深泥沼31 

 二つの青黒い光は、沼の上を滑るようにこちらに近寄って来ていた。

「 うわっ!!!」

俺の大声でみんな一斉に走り出した。
法螺が走りながら叫んだ。

「 うわっ、まずい、急げっ!!」

 俺たち四人は、必死に走って車に到着し大急ぎで沼を後にした。
急発進した車はスピードを上げてガタガタ道を通過し、舗装道路を進み、沼から遠ざかった。
 走っている自動車の中でSちゃんが俺に聞いた。

「 ねぇ、何がいたの?
 急に大声を出すからビックリしたじゃない、ねえ、Uちゃん。」
「 そうよ、沼の方を法螺君と二人で見て・・・・。
 私、沼を見たけど、何も見えなかったわ。
 変よ、私たちを脅かそうと相談していたんじゃない?
 いやーねぇ。」

俺は女の子たちに言った。

「 ははは、バレタか。
 実は、そうだったのです。
 怖かったやろ。」
「 バカ。」

俺は、本当のことを言わなかった。
法螺がルームミラー越しに俺を見た。
俺は、法螺の今までの気持ちが分かったような気がした。
それにしても、法螺が喋らない。
どうしたのだろう。



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[ 2007/06/30 19:13 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼30 

 俺は広場から出るときに、後ろをチラッと振り向いた。
法螺が、それを見て俺に言った。

「 おい、振り返ってジロジロ見るな。」
「 あいつは危ない奴か?」
「 いや、青白いからな。
 眼が虚ろだし、ジッとあそこにいるだけだろ。
 自分が死んだことが理解できないんだろうな。」
「 憑いてきたりしないか?」
「 大丈夫だと思う。
 危険な奴は、もっと黒いな。
 それに、危ない感覚を感じるよ。」

Uちゃんが、法螺に聞いた。

「 何か、いたの?」
「 いや、たいしたことはない。
 大丈夫だよ。
 さあ、行こうか。」

女の子たちは、怪訝な顔をした。
俺は、女の子たちには、見えていなかったんだと思った。
 俺の前を三人が歩いていた。
俺は、三人の後ろ姿を見ながら、沼に沿った道を歩きつつ考えた。
法螺は、法螺吹きじゃなかったんだ。
本当に見えていたんだ。

“ そうだったのか・・・・・・。”

 その時、俺は、沼の方から誰かに呼ばれたような気がした。
俺は、顔を上げて振り返り沼を眺めた。
眼を凝らして見ると、沼の向こう岸に、青黒い光が二個浮かんでいる。
俺は、法螺に聞いた。

「 おい、法螺、沼の向こうのあれ、何や?」

振り返った法螺は、それを見て叫んだ。

「 あっ、あれは、・・・・。
 うわっ、まずい、見つかった!
 逃げろっ!!」



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[ 2007/06/29 18:39 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼29 

 法螺は、俺に言った。

「 顔を向けるなよ。
 眼だけで左の木の所を見ろ!」

俺は、建物の左脇に立っている大きな木を見た。

「 嘘やろ・・・・・・・。」

 木の根元には、しゃがみ込んでいる青白い男が見えた。
僅かに俯いた顔で、眼は俺たちを見ていた。
俺と法螺は、門への道の左側に手を繋いだまま縦に並んだ。
法螺が女の子たちに言った。

「 俺たちの右にまわれ。」

 女の子は、黙ったまま、二人くっついて道の右側に移動した。
そして、俺たち四人は、そのまま道を前進して門から外に出た。
俺は、法螺に言った。

「 あれは、あれか?」
「 そうさ、僕がいつも見ている奴だよ。」
「 俺にも、見えたで。」
「 ああ、お前は、もともと、見えるんだよ。
 ただ、見ようとしなかった。
 今までは、声は聞こえていたと思う。
 僕と手を繋いだから、波長が感じ取れたんだ。
 一度、感覚が身に付いたら、もう、何時でも見える。」



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[ 2007/06/28 19:45 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼28 

 俺たちは、建物の玄関まで戻った。
玄関を最初に出た法螺が、突然立ち止まった。
そして、法螺は自分の懐中電灯を直ぐに消した。
俺は、どうしたのかなと思って法螺を見た。
法螺は俺に言った。

「 懐中電灯を消せ。」

 俺は何か分からなかったが、とにかく懐中電灯を消した。
明かりが消えて辺りが暗くなった。
法螺が、後ろから法螺の肩越しに前を覗き込んでいる三人に言った。

「 メンバーチェンジ。
 Sちゃん、Uちゃん手を繋いで後ろ。
 前は男二人でブロックする。」
「 どうしたんや?
 ブロックて、何や?」
「 いいから、直ぐに分かる。」

 俺と法螺は、先に玄関から外に出た。
女の子たちは、二人手を繋いで後ろに続いた。
外は、薄い月明かりで照らされて何もいないように見えた。

“ 何のことだろうか?”

