海亀21 

 私、Mのでかい家に入りました。
Mの家の玄関のフロア、広いですよ。
和風の家でね。
金、掛けてますよ。
欅の衝立とか、壺の置物とか置いてあるんです。
 家の中は、静かでしたね。
それでね、Mに連れられて廊下の左にある応接室に入りました。
応接室はね、革張りのソファーとかあってね、和洋折衷ですよ。
でね、Sは奥のソファーで寛いで座ってましてね。
とりあえず、私はSに挨拶したんです。

「 昨日は、ありがとう、美味しかったよ。」
「 気に入ってもらえて良かったよ。」

 Mは、Sの向かい側に座ってSとの話の続きを始めました。
私は横に座って、しばらく二人を見ていたんです。
その時、特に変わったことは感じなかったですね。
普通なんですよ、二人とも。
どうなっているのかって言う疑問はありましたけどね。
それに、私、鞄の中の原稿をどうしようか迷ってました。
 SとMの話の内容はね、金の話でしたね。
Sは、Mに巨額の融資を頼んでいる最中だったみたいでね。
自前の店を持つための資金の交渉ですよ。
 儲け話に聡いMは、料理の味や店の客の入り具合を考えて乗り気だったですね。
それで、即決ですよ。
上機嫌で資金の融資を了承して、インターネットでSへの振り込みの指示をしましたね。
そんなに早く決めていいのかなって思いましたけどね。
まあ、二人の話ですからね、私、関係無いですからね、口を出す所じゃ無いでしょう。
SもMも、話がまとまって、その時、上機嫌だったですよ。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/28 18:06 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀20 

 坂道を登り切って、Mの家のインターホンを押しました。
私、誰も出て来ないんじゃないのか、なんて思いましたけど・・。
ところが、予想に反してMはいつもと変わらない様子で、インターホンに出て来たんですよ。
私としては、意外だったですね。

「 どちらさん?」
「 私だ、ちょっと、海亀のスープについて話がある。」
「 あ、丁度いい、今、Sが来ているところだ。
 入ってくれ。」

“ Sが、来ている・・・。
Sは、何をするために来たんだろう?”

私は、分かりませんでした。
玄関まで私が進むと、家のドアが開いて、Mが顔を出しました。
特に慌てている様子も無く、普段通りのMでしたね。
私は、ホッとすると同時に、家族の様子も玄関口で尋ねて見ようと思いました。

「 家の人は、いるのかい?」
「 いや、家内は買い物だし、息子は、塾に行っているので俺一人だ。
 きのう、お前から電話があって、その後、遅くに息子は帰ってきたよ。
 帰りのタクシーが接触事故を起こして、時間を食ったらしい。
 ま、怪我も無かったし安心したよ。」

 私は、いい意味で肩透かしを食らったと言うことです。
私の悪い予感は、ことごとく外れました。
私は、自分の思い込みの激しさに、ちょっと恥ずかしくなりましたね。
ただ、ここにSがいる事は気にはなっていました。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/27 17:22 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀19 

 次の日の日曜日、気になったので、Aから送られたファクスを鞄に突っ込み、朝から雑誌社に顔を出してから、直ぐにSの店へ出かけました。
でも、Sの店は閉まっていて留守みたいでね。
それで、Sが何処に行ったのか気になって、店の前でSに携帯を入れようとしたんですよ。
でも、携帯が鞄に無いんです。
慌てていたから、携帯を雑誌社の机の上に忘れてきたことに気が付いてね。
しかたがないので、Sの店の周囲を調べてみる事にしたんですよ。
記者根性って言うのですかね。
 店の正面の扉も窓も、鍵が掛かっていましてね。
窓から覗くとレースのカーテン越しに室内は見えましたが、Sの姿はありませんでした。
店の駐車場をまわって、側面のすりガラスの窓も調べましたが鍵が掛かっていました。
 店の裏にも行ってみました。
裏口の扉にも鍵が掛かっていて開かなかったですね。
そして、その扉には、小さなガラス窓が付いていたんですよ。
覗いて見ると、厨房の大きな冷蔵庫が見えました。
それを見た瞬間、寒気がしましたね。
 冷蔵庫の正面には、一枚の薄汚れた紙が貼り付けてあったんです。
そこには、中学生が殴り書きしたような汚い字で「石刻」と書かれていました。
普通、そんな紙を冷蔵庫に貼りますか。
貼るわけないでしょう。
あの冷蔵庫に、何が入っているのか。
私、おぞましい思いにゾッとしましたね。
 それで、私、Mの家に急いだんです。
Mからの連絡は無いし、M自身にも危険性があるかもしれないでしょう。
私、Mの家に続く坂道を登りながら、悪い出来事ばかりを考えていましたよ。
とにかく、私は、道を急いだんですね。




☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/26 18:59 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀18 

