゃ〜くりく、ドッスンっと。
 およっ、扉開いて、誰か地面に降りて来よったで。
ふ〜ん、アメリカの旗、地面に立てとるがな。
日本の旗の方が良かったのに。
何、しとんにゃろ?
ウロウロ、ピョンピョンして。
 ん、こっち見よった!
何か、ビックリしとるで?
あれっ、もう、帰りよるわ。
えらい、慌てとるがな。
あはは、おもろ、ロケットの噴射で、旗、倒れたがな。
あはははは。




完了

読んで頂き、有難うございました。



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[ 2007/09/04 18:17 ] 静かの海 | TB(0) | CM(0)

静かの海26 


・・・・ゃん、お集まりのみなしゃん、わいは、一番だっせぇ、一番だっせぇ。
思い起こせば、苦節五十年、国鉄から打って出て、見事、当選でんがな。
故郷のおかぁ〜ちゃん、わいの晴れ姿だせぇ、どこ、どこのカメラや、これか、イーッ、ヒッ、ヒッ、ミヨちゃ〜ん、見てるぅ、わいだっせぇ、わいだっせぇ、おと〜ちゃ〜ん、おかぁ〜ちゃ〜ん、わいだっせぇ、テレビ映ってまっせぇ〜、おかぁ〜ちゃ〜ん、おかぁ〜ちゃ〜ん、おか・・・・・。
 いやや、いやや、わいは降りとうない、離せ、離せ、わいは、一番やでぇ、一番で議員やでぇ、おかぁ〜ちゃ〜ん、おかぁ〜ちゃ〜ん、おかぁ〜ちゃ〜ん、いやや、いやや、離せぇ、離せぇ、堪忍や、堪忍や、そないなぎょうさんで、ドサクサに紛れて殴らんといてえなあ、おかぁ〜ちゃ〜ん、おかぁ〜ちゃ〜ん、おか・・・・・・・。


“ ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、プーン。”

 おっ、昼飯や・・・・・、幻覚?
あっ、先生、いたんでっか。
また、幻覚みたいなもんが見えたような気が・・・・・・。
わいに、薬、ほんまに効いてまっか?
この病院に入院して、部屋に籠もって治療してるのに、なかなか直らへんし、薬、変えた方が、・・・・・・。
 そうでっか、効いてまっか。
大丈夫でっか。
アル中で気ぃ失って、道に倒れてて、ほんで、救急車で、ここに来ましたんでっしゃろ。
運び込まれてから、もう、だいぶん経ちまっせ。
頭の怪我は、おかげさまで治りましたけど・・。
へえ、そうでっか、まだ、不安定でっか。
 この病院、保険で費用いりまへんにゃろ。
費用がいったら、逃げ出してるとこですがな、へへへ。
もっとも、新薬の調査には協力してますけどな・・。
それで、治るの、いつ頃まで掛かかりまっか?
 えっ、半年でっか。
半年で健康体でっか、それ、ちょっと長いでんな。
へえ、へえ、そうでっか。
でもまあ、完全な健康体やったら、しゃ〜ないでんな、よろしおま。
そうでっか、そうでっか、よろしおま。
 今日は、これで診察、終わりでっか?
そうでっか。
また、明日、診察でっか。
そうでっか。
ほな、先生、よろしゅうに、頼んまっさ。



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[ 2007/09/03 20:32 ] 静かの海 | TB(0) | CM(0)

静かの海25 

 ん?
やあ、お侍さん、何処まで?
あ、江戸まで、総裁によろしゅう言うといてや、ほな、ごめんやす。
大名行列、行ってもうたわ。
 オッ、トッ、トッ、トッ、蹴躓くがな。
こら、こら、二人も一遍にやるな、こっちのOLわいのもんや、なんやて、ええ方取るなてか。
何、言いさらしとんねん、じゃっかましいわ。
わいを誰やと思とんねんな。
電車の運ちゃんやでぇ。
 運ちゃん、偉い!!
 運ちゃん、王様!!
 運ちゃん、天皇!!
 運ちゃん、一番!!
 運ちゃん、ターザン!!
ア〜ア、ア〜、ア〜ア、ア〜〜〜〜〜〜。
ヨ〜、分かったか、フン!
 あ〜、ええ姉ちゃんや、今度は、ホンモノや、ええ乳しとるでぇ、なあ、もう、うっとりして、待っとれよ、なあ、もっと、もっと、気持ちようしたるで、なあ。
 こらっ、そこで立ち小便しているネコ!
キョロキョロすんな、お前や!
紫のネコ、お前や。
目障りや、どっか行け!
 ほんま、しゃ〜ないネコや、気が散って集中出来ひんやないけ、なあ、姉ちゃん、もっと、もっと、気持ちようしたるで、なあ、電車の振動も、ちょうどええがな、ほんで、こうして、こうして、こうしてやなあ、どや、気持ちええやろ、わいも気持ちようなって来たがな、なあ、これが生きてる証拠やでぇ、わいはなあ、わいはなあ、生きとるでぇ、生きとるでぇ、生きとるでぇ、生きとるでぇ、生き・・・・・・。



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[ 2007/09/02 17:39 ] 静かの海 | TB(0) | CM(0)

静かの海24 

 お〜し、お〜し。
わいが、止め刺したるでぇ、この扉、外してやなぁ。
くらえっ!
当たった、当たった、運ちゃんに当たったがな。
勝利や、勝利や、わいら、勝ったんやでぇ。
見てみいな、見てみいな。
私鉄の奴、引込み線に突っ込んで、民家にぶち当たりよったやないけぇ。
 マイク、マイク、また、舌廻って来たでぇ。
勝利やぁ、勝利やでえ、わいら、勝ったんや、勝ったんや、団結の勝利やでえ、みな兄弟や、兄弟やでぇ、わいら、強いんやでぇ、なあ、ああ、えらい興奮して来たわ。
グビ、グビグビグビ、ヒ〜、この酒、喉から下の方へ、ビリビリ来よるがな。
ええでぇ〜、ええでぇ〜、もう、ええでぇ〜、何してもええでぇ〜、乱交パーティや、なあ、もう、好きにしてええでぇ、団結の勝利やがな。
わいも、やらなぁ、なあ、さっき、セーラー服に逃げられとるにゃ、なあ、戸開けて、なあ、電車、ちゃんと走っとるわ、自動操縦や、どうもないわ。
 ややっ、ピンクの象が走っとるがな。
聖徳太子が、吊り輪やっとるがな。
うわっ、大名行列が窓から入って来よったで。
 ええわ、ええわ、別にええわ、わいは、あれ出来たら言う事無いにゃ、みな、絡み合っとるがな。
こらっ、そこの頭の薄いおっさん、どけ、そいつは、わいのもんや、ヒッ、ヒッ、ヒッ。
見てみいなぁ、ええ乳、ええ乳・・・・・・・・。
乳、あらへんがな、・・・・・・・。
ぎゃっ、オカマや、オカマやがな、変なもん触ってしもたがな。
シッ、シッ、あっち行け、気持ち悪、えっ、サービスするてか、アホか、あっち行け。
あ〜、びっくらこいた。



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[ 2007/09/01 21:00 ] 静かの海 | TB(0) | CM(0)
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