俺は訳も分からず外を見回した。
法螺が俺に言った。

「 こらっ、僕と手を繋げ!」
「 男同士でかぁ〜。」
「 いいから早くしろ!」

 俺は、法螺と始めて手を繋いだ。
その時、法螺の手から電流のようなものが俺の手に流れた。
俺は、手を引っ込めようとしたが、法螺は俺の手をさらに強く握った。

「 何や、これは・・・・・。」

目の前の景色に、赤外線カメラのようなフィルターがかかった。
色は赤では無い、青みがかっている。



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[ 2007/06/27 18:13 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼27 

 俺たちは、部屋を進み、奥の出入り口から部屋を出た。
ちょうど、正面に反対側の部屋の扉が見える。
反対側の部屋の扉は半開き状態だった。
法螺が足で扉を蹴った。
扉は、内側に跳ね飛ばされ暗い室内が見えた。
 四人、塊になって中に入った。
懐中電灯で照らすと、足の外れたベッドが窓際にあり、ロッカーは床に倒れていた。
床はゴミが溢れて汚かった。
嫌な臭いが漂っていた。
我慢できないので、俺たちは鼻を押さえて、直ぐに部屋の外に出た。
法螺が俺に言った。

「 かなり汚いな。
 臭いも酷いから、この部屋はもう終わりだ。
 さあ、二階に行くか、地下に行くか。
 どちらが、いい?」
「 二階かな、地下はちょっと・・・・・。」
「 そうだな。」

 法螺は、Sちゃんの手をとって、俺はUちゃんの手をとってカップルが誕生した。
特に手を繋いでも拒否されなかったし、法螺も俺も満足だ。
法螺とSちゃんが前、俺とUちゃんが後ろで階段まで戻った。
Sちゃんが法螺に言った。

「 二階って、病室?」
「 普通はね。」
「 ねえ、Uちゃん、もう、出ない?」
「 そうね、病室、怖いわ。」

 法螺は、俺を見た。
どうする、と言った顔だった。
俺は、建物から出た方がいいかなと思ったので、法螺の眼を見て頷いた。
法螺がそれを見て、女の子たちに言った。

「 じゃ、出るか。」



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[ 2007/06/26 18:12 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼26 

 通路を進んで、左側手前の出入り口の中を覗き込んだ。
机とベッドが見える。
法螺が言った。

「 入ってみるよ。」

 法螺は、倒れた扉の上を注意深く歩いて部屋に入った。
俺たちも後に続いた。
ベッドは二つ並んであった。
骨組みだけでマットは無い。
手前のベッドは足が外れて滑り台のようになっている。
机は壁際にあり、丸椅子が三個、床に転がっていた。
スーパーの袋とかゴミが多い。
法螺が落胆したように言った。

「 診察室かな。
 特に何も無いな。
 奥の出入り口から通路に出られるよ。
 この部屋は、何も無い。
 通路の反対側の部屋も見てみよう。」
「 おいおい、特に何も無いって、何を期待してるんや。」
「 いや、まあな。
 可愛い看護婦さんとか、いるかと思って・・・・・。」

Sちゃんが、俺に言った。

「 学校の怪談みたいで嫌だわ。」
「 あっ、それ見たことがあるで。
 看護婦さんが、夜中、ワゴンを押して出てくるんだろ。
 トイレの個室に逃げ込んで、いなくなったと思ったら上から覗いてい
 る・・・・・。」
「 具体的に言わないでよ。
 思い出したら、怖くなって来たじゃない、バカ。
 ねえ、Uちゃん。」
「 そうよ、バカ。」

法螺が言った。

「 まあ、まあ、抑えて、抑えて。
 反対側の部屋に行くよ。」



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[ 2007/06/25 17:25 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼25 

 玄関からフロアに入り、懐中電灯でまわりを照らした。
左手に病院の受付カウンターがあった。
カウンターの中は、ガランとしている。
古びた書庫棚が、カウンターの奥の壁際に二つ並んでいた。
右手には階段が見えた。
上にあがる階段と下におりる階段がある。
下には地下室があることが分かる。
 懐中電灯で照らされた階段の壁には、スプレーの落書きがKILUと書いてあった。
俺は、Uちゃんに言った。

「 こいつアホやで。
 KILL、やろがな。」
「 ふふ。」

Uちゃんが笑った。
 先頭の法螺が、入り口から真っ直ぐ続いている通路を照らした。
通路は、リノリウムタイルが床から剥がれ破片が散らばっている。
天井や壁は所々剥げ落ち、斑な模様が浮かんでいた。
突き当たりに非常出口の扉が見え、通路は右に折れていた。
奥までは、それ程距離は無い。
法螺が言った。

「 思ったより、狭いな。」

 法螺の懐中電灯の明かりが通路の壁を照らした。
通路には、左に二つ、右に三つ出入り口がある。
左側の出入り口の扉は、外れてしまっているようだ。
黒くて四角い穴が開いている。
倒れた扉が一枚、左手の手前の出入り口の床に、部屋から通路に向かって、はみ出していた。
Sちゃんが法螺に言った。

「 何か、見える?」
「 いや、大丈夫だよ。
 先に進もう。」



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[ 2007/06/24 17:56 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼24 