 私、一つ、事件を思い出しましてね。
かなり以前だったんですがね、あったでしょう。
同窓会殺人未遂事件ですよ。
えっ、覚えてないですか・・、ほら、あったでしょう。
覚えてないですか・・・・、じゃ、掻い摘んで話しますね。
 中学でいじめられた男が15年後、同窓会の幹事になって全員を呼び出し、砒素の入った外国製のビールを造り、爆弾を作成した事件ですよ。
そのために、工業高校、工業大学に進み、化学や機械の知識までも仕入れて準備しました。
驚きますよね、その執念に。
幸い、母親が息子の部屋から、殺人計画書を見つけ、警察に届け出て男は逮捕され、事無きを得た事件ですよ。
 記事を読んでいて、加害者は押し並べていじめに該当することは無かったんじゃないかと言ったことが印象的でしたね。
被害者の受ける感覚と加害者の受ける感覚では、大きな違いがあると言うことです。
まして、表立っていじめにあっていたSにとっては耐えられるものでは無かった筈ですよね。
 Mの妻は実家に行っているので大丈夫だろうと思いました。
でも、Mの息子は、午後3時に家を出た、そして、午後6時過ぎ、我々は海亀のスープを飲んだ、午後10時息子はまだ帰っていないんですよ。
それも、いつもより大幅に帰りが遅いのです。
 私の考え過ぎでしょうかね。
今日、Sの眼に以前と違う何かを感じていたしね。
それは、狂気だったんでしょうかね。
私には、まだ分かりませんね。
 それでね、Sの方にも、料理にかこつけて、探りの電話を入れましたが不在でしてね。
Mからの連絡も無いままなんで、遅くに、もう一度、Mにも電話を入れてみたんですが、留守電になって繋がらないんですよ。
私、胃のあたりに不快感を持ったまま、その日は終わってしまったんですよ。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/25 18:00 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀17 

 私、中学校当時のことを、もう一度思い出していました。
私ね、一度、Sの一番大事なものが何か聞いた事があるんですよ。
何だと思いますかって言っても、当てるのは無理ですよね。
答えを言いますね。
それはね、唯ひとりの肉親である母親と一緒に撮った写真だったんですよ。
何かの拍子にポロって言ったんです。
かなり前の話ですけどね。
私、覚えてました。
 私、まともな人間に見えますか?
喋っていても、普通ですよね。
今、普通ですよ。
でもね、昔は酷かったですね。
 私は、悪い奴ですよ。
私、Mに言って、それを破り捨てさせたんですよ。
Mですか、Mは私の操り人形ですよ。
実は、いつもいじめのアイデアを出していたのは私なんです。
とんでもない奴ですよね。
いつもね、Mは面白がって私の言った通りにSをいじめてました。
 私はね、中学当時両親がうまくいっていなくてね、袋小路状態だったんですよ。
家庭の不満の捌け口をSをいじめることで晴らしていました。
自分より、もっと不幸な者を求めていたのですよ。
嫌な性格ですよね。
そんなことを知らないSは、私じゃなくて、心底Mを恨んでいましたよ。
 黒幕を知らないSは、いじめに表面上は加わっていない私に、卒業式の日、一生かかっても必ずMの最も大事なものを叩き潰して仕返しをしてやるとはっきり言ったんですよ。
その言葉を最後に、Sはみんなの前から消えました。
誰にも言えない不満を、唯一、彼から見て害の無さそうな私にぶちまけたのだと思いますね。
 そしてね、私もね、そのときを最後に、Sの顔を最近取材するときまで見ることは無かったんですね。
それでもね、Sの言った事は、ずっと私の中に変わらず残っていましたし、取材した後も、気にはなっていましたよ。
当然のことでしょう。
だから、私は、同窓会で談笑する二人を見て、すごく不思議な気がしたんですよ。




☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/24 19:02 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀16 

 読んでいる途中から、私、嫌な考えが湧き上がって来ました。
私は、私の考えたことに軽いめまいを感じましてね。
今日の、海亀のスープは本当に海亀のスープだったのだろうかって・・。
初めての味では判断できないですよね。
味、知らないですからね。
私は、今日、Sの眼に以前と違う何かを感じていたこともありますしね。
 Mには、妻と息子がいるんですよ。
私は、胃の辺りに違和感を感じましたね。
ちょっと気分悪くなりましたよ。
まあ、まさかとは思ったんですけどね。
電話を取って、Mに探りを入れて見たんですよ。

「 もしもし、Mか。
 今日は、ありがとう。
 海亀のスープについて何か調べたか?」
「 いや、まだだ。
 さっき、調べかけたら、小笠原の特産らしいが。
 何か分かったか?」
「 いや、これから調べるんだ。
 君のところは、いつも家族揃って夕食なんだろ。
 今日は、お前がいなかったから、奥さん寂しいなんて言ってるんじゃ
 ないか。」
「 なかなか家族揃っての夕食は、毎日は無理だな。
 息子の塾があるからな。
 今日は、家族バラバラで夕食だよ。 
 今、家にいるのは俺一人だよ。」
「 あれ、みんなどうしたんだ。」
「 家内は、実家に行っている。
 息子は、まだ、塾から帰っていない。
 いつもなら、一時間ほど前には帰ってくるんだが、遅いのでちょっと
 気になっている。
 今日は土曜日だから、午後3時ごろから弁当を持って、出て行ったま
 まだよ。
 まあ、そのうちタクシーで帰ってくるだろう。」
「 そうか、それは、ちょっと心配だな・・。
 また、海亀のついて何か分かったら連絡をくれよ。
 こちらも、調べが完了したら連絡するよ。」
「 分かったよ。」
「 それじゃ。」

 私は、電話を切りました。
Mの息子は、まだ、家に帰っていない。
そう、帰っていなかったんですよ。
 私、思い出しました。
海亀のスープについて調べろと言って、にやっと笑ったSの顔が何か不気味でしてね。
言うは水に流す、聞くは石に刻むって言うでしょう。
彼は、本当に昔のいじめを水に流していたのでしょうかね。
普通、覚えてますよね。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/23 19:43 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀15 

 船乗りは、長い療養生活を経て病院を退院した。
病院の不味い食事ばかり食べていた彼は、おいしい料理を食べたいと退院した翌日の夕方、海辺のレストランに入った。
メニューを見た彼は、メインの肉料理を注文した後、レストランの壁に懐かしい名前の料理を見つけた。

“当店自慢の海亀のスープをご賞味ください。”

彼は、店の主人に聞いた。

「 海亀のスープがあるのか?」
「 ええ、海亀は、たまにしか入らないのですが、今日は入っていま
 す。
 珍しいですし、とても美味しいですよ。」
「 食前のスープにもらおうか。」
「 わかりました。」

 彼は、久しぶりに食べる海亀のスープを楽しみにしていた。
やがて、出来上がったスープが運ばれて来て、彼は、わくわくしながらスプーンで一匙飲んだ。
彼の表情が変わった。
 この店の海亀のスープは、塩気が強く水気も多くさばさばしていて、おいしくはなかった。

「 おかしい、味が違う。」

彼は、もう一口スープを飲んで、店主に尋ねた。

「 これは、本当に海亀のスープか?」
「 ええ、そうですが、何か。」

 彼の、表情がみるみる変わって行った。
無人島で飲んだ海亀のスープとは、ぜんぜん違う。
船乗りは海亀ではないスープを飲んでいたことを確信した。
あのスープが海亀では無かったとすると、いったい何のスープだったのか。
 彼は、海亀のスープが出る前日、恋人を失っている事に気が付いた。
彼の表情が暗く落ち込んでくることが、店主にも分かった。
そして、彼はメインの肉料理を待つまでもなく、ポケットにあるだけの金をテーブルに置いて店を出て行った。
 次の日、崖から飛び降りた彼の死体が浜に打ち上げられていた。

以上です。

 『 また、明日感想を聞かせてください。
  それじゃ。
  Aでした。』




☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/22 18:12 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀14 

 考えてくれましたか?
それでは、答えです。
ポイントは、船乗り、病院を退院、海亀のスープの味を確かめてから表情が変わった、の三点です。
解答は、色々な人が作っていますが、大筋では似ています。
その中で、私の知っている範囲では、これが一番かなと思います。

  ( 解 答)
 スペインの町で、船乗りは新大陸に行って新しい生活を始めようと思っていた。
新しい恋人ができて、今度こそ危険な生活から足を洗って海からあがろうと考えていた。
スペインから新大陸へ行く船は、危険もあって多くはなかった。
彼は、船乗り仲間の船長に頼み込み、今まで貯めた金を使って、恋人と2人で小さな船に乗ることに成功した。
 航海は、一日、二日はとてもいい天気だった。
しかし、三日目、昼頃から海は時化始めていた。
夕刻には、既に空は黒い雲に覆われ、どしゃ降りの雨と強風に見舞われた船は、操縦不能の状態になっていた。
夜、船は大きく傾き沈んでしまった。
船乗りと恋人は、嵐の吹きすさぶ中、船の救命胴衣を身に付け、板切れに掴まって海を漂った。
 次の日、気が付くと2人は周囲6キロメートル程の小さな無人島に流れ着いていた。
2人の他には、船乗りの友人の船長と、船員が3人流れ着いていた事が分かった。
無人島での6人の生活が始まった。
まず、簡単な小屋を作り、雨露をしのいだ。
しかし、食料は、嵐で流され何も無かった。
無人島を探すと、水はあったが、食料になりそうな物は少なく、食べる物は海から取れる海草や小さな魚が中心となった。
6人は日に日に痩せて行った。
特に船乗りと船乗りの恋人は、厳しい生活に衰弱が激しかった。
 何日か過ぎて、船乗りは衰弱した体を引きずって島の奥に木の実を探しに行った。
そして、帰って来ると、恋人がいない。
どうしたのかと、船長たちに問いただすと海草を取りに行った時、深みにはまって潮に流され見失ったと言う答えだった。
船乗りは、嘆き悲しんだ。
 次の日、衰弱した船乗りが小屋で横になっていると大きな声で、海亀が獲れたと言う声が聞こえてきた。
しばらくして、船長たちは、海亀のスープを作って船乗りに持って来た。
船乗りは、いままで飲んでいた魚のスープとはまるっきり違った海亀のスープを飲んでおいしさを実感した。
 そして、数日間、焼いた魚と海亀のスープは続いた。
海亀のスープが出なくなって、二日後、近くを通りかかった船に発見されて、船乗りは故郷のスペインに戻った。
船乗りは、体の衰弱を回復するため、病院に入院する事になった。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/21 17:53 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀13 

 午後9時半ごろ、Aから、ファックスが送られて来たんですよ。
楽しみにしていて下さいって言っていた奴ですよ。
ファックスには、海亀のスープについての原稿が書いてありました。
ビール片手にね、私、読みました。

 『 ファックス送ります。
  何人かに、問い合わせて、まとめて見ました。
  できれば、問題を考えて見てから、答えを見て欲しいです。』

   ( 問題 ) 海亀のスープ
 17世紀半ば、長い療養生活を経て病院を退院した船乗りがいた。
病院の不味い食事ばかり食べていた彼は、おいしい料理を食べたいと退院した翌日の夕方、海辺のレストランに入った。
メニューを見た彼は、メインの肉料理を注文した後、レストランの壁に懐かしい名前の料理を見つけた。

 “ 当店自慢の海亀のスープをご賞味ください。”

彼は、店の主人に聞いた。

「 海亀のスープがあるのか?」
「 ええ、海亀は、たまにしか入らないのですが、今日は入っていま
 す。
 珍しいですし、とてもおいしいですよ。」
「 食前のスープにもらおうか。」
「 わかりました。」

 彼は、久しぶりに食べる海亀のスープを楽しみにしていた。
やがて、出来上がったスープが運ばれて来て、彼は、わくわくしながらスプーンで一匙飲んだ。
彼の表情が変わった。
彼は、もう一口スープを飲んで、味を確かめてから店主に尋ねた。

「 これは、本当に海亀のスープか?」
「 ええ、そうですが、何か。」

 彼の、表情がみるみる変わって行った。
彼の表情が暗く落ち込んでくることが、店主にも分かった。
そして、彼はメインの肉料理を待つまでもなく、ポケットにあるだけの金をテーブルに置いて店を出て行った。
次の日、崖から飛び降りた彼の死体が浜に打ち上げられているのが見つかりました。

 さて、何故彼は自殺したのでしょうか?