 法螺が俺たちに言った。

「 行くぞ。」

法螺は門を蹴飛ばした。
鉄が錆びて腐っていたらしく、支柱が根元から折れ、門は呆気無く向こうに倒れた。
法螺が俺に言った。

「 何だ、これ、ボロボロだよ。」
「 中も、こんなんじゃないか。」
「 う〜ん、そうかも知れんな。」

 法螺が、玄関に進んだので、後ろを三人が追った。
玄関の右半分の扉を法螺が蹴ったら、これも呆気無く向こうに倒れた。
俺と法螺が持っている二個の懐中電灯で、玄関の中を照らした。
中はガランとしていた。
床にはガラスの破片が散らばり、懐中電灯の光に照らされキラキラ輝いていた。
 法螺が言った。

「 入るぞ。」

法螺を先頭に、俺たち四人は足下に気を付けながら建物の中に入った。




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[ 2007/06/23 17:17 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼23 

 俺は、法螺に聞いた。

「 まだか?」
「 もうちょいだよ。」

 数メートル進むと左右の木々が後退して、広場が現れた。
広場の向こうには門があり、門の奥の方に荒れ果てた三階建てのコンクリートの建物が見える。
思っていたよりか規模は小さい。
空は雲が少し薄くなって、月明かりが建物を照らしていた。
 門の所まで進んで、SちゃんがUちゃんに言った。

「 なかなかの雰囲気ね。」
「 そうね、何か、出るかしら?」

法螺が門から懐中電灯で建物を照らしながら言った。

「 あそこが玄関だ。」

 門の正面、10メートル程先に扉が見える。
左側の扉は手前に倒れていて、右の扉だけ残っていた。
俺は法螺に聞いた。

「 何か、おるか?」
「 いや、今のところ、いないな。」

 俺も女の子も安心した。
ここで頼りになるのは法螺だけだ。
先程の自動車での話を聞いて、法螺はひょっとして本当に霊が見えているんじゃないかと思った。
でも、法螺は怖がらせようとして、そう思わせただけなのかも知れない。
法螺がそこに霊がいるよと言っても、自分で確かめる方法が無いので、何時もよく分からない。
この状況では、いないを信じた方が得策だ。
とにかく、法螺が法螺吹きかどうかは、ここでは横に置いておくことにした。



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[ 2007/06/22 18:22 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼22 

 時間は、もう、午後九時を過ぎていただろうか。
みんな前の人のシャツの裾を持っている。
俺は、愛しのUちゃんのシャツの裾を持っている。
屈んでいるから、Uちゃんの大きな尻が目の間にクローズアップされて歩く度に左右に揺れる。
 俺は、出来るだけ前に接近して、尻に頭突きを食らわせた。

「 キャッ!」

Uちゃんは前のSちゃんに突っ込んだ。
Sちゃんは、ビックリして法螺にしがみ付いた。
くそっ、法螺の奴、ラッキーだ。
 法螺がうれしそうにUちゃんを振り返って言った。

「 どうした?」
「 後ろから頭突きをする人がいるのよ。
 止めてよね!」

とりあえず俺は謝った。

「 かんにんなあ〜。」

 間抜けな声だったのでみんな笑った。
Uちゃんに怒った顔も可愛いよ、と言おうかと思ったが止めておいた。
再度前進だ。



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[ 2007/06/21 18:12 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼21 

法螺が言った。

「 僕、先頭行くよ。」

Sちゃんが言った。

「 わたし、二番。」

Uちゃんが言った。

「 じゃ、三番。
 後ろ、嫌やもん。」

“ 俺は、最後だな。”

俺は、前に並んだUちゃんに言った。

「 俺、最後かぁ、嫌やなぁ。
 何かが、後ろから、つけて来る様な気がするしなぁ。」
「 あらっ、毒ガス攻撃じゃなかったの?」
「 そや、そや、武器があったのを忘れていた。」

 実際、一番後ろと言うのは、気持ちがいいことはない。
自分の後ろは真っ暗だ。
いつ何処からニュッと怪しい手が出てくるか気が気でない。
それに、歩いている最中、そうそう後ろばっかり振り返ってもいられない。
法螺が先頭で懐中電灯を持ち、進行方向を照らし、最後尾の俺がもう一つの懐中電灯で、前の三人の足下を照らす分担だ。
 道は木々が横から張り出してかなり狭いし、落ち葉が幾重にも積もっている。
空気は湿度が高く、落ち葉の発酵したような臭いも鼻をつく。
四人は、頭に木の枝が当たらないように、ちょっと背を屈めて、子供が電車ごっこをする様に進んで行った。



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[ 2007/06/20 20:34 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼20 

 低い潅木の間を縫って、岡を一つ越えた所にかなり大きな沼が見えてきた。
見えてきたと言っても、雲を通した月明かりで薄っすらとだけれど・・、それも、気分的に沼の色がどす黒く見える。
俺は、法螺に言った。

「 ほんまに、何や、気持ち悪い所やなあ。」
「 ああ、ここからちょっと歩かなければいけないんだ。
 以前は道がちゃんとあったらしい。
 でも、泥を被って道が狭くなって車が入らない。」

 車は、東西に長い沼の西の端に止まった。
俺たち四人は車から降りた。
さすがに人は一人もいない。
 沼はかなり大きく、遠くに水面が見える。
でも、水際は見えない。
雑草が腰ぐらいまで茂っているからだ。
葦のような草が、沼の方角の少し離れた辺りにたくさん突き出している。
水際は葦のような草が見える辺りだと思う。
雑草の中を進んで沼に嵌ったら大変だ。
雲を通した僅かの月明かりで、泥と雑草に覆われてはいるが、沼に沿って辛うじて道らしきものが続いている。
泥を取り除けば、舗装した道が出てくるだろう。
 法螺はトランクから懐中電灯を二個取り出した。
ここから左回りに50メートル程行った沼畔に病院があるそうだ。
残念ながら、大きな木々に隠されて、道の先にある病院は見えない。
木の枝は、道の上にも張り出している。
沼の向こう側も、こちらと同じように大きな木々が茂っている。
 道はこちら側しか無いと法螺には言われていた。
道は荒れてかなり狭い。
俺たちは、縦に一列に歩くことにした。



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[ 2007/06/19 19:43 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼19 

 俺は、法螺に聞いた。

「 悪質か、悪質でないか何処で分かるんや?」
「 何となくだけど・・・・・・・。
 今までに見た霊は、青白い感じが多いかな。
 人によって見え方は違うらしいけど、俺は青みがかって見えることが
 多いな。
 強いて言えば、黒みがかって見えるほど悪質かな。」
「 俺に声を掛けてきたのは?」
「 ああ、青黒かった。
 人込みの中で獲物を狙っていた。」
「 お前、怖くないんか?」
「 怖いよ、当たり前だろ。」

 俺は、その時、そこまで詳しい話を法螺から聞いてはいなかった。
また、いつもの奴が始まったと思っただけだった。
今話している内容に関しては、法螺にしては、女の子を怖がらせようと言うより、口調が真剣だった。
 俺は、ルームミラーに映る法螺の横顔を見ながら、今日の法螺はいつもとちょっと違うかも知れないと思った。
そして、法螺と話をしながら、俺は横断歩道で声を掛けられた時のことを鮮明に思い出していた。

“ 確かに、声は聞こえた。”

ただ、法螺が言うような姿は見えなかった。
でも、姿が見えなくても、声が聞こえたということは、俺も霊感を感じる法螺のオカルト仲間だと言うことをあらわしている。
 俺は、思った。

“ 姿が見えないだけ、マシかなぁ〜。”

不気味なものが見えるなんて、とても耐えられない。
俺は、ルームミラーに映る法螺の横顔をもう一度見た。
法螺は、話を続けることも無く、前を向いたまま車を運転していた。
車は、等間隔にある街灯を後ろに飛ばしながら、闇の中を疾走していた。
 しばらくして、太い道路を走っていた車は左の細い脇道に外れ、道がデコボコしだした。
揺れる車の窓から、薄っすらと山が迫って来る。

「 もうすぐだ。」

法螺が言ったが、誰も返事をしなかった。



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[ 2007/06/18 17:34 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼18 

 法螺が、ルームミラー越しに俺をチラッと見て話を続けた。

「 まあ、そこにいるだけだよ、心配しなくていい。
 前に、一緒に広い交差点を渡った時の事を覚えてるか?
 H市だよ。
 交差点を渡り切った時、お前に振り向くなって言った事あったよな。」
「 ええと・・・。」

 少し間を置いて、俺は思い出した。
あれは去年だったと思う。
俺と法螺は、アクション映画を見るためH市内の映画館に行った。

「 映画だよ、思い出したか?」
「 思い出した。
 幅が10メートル程の横断歩道やったな。
 H駅の近くで人がいっぱいおったわ。
 20メートル程の道を挟んで、たくさんの人が、信号が青になるのを
 待っとった。
 あれの事やろ。
  横断歩道を渡り終わったとき、俺は誰かに呼ばれたような気がしたんや。
 俺が振り返ろうとした時、法螺に振り向くなって言われたわ。
 思い出した。」
「 あれは危なかったよ。
 横断歩道で、向かいの真ん中に痩せて背の高い男が立っていたんだ。
 信号が青になっても、そいつは横断歩道を渡らずに、その場に立った
 ままだった。
 こちらから渡って行った人は、左右に二つに分かれて通過して行っただろ。
 そいつを避けていたんだ。
 お前も含めて、誰にもそいつのことは眼に見えて無かったと思う。
 それも、自分達がそいつを避けている事も意識して無かったと思うね。」
「 ああ、そうやな。
 俺はどうして横断歩道を渡って行った人が、左右に分かれて行ったの
 か分からんかった。
 道は真っ直ぐやったし、直進した方が早いやん。
 でも、そこだけ避けて通過しとったで。
 人の流れは左右に分かれて通過した後、また、その先で合流しとるんや。
 H市の人は歩くのが早いから、みんな俺たちより先に横断歩道を渡り
 終わっとったんや。
 後ろから、前を歩いている人の流れを眺めていて、おかしいなぁとは
 思ったけど。」
「 俺とお前は、そいつの横を摺り抜けたんだよ。
 そいつは、お前に声を掛けた。」
「 俺には、そいつの姿は、見えなかったけど。」
「 あの場では、僕だけが見えていた。
 確かにヤバイ奴だった。
 だから、僕は見えていると言う意識を隠した。
  お前は、見えてはいなかった。
 でも、お前は感じたんだ。
 誰かに呼ばれたような気がしたと言っただろ。
 お前には、俺と同じ霊感があるんだと思うよ。
 そいつは、お前を狙っていた。
 自分に気が付いた奴がいたと思ってね。」
「 それ、振り向いたら取り憑かれていたの・・・・。
 嫌だわ。」