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/20 12:38 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀12 

 しばらく読んでいると、隣のデスクから同僚のAが、私の読んでいる本を覗き込んで尋ねて来たんですね。

「 すごく熱心に読んでますね。
 何を調べてるんですか。」
「 海亀のスープだよ。」
「 えっ、なつかしいな〜。
 昔、流行りましたよ。
 もう、20年ぐらい前ですよ。
 学生に流行っていたと思います。
 今も、リバイバルで流行ってるんですか?」
「 小笠原に行った事があるのかな?」
「 小笠原じゃないですよ。
 推理力クイズの問題ですよ。」
「 何かな、私は知らないが。」
「 分かりました、原稿を作って、後で自宅のファックスに送ってあげ
 ますよ。
 楽しみにしていてください。」

Aは、なつかしいを連発して去って行きました。
私は、訳も分からず、まあ、いいかと本を読むのを止めたんです。
 それからね、少し、疲れた気もしたので、途中で仕事を切り上げて家に帰りました。
家に帰っても、特に迎えてくれる人もいないですけどね。
家内と子供は、別居中ですからね、一人ですよ。
やっぱり子供が居ないと活気が無いですね。
ま、風呂を沸かして入ってね、一人で野球中継を見ながらビールを飲んでました。




☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/19 18:51 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀11 

 Mが、続けて言いました。

「 いやあ、今日はありがとう。
 すばらしかった、お世辞じゃなくて、心から思うよ。」
「 気に入ってもらって良かったと思ってます。
 海亀のスープについては、必ず調べて見てください。
 もっと、色々なことが分かると思います。
 本当に、色々なことがね。」

Sは、にやっと笑いました。
料理に満足して、Mも私も返事をしたんです。

「 そうするよ、なにしろ珍しいからな。」
「 私も調べて見るよ。」

 Sが、追加の酒を厨房から持ってきて、Sもテーブルにつき三人で料理内容の検討を行いました。
一通り話しが終わると、仕事の残りがあると言って、私は早めに席を立ちました。
MとSは、さらに話を続けていましたね。
 私は、午後8時過ぎ、仕事を片付けに雑誌社に戻りました。
午前中からしていた記事の校正が終わって、時間があったので、ちょっと先程の料理の資料を調べようかと思ったんですよ。
書庫を調べて、小笠原で海亀がらみの料理がある事が分かってね。
それから、参考になりそうなフランス料理の本も探し、両方をどっさりデスクの上に置いて読み始めたんですよ。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/18 18:48 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀10 

 ワインから始まって、順次出て来る料理は、本場仕込みの満足できるものばかりでしたね。
一つずつ出て来る料理ごとに、Mはコメントを言ってましたよ。
どれも、賞賛の言葉ばかりです。
料理を食べ終わって、Sがテーブルに座った時、Mが全体の感想をSに述べたんです。

「 やはり途中に出た海亀のスープだな。
 これが意表をついて、これから出て来る料理に高い期待を抱かせる。
 期待しているから、普通に食べるのではなく、どんな隠し味があるの
 か、味わいながら食べるようになるんだ。
 すばらしい料理の流れだと思うよ。」
「 そうです。
 そこが、狙いなんですよ。
 それがあって、初めて注意深く味わっていただけるんです。
 その上で、フランス料理は、素材と下味付けとソースに大きな意味が
 あるんですね。
 微妙なうまみが滲み出すんですよ。」

Sは、私をちらっと見ましたけど・・。
私は、Sの眼に、以前取材したときと違うものを感じたんです。
はっきりじゃないですが、違和感と言うんですかね。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/17 19:22 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀9 

 それでね、11月14日がやってきました。
朝から、少し肌寒い曇った日でしたね。
私は、夕方、雑誌社の仕事を途中でストップして、取材だと言ってSのレストランに急ぎました。
Sのレストランには、午後6時少し前に着いたんです。
 私は、軽くSに挨拶して、準備してある中央のテーブルにつきました。
店内は、ブラウンに統一されて落ち着いた雰囲気でしたね。
静かなバロック音楽を聞きながらMを待ちました。
10分程して、Mが現れました。
Mが私の向かいの席につくと、奥からSが現れてね。
Sが、私たち二人に言ったんです。

「 これが、きょうのコースメニューだよ。
 色々な隠し味が含まれているので、注意して味わってくれよ。」

Sが、コースメニューをメモしてある紙を、私とMに一枚ずつ渡してくれました。
内容を見て、私はボリュームが有りそうだから、心してかからねばと思ったんですよ。


           今日のコース料理

           トマトの小さなパイ

         オマールのクリームとジュレ

            青海亀のスープ

   トマトのタルトにルジェ、黒オリーブのオイル、香草添え

   ブレスの鶏、ピノデシャラン風味、きのことマカロニ添え

 ピエ・ド・コションのガレット、緑キャベツ添え、茶トリュフソース

    メレンゲとプラムのコンポート、クレームブリュレ添え

アーモンドのヌガティーヌ、温かい林檎添え、アーモンドミルクのアイス

     ルイ・ロデレールのL’Ambroisieシャンパン

    ワイン、ラングドックルーションの小アペラシオン



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/16 20:05 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀8 