Uちゃんは、怖がっていた。

「 悪質な奴かどうかは、大体分かるよ。
 こいつはヤバイ奴だった。
 その時は、無事通過したけどね。」



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[ 2007/06/17 18:34 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼17 

 もう、街並みは途切れて、再び畑や田圃ばかりになっていた。
時々、後ろの方に飛んで行く街灯が淋しそうだった。
道は舗装してあったが、擦れ違う車は多くは無かった。
空は、広く雲が覆っていて、雲に遮られた月が、薄ぼんやりとその居場所を示していた。
話は、途切れていた。
 俺は、法螺に話を振った。

「 法螺、いつも言っている霊は、この辺りでは見えるか?」
「 ああ、あまり怖がるとまずいと思って言わなかったけれど、先程の
 交差点にあった街灯の電柱の前に青白っぽい影がいたよ。
 かなり前だけれど、コンビニ通り過ぎて二つ目の交差点だったかな。
 事故でもあったと思うよ。」

Sちゃんは、法螺の横顔を見て言った。

「 それ、本当?」
「 ああ、右半分がぼやけていたから、右から車に当てられたと思うね。」
「 それ、憑いて来たりしない?」
「 まあ、大概はね、そこにいるだけ。
 俺は、気が付かない振りをして通り過ぎる。
 気が付いていると分かったら、何かを訴えに来るかもしれないし。
 霊で残ってるのは、思いのこもった念を持ってるだろ。
 ろくな死に方してないしね。」

 Uちゃんと俺は、そっと車の後ろを見た。
後ろには、街灯が二本程、闇の中に吸い込まれて行くのが見えた。
Uちゃんと俺は、顔を見合わせた。
俺は、また法螺が怖がらせるため法螺を吹いていると思ったが、暗闇の中を走る車の中では本当らしく聞こえると思った。



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[ 2007/06/16 17:00 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼16 

“ しめしめ、法螺、もう一息だ、頑張れ。”

「 でもね、出たんだよ。
 噂を聞きつけて週刊誌で取り上げられたんだ。
 週刊誌に載っていた内容は、自殺だって。
  そこの家は、親子三人が住んでいたらしいよ。
 それで、父親が医者で、かなりの変人だったんだって。
 そして、診療間違って、損害賠償。
 患者、死んでしまってね。
 それに、もともと、競馬とかも好きだったらしい。
  それで、金が切れて、奥さんと娘逃げてしまって、一人取り残され
 たんだ。
 患者の臓器、売り飛ばして金作ろうとして、バレた。
 金庫にはかなりの金があったらしい。
 浮浪者を入院させていたんだよ。
 行方不明でも捜索願い出ないしね。
 必要な臓器だけ取って、いらないものは沼に沈めていたのと違うかな。
  警察が捜査に行った時、医者はいなかった。
 捜索して、色々怪しい物を見つけたらしい、噂だけど。
 それに、医者は行方不明だよ。
 指名手配したが、見つかっていない。
 どうなったか、分からない。
 迷宮入りだね。」

Sちゃんが、眉に皺を寄せて言った。

「 自殺して沼に沈んでるんじゃない、気持ち悪い・・・・・・。」
「 そこが、今から行く所だよ。
 それで、病院潰れてしまって、今は、ボロボロの建物が残っている。
 建物から沼にかけて色々出るらしいよ。
 白い影とか、バラバラになった人の体の一部とか、見た人の話がその
 週刊誌に載っていた。
 沼には、バラバラの死体とかいっぱい沈んでいるのと違うかな、気持
 ち悪いけど。
 沼の中に誘い込まれそうになったと言うのもあったかな。」

 法螺は、話をしながら喜んでいると思った。
脚色がうまいもんだ。
さすがに自分の土俵で話をしている。
Uちゃんが、ゴクリと唾を飲み込んだのが分かった。
俺は、抱き付いてきたら、うまく行けばキスも出来るかなとワクワクしていた。



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[ 2007/06/15 18:45 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼15 