 それでね、三週間ほど間をおいて、Mから連絡がありました。
一週間後の11月14日の土曜日、午後6時からフランスコース料理の晩餐会を持つ事になったんですよ。
一時間の食事と30分程の検討会と言うことでね。
場所は、Sのレストランです。
当日は、Sの店は臨時休業ということで、晩餐会の準備すると言うことでした。
この三週間、私は仕事が忙しく、特にスープについては調べもしませんでした。
Sに言われたように、事前に調べておくべきだったと今では思いますけどね。
 Sのレストランは、一戸建てで国道から少し入った所にあるんですよ。
Mと私の家のちょうど真ん中ぐらいです。
私の家から歩いて、20分ぐらいですね。
雑誌社からも、そう遠くはありませんよ。
前にあったフランス料理店が潰れてね、その後、賃貸でSが店を始めたんです。
 Mの話では、前の店はひどい味で潰れるのは時間の問題だったようでね。
でも、Sが店を始めてから、そこそこ客足も出て来たようですよ。
Mの家から、だらだら坂を下りてしばらく行くと、小奇麗な塔と暖炉の煙突のようなものが付いている店なんですね。
 私は、店の中に入った事はなかったんですが、Mは、たまに夕食をそこでとっているようでしてね。
だから、味の方は問題は無いはずだと思いましたし、どんな料理が出て来るか楽しみだったんですよ。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/15 17:45 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀7 

 私は、Sに言ったんです。

「 そうだな、それはいい企画だ。
 こちらから頼みたいくらいだよ。
 料理特集も、最近マンネリぎみで、読者の反響も少なくなって紙面の
 割合も減ってきつつある所だから、刺激のある変わったものがいいな。
 温故知新に、刺激的な味付けが欲しいな。」

それに答えて、Sは言ったんですよ。

「 ああ、それは大丈夫だ。
 20世紀初頭のフランス料理を再現しながら、現代的なアレンジをし
 てみるつもりだ。
 当時からある、充分刺激的な材料を考えている。
 ヒントは、スープに海亀を使うんだよ。
  全部言ってしまうと面白くないから、当日のお楽しみと言うことで
 いいだろう。
 もう少し調べないといけないから、準備ができたら連絡する。
 ま、スープについては、言ってしまったから、二人とも下調べをして
 きたらどうかな。」

そして、Mは確認の為に私に言いました。

「 それじゃ、三人で研究会と言うことでOKだな。
 日時は、Sから連絡してもらおう。」
「 そうだな。」

 それで、三人とも同意して研究会が確定したんです。
そして、私は、他の者がビールを注ぎにMの所にやって来たので席を立ったんです。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/14 16:56 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀6 

 ま、それは、ちょっと置いといて、同窓会の話に戻しますよ。
酒がまわってきて、宴会の場がばらけてきた頃、しばらくしてMが私を手招きで呼ぶんですよ。
私は、何かなと思ってMとSの席にビールのビンを持って移動してね。
そして、とりあえず、MとSにビールを注いだんですよ。
ビールを一口飲んだMは、酒に酔って赤い顔をして私に言ったんですよ。

「 お前、俺と一緒にSの料理を食べないか。
 今、Sから、今度20世紀初頭のフランス料理をもとに、新しい料理
 を実験することを聞いてな。
 それで、世間に公表する前に、料理評論家の俺に味見をしてほしいと
 Sから話があってな。
 Sから、お前も一緒に来たらどうかという申し出があったんだ。
  俺一人で食べても面白くないし、ある程度料理の分かる人がいいと
 言う事でどうだろう。
 お前なら色々な料理関係の記事も書いているしな。
 実際、色々な料理を食べてみた経験も無いと比較もできないだろ。
 それに、前にお前もSの記事を雑誌に載せたそうじゃないか。
  今度、グルメの特集の企画があると、この前言っていたよな。
 Sには宣伝にもなるし、お前は記事のネタにもなるし、面白いと思う
 が、どうかな。」

これは、いい流れかなって思って、私は同意しましたね。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/13 21:17 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀5 

 えっ、理由ですか。
そうですね、ま、簡単に言うと、そいつ家が貧乏でね。
それをネタに中学の頃、ひどいいじめを受けていましたよ。
中学を卒業してからのことは、当時は詳しくは知らなかったんですがね。
噂によると、中学を卒業して直ぐに住み込みの旅館かホテルの下働きをしていると言う話を聞いたことがありましたね。
 同窓会でね、MとSが隣同士で座ってるんですよ。
不思議な感じがしましたね。
Mは、いじめの実行犯の中心だったしね。
いじめられていたSが、同窓会の時、Mと隣同士の席で談笑していたんですよ。
人は、それほど寛大なものなのかなって正直思いましたね。
中学の頃なら考えられない光景ですよ。
 私ね、同窓会より前に会ってるんですよ、Sと。
有名なホテルの厨房にいたんですよ。
去年ですよ。
私、Sに一度取材をしてるんですね。
始め、私はシェフの服を着ているSを見て、Sとは分かりませんでしたね。
でも、Sの方は私の顔を見るなり、同じクラスだと即座に私に言ったんですよ。
 そりゃあ、驚きましたよ。
あまりにも変わっていたもんですからね。
中学の頃のおどおどした様子は消え失せてね。
大きく変わってましたよ。
料理に対する自信からでしょうね、落ち着いた表情だったですね。
 話を聞くとね、苦労してましたよ。
東京での苦しい下働き、フランスへ渡ってからの修行と業績の積み重ね、日本に戻ってからの実績作り、私とは比較にならない苦労をしている事が取材で分かりましたね。
でもね、中学の頃の苦しい思い出って避けたいでしょう。
顔を見たら色々思い出してしまうでしょう、どうしても。
同窓会には来ないと思ってましたね。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/12 18:49 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀4 

 Mは、今も、地元の大きな家で、妻と息子の三人で裕福に幸せに暮らしていますよ。
息子はね、有名中学を目指して、お受験で塾に通わせていますね。
Mは代議士を継ぐ気は無いようで、息子を東京に住んでいる代議士の祖父の跡継ぎと考えているみたいですね。
同じ小学校の3年生の子を持つ私と大きな違いですよ。
 えっ、私の子供ですか。
私の子供は、男の子一人です。
私は、妻とはうまくいかなくってね、妻は実家に子供を連れて別居中です。
まあ、離婚することになると思いますね。
子供をどちらが引き取るか決まればね。
子供を私が引き取ることを、離婚の条件にしてるんですよ。
そりゃあ、子供はかわいいですよ。
でも、どうなるかは分かりませんがね。
 私は、Mをうらやましく思っているんでしょうね。
自分と比較して、何もかも上手くいっているんですからね。
 ちょうど私の担当分野が料理でしょう。
ここ数年Mと話しをする機会も何回かありましてね。
ええ、取材ですよ、昔の誼でね。
色々、料理意外の話も聞きましたよ。
だから、Mの内部事情にも詳しくなりましたね。
 それでですね、その同窓会に、もう一人、料理関係の奴がいたんですよ。
Sって言うんですがね。
フランス料理の料理人となってましてね。
私、そいつは同窓会に来ないと思ってました。
でも、来てたんです。
不思議に思いましたね。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/11 20:43 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀3 

 それでね、その同窓会にMって奴が来てたんですよ。
今度、私の所の雑誌で、秋のグルメ特集の企画があってね。
同窓会をやろうって話が出て来る少し前に、Mに この企画の話をしたばかりだったんですよ。
 知りませんか、Mを?
そうですか、知らないですか。
Mと言うのはね、料理評論家として、そこそこ雑誌に名前が載るほどですけどね。
 もうちょっと、Mについて解説しましょうか。
家が、もともと地元の代議士でね、地元でも有数の大きな家に住む、お金持ちのわがままおぼっちゃんなんですよ。
親に連れられ、あちこち食べ歩きしているうち、親の職業もからんでね、このグルメブームに乗っかってコメントを書いているうち名前が知られるようになったんですけどね。
 やっぱり、知らないですか。
そうですか・・・・。
ま、続きです、聞いて下さい。
 そのMって奴なんですがね。
代議士の子供だけあって、お金持ちです。
でもね、お金持ちと言っても鷹揚さは無いですよ。
逆に金銭には聡く、小ずるい金もうけは熱心ですね。
お金持ちって、そんなもんですかね。
Mにとって、この世で一番大事なものは、お金なんだろうと思うことはたびたびありましたね。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/10 19:08 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀2 

 えっ、私ですか。
私は、今、雑誌社に勤めてるんですがね。
たいしたこと、やってないですよ。
東京の私立大学の社会学部を出て、新聞社への就職を希望していたんですがね。
就職試験に落ちて、父親のコネで雑誌社に何とか潜り込んだんですよ。
同じマスコミ関係だから、御の字ですよ。
 えっ、大学の成績ですか。
そうですね、優の数は少なかったですよ。
ぼ〜ってしてましたから。
 あ、今ですか。
毎日、雑誌社で記事を書いてますよ、私。
記事といっても、犯罪のスクープや悪事を暴く記事とは無縁でね。
最近はやりのグルメ料理の特集や温泉や旅行の案内とかが中心で、良く言えば楽な、悪く言えば、刺激の少ない分野ばかりの担当なんですよ。
 そりゃ、 雑誌社に入社した頃は、犯罪スクープを狙って取材していましたよ。
新聞社の感覚でね。
でも、そんなの、なかなか無いじゃないですか。
一つも無しですよ。
特に芽が出ないまま、今では、もう、のんびりと機嫌良くやっていますね。
それでも、一つぐらいは、スクープを一発当ててみたい気持ちは、持ってはいますがね。
でも、実質は、料理担当ですね。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/09 18:59 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀1 

  海亀

 私、気になってるんですね。
ちょっと、どうしようかなって思ってね。
聞いて貰えますか・・・・。

そうですか・・。
一応、話しますがね。
スルーして貰ってもいいですよ。

そうですか、聞いて貰えますか。
じゃ、ちょっとだけ・・・・・。

 少し前、中学校の同窓会があったんですよ。
幹事がサボってたんでしょうね。
25年ぶりですよ。
みんな、すっかりいい年になってましてね。
40才相応なら普通でしょう。
でもね、頭がうす〜くなっていてね、その上、地味なネズミ色の服を着てましてね、見様によっては、50以上に見える男もいましたね。
ま、逆に、派手な服装の奴もいましたよ。
服のせいでしょうけどね、若いまま30前に見えるような変な奴もいましたね。
 私ね、同窓会の会場を見回して、何か、こう、じわ〜って来る懐かしさでいっぱいだったんです。
当然ですよね、25年ぶりですからね。
ガキだった男連中は、仕事が軌道に乗り、自信を持って生きている年代ですよね。
女の子は、自分に家庭生活が溶け込み、当然、もろ、おばさん臭くなってましたね。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/08 18:43 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