法螺が、ルームミラー越しにこちらをちらっと見た。

「 怖いか?」

法螺が、俺の様子を窺った。

「 怖いもんかね、そんなもの出てきたら、屁でもこいて毒ガス攻撃
や。」

下品だがしょうがない。
俺は実はすごく怖がりなんだ。
でも、Uちゃんの手前、平静を装った。
Uちゃんは、こっちを見て笑った。
俺は、平然と笑い返した。
でも、靴の中の足の指先はプルプルしていた。
Uちゃんは言った。

「 そんなもの、いる訳ないわ、作り話よ。」

Sちゃんも頑張った。

「 そうよ、そうよ、そんなのテレビでよくやっているわ。
 でも、一度だってそんなの出てきた事ないわ。
 絶対、いるもんですか!」

Sちゃんは、一番怖がっているようだ。
法螺は、ニタニタを隠して冷ややかに続けた。

「 でもねえ、見た人いるんだよ、ほんとに。
 新聞にも載った事あるよ、啜り泣きが聞こえたらしいけど。
 ぼんやりと、女の人の姿が、・・・・・。」
「 嘘よ!」

Sちゃんが言った。
Uちゃんは、窓から離れて、心持ちこちら側に寄って来たような気がした。




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[ 2007/06/14 18:41 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼14 

 法螺は、ニヤリとした。

「 いや、悪い、悪い、気にしないでいいよ。
 昔、病院の実験用動物を捨ててた、なんて話もあるけど、そんなの嘘
 だよ。
 ちゃんと供養してるだろうね。」
「 はは。」

Sちゃんが笑った。
かなり無理をしているなと思った。

「 その沼の横にね、市道からちょっと入った所にあるんだよ。
 病院の潰れた奴がね。
 個人経営の病院らしいよ。
 何故、そんな所に建てたのか知らないけれどあるらしい。
 かなり大きい病院と聞いたけど。」
「 なんや、お前、見た事あるんと違うんか?」
「 深泥沼には行った事がある。
 でも、病院は見ていない。
  道は教えてもらった。
 高校の時の家庭教師の先生からね。
 先程の話も、その先生から聞いた話だよ。」
「 へえ〜、その人、病院まで行ったことあるんか?
 何か、言うてたか、その人。」
「 いや、特には言ってはいなかった。
 病院まで行った事はあると聞いたよ。
 春の昼頃、友人と行ったんだって。
 周りが明るかったし、別に何も出なかったって言ってたよ。
 でも、暗くなると、出そうな雰囲気だって。
  まあ、昼と夜では違うからな。
 僕は沼まで行ったことがあるけれど、淋しい所だね。」



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[ 2007/06/13 18:57 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼13 

 繁華街のW町通りは明るい。
空はもう真っ暗だけど、ネオンでいっぱいだ。
それでも、W町通りをしばらく北進すると、もう、ネオンも途切れて、暗くなってきた。
 そうだ、肝試しには、事前の恐い話が付き物だ。
これで怖がらせておくから肝試しの効果がある訳だ。
俺も、これから行く深泥沼の話は、詳しく知らないから、法螺に喋らせよう。
それで、気分を盛り上げておいたら、向こうに着いて、きっと怖がってUちゃんは俺に抱き着いて来る。
ヒヒヒヒヒヒ。
盛り上げよう、盛り上げよう、怖がらせよう!
 俺は、法螺の得意分野に話を振った。

「 おい、法螺、これから行く所の話を聞かせろよ。
 俺も、知らんからな。」
「 そう、そう、それ言っておかないとな。
 あの辺は、すごい所だよ。
 深泥沼、これはね・・・・・・・。」

法螺は心得たとばかりに話し始めた。
女の子達は顔は笑っていたが、眼は真剣になった。

「 “みなずぬま”って、深い泥の沼って書くんだよ。
 文字通り、沼の底に泥がいっぱい溜まってるんだ。
 もう一つの意味は、深く泥む沼だよ。
 なずむと言うのは、悩み苦しむと言う意味なんだ。
 意味は、他にも色々あるけどね。
 暮れぇ〜なずむ町のぉ〜、なんて歌もあったかな。
  深く泥むだけあって、自殺の名所だよ。
 そこで入水自殺多いんだって。
 見つかっただけでも、今年に入ってもう二件。
 見つかってないものも、まだ、たくさんあるんじゃないだろうか。
 なにしろ、沼の底に泥が九メートルも溜まってるらしいんだよ。
 それに藻がいっぱい生えている。
 沼に入ると、藻に絡まれて泳げない。
 水をゴボゴボと吸い込んで窒息死。」

Sちゃんが言った。

「 息できひんの苦しいわ。
 中学の時、学校のプールで飛び込んだ拍子に水が気管支に入ったん
 やけど、そらもう、息できひんし、目の前真っ暗になって、もう、い
 ややわあ、どうしよう。」
「 そう、その通りだ。
 入水自殺なんて楽じゃないよ、すごく苦しいんだから。
 人は苦しい時に後悔する、止めときゃ良かったって、でも、どうにも
 ならないんだよ。
  泥と藻に絡まって沈んで行く。
 泥の中にめり込んだら、もうだめだね。
 上がって来ない、沈んだまま行方不明。
 今でも、まだ、かなりの数が沈んでると思うよ。
 この前、たまたま上がってきた死体は、腐って、もう、ずるずるで・・。」

Sちゃんが、言った。

「 もう、止めて・・・・・。」

Uちゃんは、ハンカチを握り締めていた。
 俺は、沼、ずるずる、死体と言うよりも、学校、プール・・、プール・・、プール・・、Uちゃん、Sちゃん、水着・・・・。
むふふふふ、Uちゃん、Sちゃん、むふふふふ、萌え〜状態だった。



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[ 2007/06/12 17:35 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼12 

 Sちゃんが話題を変えて法螺に言った。

「 お酒なんて、飲みに行ったりするの?」
「 ああ、時々はね。」
「 へえー、今度連れて行って欲しいわぁ。」
「 うん、今度、四人で行こうか。」
「 賛成。」

Uちゃんも同意した。
そう言えば、高校の時はよく四人で喫茶店に行っていたけど、酒が入るということは前進かなと思った。
俺は、法螺に言った。

「 電車で行かなあかんなあ。」
「 飲酒運転は免許取り消しだったかなあ、もう、法規忘れてしまった。」
「 ちょっと、法螺君、しっかりしてよ!」

Sちゃんが、法螺をたしなめた。
 田んぼの多い国道沿いの景色から、Y市内の雑踏の中へ車は突入して行った。
俺は、後部座席で隣に座っているUちゃんのかわいい横顔と流行の薄い夏服の胸元を、時々、チラチラと眺めながら、イヒヒヒヒヒと心の中で笑った。
顔に出さないのは、嫌な性格だ。
 ルームミラーで見る法螺の眼は忙しそうだ。
左へ、左へ、と動くのを必死で堪えている。
Sちゃんは知ってか知らずか笑っている。
車が揺れる度に、俺はUちゃんの方に転がった。
Uちゃんが、キャ〜キャ〜言うので余計嬉しかった。



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[ 2007/06/11 17:41 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼11 

 Sちゃんが言った。

「 でも、いいわねえ、帰って来る時間が決まってないなんて。
 私なんて9時過ぎて帰ると、親が根掘り葉掘り聞くんよ。
 何してた、何してたって、いやぁ〜ねえ。」

Uちゃんも言った。

「 そうよ、うちんとこも、そうよ。
 別にいいと思うわ、もう、大学生やもん、ねえ。」
「 ああ、そうだね、そう。」

法螺が答えて、Uちゃんが言った。

「 今日はね、Sちゃんの所に行くって言って出てきたのよ。
 Sちゃんは、私の所に行くって言ってね、うふ。
 こう言っておけば、親なんて安心し切って、単純なもんね。」

Sちゃんは、後ろを振り返ってニコッと笑った
俺は、法螺に言った。

「 法螺、安全運転で頼むで。」
「 ああ、わかっているって。
 この頃の若い奴は精神訓練が出来ていない。
 事故は冷静だったら、絶対起こらない。
 乗り始めた頃は、高速、ぶっ飛ばしたけど、もう、慣れた。
 所詮、車は移動するための道具。
 追い越されても、追い越した奴と、そんなに時間かわらないよ。
 追い越されて頭に来るんだったら、まだまだ、青いってことだよ。」

 法螺にしては、妙に年寄り臭い言い方やなあと思った時、赤いカローラが、法螺の車に掠りそうになりながら追い越して行った。
法螺は、急いで運転席の窓を開けて関西弁で大声で叫んだ。

「 ボケーっ、気いつけさらせえ〜。
 何処、眼、つけとんじゃ、アホオー!!」
「 キャー、法螺君、ハンドル、ハンドル!!」

Sちゃんが叫んだ。
車は、左右に大きく蛇行していた。

「 フー、いや、すまない、すまない、ちょっと腹が立ってな。
 まあ、気にしないように。」
「 お前、人格、ぐちゃぐちゃやなあ。」
「 はははは、関西弁も上手いだろ。」

 でも、これは、法螺特有の悪い冗談だ。
実際、車は大きく揺れた。
こいつは、時々悪い冗談をするから困る。



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[ 2007/06/10 18:30 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼10 

 俺たちは、法螺の親父の車に乗り込んだ。
法螺は運転手、助手席にはSちゃん、法螺の後ろはUちゃん、その横に、ヒヒヒ、俺だ。
白のクラウンは、エンジン音も快調に走り出した。
スポーツカーの方が格好いいと思うが乗り心地は悪くない。
毎日、通った高校への道を通って、町外れを走っている国道に合流した。