深泥沼38 

 深泥沼に行ってから、俺は凄く困っている。
それは、霊が見えるようになってしまったからだ。
先週、俺は法螺に相談した。

「 この前、夜にUちゃんと二人で公園でお話をしてたんや。
 いい雰囲気やなと思った時、俺は後ろから視線を感じた。
 振り返ると、死んだじいさんとばあさんを中心によく似た顔の人達が
 10人ほどニタニタしながら俺たちを見てるんや。
  Uちゃんを家まで送って行ったときも、ゾロゾロ付いて来よったで。
 修学旅行の団体みたいやがな。
 あれ、何とかならんか?
 お前のせいで、いろいろ見えるようになってしもたんや。
 何とかしてくれ。
 先が思いやられる・・・。」
「 ああ、それは、死んだ親戚だよ。
 いいじゃないか、心配して来てくれたんだから。」
「 来て欲しくない。
 都合の悪いときは、追っ払うことは出来るか?」
「 出来るけれど・・・・。」
「 良かった、教えてくれよ。」
「 あはっ、そのうちにね。」
「 今、教えてくれ、頼む!」
「 当分、そのままでいろよ。
 今度、公園に見に行ってやるよ。
 面白そうだもん。」
「 そんな事、言わないで・・・。」
「 やだよ〜ん!!」

俺は、法螺の顔を見ながら頭を抱えた。

そして、今も、まだ、問題は解決していない。


完了

読んで頂き、有難うございました。


次回から、“海亀”を始めます。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/07 17:12 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼37 

 もう少しで、街の灯が見える。
車は、暗闇の中を疾走していた。
ヘッドライトは、薄暗く道を照らしていた。
車のヘッドライトは道を照らしていた。
等間隔に並んだ街灯が、後ろに飛んで行く。
街灯の蛍光灯の灯りが、運転している法螺の顔を青白く通過していた。
 途中、雨が降り始めた。
ワイパーが規則正しくフロントガラスを磨き始めた。
ワイパーのゴムがガラスを擦る音が耳障りだ。
四人とも話をしなかった。
 俺は、今まで起こった事を頭の中で反芻していた。
女の子たちも黙って、ボーっと前を見ていた。
おそらく、みんな先程起こった事を思い出しているのだろうと思った。
時間がゆっくり流れていた。
そして、法螺は運転しながら、俺と女の子二人に静かに言った。

「 おかしいね・・・・。
 みんな、僕を、法螺だと思っているのかな?」

 俺たち三人は、その言葉に凍り付いた。
Sちゃんは、助手席の窓の方に体を寄せた。
俺とUちゃんは、後ろから法螺を見つめた。
法螺は真っ直ぐ前を見て運転していた。
暫く沈黙が続いた。
そして、ようやく法螺は口を開いた。

「 あはは、法螺だよ〜ん。
 怖かっただろ。」

止めの、悪い冗談だ。
隣のSちゃんが法螺を思い切りしばいた。

「 バカ!!」

そして、脅かした罰として、法螺はコンビニで全員分のアイスクリーム代を払わされた。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/06 20:40 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼36 

 疾走する車の中で、Sちゃんが法螺に聞いた。

「 さっきの、あの手は何だったの?
 私、初めて怖いものを見たわ。」
「 ああ、あれは沼から付いて来ていた。
 俺たちをトンネルに誘導したんだと思う。
 理由は分からない。
 トンネル辺りで事故でも起こしたのかな・・・・。
 沼を出発して、僕は、左折の道が分からなかった。
 おかしいなと思ったんだ。」
「 お前、車に一人で残って、よく無事でいられたな。
 よくある話では、大概、残った奴は精神異常でへらへら笑っていただ
 ろ。」
「 へらへらへら。」
「 もう・・・、答えろよ!」
「 これだよ。」

 法螺は、ズボンのポケットからお札を出した。
札には五芒星の印があった。
これは、S神社のお札だ。
法螺は言った。

「 これと、呪で追い払ったよ。
 大丈夫、いなくなった。
 家を出る時、ちょっと予感がしたんだ。
 出発する時、僕は、再度忘れ物を取りに家に入っただろ。
 忘れ物はこれだったんだよ。
 役に立ったよ。」

俺は、法螺は凄い奴だと思った。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/05 19:53 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼35 

 車の運転席側のドアが開いた。
人影がドアから出て、俺たちの方を向いた。
ヘッドライトの逆光で人の輪郭は見えるが顔が見えない。
女の子二人は、手を取り合って俺の後ろに隠れた。
人影は、俺たち三人に言った。

「 遅かったな・・。」
「 法螺か?」
「 待ちくたびれたぞ。
 早く、車に乗れよ。」
「 ほんまもんの法螺だろうな?」
「 偽者だったらどうする?」
「 車のヘッドライトまでさがって、顔を見せろよ。」
「 疑い深い奴だな。」

 人影は後退りして、車の前に出て顔に光が当たった。
法螺の顔が、ニヤッと笑った。
俺は、言った。

「 そこで、ぴょんぴょん跳ねろ!」

法螺は、ぴょんぴょん跳ねた。
法螺のズボンのポケットから何かが落ちた。

「 三回、廻れ!」

法螺は、三回廻った。

「 ワン、と言え!」

法螺は、突然ダッシュして来て、俺の頭にヘッドロックをかけた。

「 いい加減にしろよなぁ〜。」
「 あはは、おもろかった。
 ほんまもんだ。」
「 出発しようぜ。」

法螺は、落としたものをズボンのポケットに仕舞って車に乗り込んだ。
女の子たちも車に乗った。
 俺は、車に乗り込む時、もう一度、車の天井を見た。
天井には汚れも凹みも無かった。

“ さっきの奴は、何処に行ったのか・・。”

 俺は疑問を持ったまま、自動車に乗り込んだ。
俺が乗り込むと、直ぐに自動車は動き出した。
大きなエンジン音を響かせながら、自動車は出口の街灯を無事通り過ぎた。
俺たちは、まだ民家の見えない暗い道を街に向かって走っていた。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/04 19:52 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼34 

 俺たち三人は、トンネルの中を窺った。
トンネルは真っ直ぐで、遠くの方に街灯に照らされた出口が小さく見えた。
でも、自動車は見えない。
車のライトは消えているようで暗かった。
 Uちゃんが俺に言った。

「 あの手、何だったの?」
「 見えたか。」
「 見えたわ。」
「 そうか・・。」
「 そうかって何よ・・。」
「 いや、見えたのは俺だけかって思ったから。」

Sちゃんも言った。

「 私も見えたわ。
 信じられない。」
「 う〜ん。」

しばらくの沈黙の後、俺は二人に言った。

「 助けに行くで。」
「 怖いわ。」

Uちゃんは、かなり怖がっている。
でも、Sちゃんは、きっぱりした口調で言った。

「 でも、行かなきゃ。」
「 そうや!
 その通りや!!」

気合いを入れないと戻れない。

「 俺が先に歩くから、後ろを付いといで。」

 俺たち三人は、トンネルの中を恐る恐る歩いた。
歩きながら、俺は、昔読んだ物語のいくつかを思い出していた。
どの物語でも、取り残された者は悲惨な状態で発見される。
これは、最悪だ。
 しばらく歩くと自動車の輪郭が見えてきた。
車の天井には誰もいない。
あの白い手は何だったんだろう。
 俺たちは自動車に近付いた。
もう少しで、窓から中を覗きこめる位置まで来たとき、突然、自動車のエンジンが掛かった。
俺たち三人は、ビクッとして後退りした。
後退した俺たちは、遠巻きに自動車を見た。
エンジンの回転音が大きくトンネルに響いている。
そして、ヘッドライトと室内のライトが眩しく点灯した。



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/03 20:44 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼33 

「 おわっ!」
「 キャーッ!!」

女の子たちの悲鳴がトンネルにこだました。
俺は叫んだ。

「 逃げろっ!!」

 俺たちは、自動車のドアを開け外に飛び出した。
自動車の後ろの先には、トンネルの入り口が街灯に照らされて見えている。

「 入り口に走れ、早く!」

俺たちは、トンネルを後戻りして入り口に走った。
俺は、女の子たちに言った。

「 前だ、前を走れ!」

 女の子たちを前に走らせて、俺は後ろを走った。
もう、必死だ。
直ぐ後ろに霊が迫っているようで、心臓が止まりそうだった。
複数の足音が甲高くトンネルに響いていた。
息が切れて、酷く苦しいが、そんな事かまっていられない。
とにかく、トンネルから出たかった。
 俺たちは必死に走って、トンネルから抜け出した。
トンネルの入り口近くにある街灯の下で、俺たちは俯いて肩で息をしていた。
しばらく息を整えてから、俺は俯いて荒い息をしている女の子二人に声を掛けた。

「 大丈夫か?」

 女の子たちは顔を上げて頷いた。
頷いたSちゃんが、直ぐに泣きそうな顔になった。
Sちゃんは、Uちゃんと俺に言った。

「 法螺君が居ない・・・。」

 俺は後ろを振り返った。
法螺は居なかった。
俺は、後ろを走っているものと思っていた。
でも、トンネルの入り口に立っているのは三人だった。
Uちゃんが、二人の顔を見て言った。

「 いないわ。
 どうしよう・・・・。」
「 ほんまにおらんわ。
 一緒に車を飛び出したと思ったのに・・・・。」



☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/02 20:00 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼32 

 俺は、窓の外を眺めた。
道の両側は暗い。
そろそろ民家が見えてもいい頃だ。
俺は、法螺に尋ねた。

「 そろそろ、民家が見えて来る頃やな。
 灯りが見えへんと寂しいな。」
「 いや、もうちょっとかかると思う。
 来た時と、道が違うんだよ。」
「 お前、何処走っているのか分かってるんか?」
「 ああ。
 でも、途中の左折の道が分からなかった。
 注意はしていたんだけどね。
 おかしいな。
 まあ、この道を真っ直ぐ行っても帰れるよ。
 遠回りになるけどね・・。」
「 おいおい、道を間違えたんか。」
「 やだわ、早く帰りたいわ。」
「 早く街に出てよ。
 アイスクリーム食べたいわ。
 途中、コンビニでも寄ってよ。」
「 もうちょっとだよ。
 ほら、トンネルが見えてきた。
 あれを抜ければ、直ぐに街だ。」

 法螺の自動車は、トンネルの暗闇に吸い込まれて行った。
自動車のエンジンの音が、トンネルの壁に反響してゴォーと唸っていた。
ライトだけが先を照らしている。
そして、トンネルの中程で法螺が呟いた。

「 来る・・!」
「 何?」

“ ドサッ。”

大きな何かが車の天井に降って来た。
重い響きと振動が車を揺さぶった。

「 うわっ!!」

車はタイヤを軋ませ、右に半回転して急停車した。
俺たちは前のめりになった。

“ ずるっ。”

天井を何かが前に滑った音がした。
俺たちは、顔を上げた。
そして、俺は見てしまった。
法螺の前のフロントガラスに車の天井から白い手が一本ずり下がっていた。




☆奇妙な物語HOMEページに戻る。
  奇妙な物語HOMEページ
[ 2007/07/01 18:18 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)
プロフィール

Author:つぼつぼ7

ねこ

とけい
ブログランキング
・・・・参加ブログランキング・・・・

人気ブログランキング ブログランキング
ブログ王

・−−(押して帰ってネ!)−−・
最近のトラックバック
♪BGM
©Plug-in by PRSU

ポインタ・スイッチ




キーワードの写真ギャラリー
文中の単語をドラッグしてください。