「 ふーん、楽しそうね。」

Uちゃんは、俺の方を見ながら羨ましそうに言った。
俺は、他県での下宿生活を精いっぱい誇張して並べ立てた。

「 ほんまに、もう、ユルユルや。」
「 僕も、それほどでもないけれど、良く似たもんだな。」
「 ん・・・・・・。」

 そうか、俺は誇張して言ったのに法螺の生活は、そうだったのか。
さすが医学部だ。
まあ、いい。
Uちゃんが、俺に言った。

「 ねえ−、それで下宿には女の子も来るの?」

俺は、Uちゃんがちょっと心配そうに聞いたので気を良くして答えた。

「 ああ、たまにはね。」

でも、物が散乱した俺の下宿には、実際は女の子は一人も来た事が無かった。

「 そうなの。」

Uちゃんは窓の外を走る車の流れを見ながら呟いた。
法螺が言わなくてもいいのにUちゃんに言った。

「 あー、また、ウソついてやがる。
 お前なあ、この前、電話で何て言ったか言ってやろうか。」

 その言葉を聞いたUちゃんは上目遣いに押し殺したような笑い方をした。
法螺は、ルームミラー越しに目で笑った。
まあ、法螺の元気が復活したからいいかと俺は思った。



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[ 2007/06/09 18:16 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼9 

 二日後、俺たちは、法螺の家の前に集まった。
まだ、夏場の夕方の7時では、辺りは薄明るかった。
でも、もう直ぐ暗くなる。
午前中は、よく晴れていたが、午後からバラバラと雲が広がり始めていた。
雲の隙間からの月明かりは、多くは期待できないだろう。

「 雨が降るかも知れないなぁ。」

法螺が空を見上げながら言った。
でも、イベントの雰囲気としては好都合だと思った。
Sちゃんが法螺を見ながら言った。

「 やあねえ、怖がらせないでよ。
 私、この子の趣味に付き合うだけよ、いやだわあ。」

 Sちゃんは仕方なく来たように言っているが、本当は、Sちゃんも大いに乗り気だと言うことは態度で分かる。
SちゃんはUちゃんの方へ向き直って人差し指でUちゃんの胸を突付いた。
俺は、Uちゃんの胸を見てゾクゾクした。
法螺は、まだ空を眺めていた。
法螺が、少し考えてから言った。

「 忘れ物があった。
 取って来る。」

 法螺は、一旦、家の中に入って行った。
そして、しばらくして家から出てきた。
法螺は、車の近くまで来て、もう一度、空を見上げた。

「 おい、どうしたんだよ、行こう。」

俺は、法螺の袖を引っ張った。
Sちゃんが法螺に言った。

「 法螺ちゃん、怖くなったのね、ダメねえ。
 色々なもの見てるくせに怖がりなんだから。」
「 違うんだけど、まあ、あは・・・。」

俺は、法螺が複雑な笑い方をしたのを見た。

「 あはははは、まあ、行くか。」
「 そうよ、法螺君、早く出発しましょうよ。」

Uちゃんも、嬉しそうに言った。



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[ 2007/06/08 18:38 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼8 

 早速、Uちゃんに電話だ。
UちゃんとSちゃんは、高校三年の時、俺と同じクラスだった。
UちゃんとSちゃんは、仲のいい友達だ。
Uちゃんに言えば、たぶん、Sちゃんも付いて来るだろう。
 法螺は隣のクラスだったが、よく俺のクラスに来ていた。
理由は、Sちゃんだ。
法螺はSちゃんに気があるから、何かと理由をつけて俺のクラスに出入りしていた。
俺と法螺は好みのタイプが違うので好都合だ。
単純に言うと法螺は美人のキツネ型、俺は可愛いタヌキ型だ。
だから、俺と法螺は、かち合うことが無い。
 そう言う訳で、高校の頃から、法螺と俺とUちゃんとSちゃんは、結構仲が良かった。
よく四人で学校帰り、喫茶店でしょ〜もない話をして盛り上がっていた。

「 もしもし、Uちゃんいますか?」
「 今、留守です。」
「 あのな、Uちゃん。」
「 なによ、この前四人で植物園に遊びに行った時、連絡するって言っ
 てそのままなんだから。」
「 悪い、悪い、バイトの金が切れて動けなかった。
 今、二千円しかない、ははは。」
「 まあ、いいわ。
 お金、貸してなんて止めてよね。」
「 ははは、違う、違う。
 ドライブ行かへんか。
 法螺の親父の車借りてな。
 法螺が運転するから。
 まだ、法螺の車、乗った事無いやろ。」
「 そうね。」
「 それに、深泥沼やで、心霊スポットやで。
 夏にピッタリのイベントや。
 ちょっと、行ってみたいやろ。」
「 ふふ、ちょっとね。」

 やはり乗って来たぞ。
女の子は、怖い話は大好きだ。
UちゃんもSちゃんも、法螺が喫茶店で話す怖い話が大好きだった。
もっとも、俺は既に法螺から聞いた話が多かったが、その話以上に法螺の脚色もかなりのものがあった。
 やはり、法螺は法螺吹きだ。
でも、脚色した話の方がより面白いので、俺は合いの手を入れはしたが、法螺の話の邪魔はしなかった。

「 OKよ、Sちゃんも誘っておくわ。
 法螺君、期待してるんでしょ。」
「 その通り。」

 俺は、日時と集合場所を連絡して電話を切った。
そして、俺は再び法螺に電話をかけ、Sちゃんも参加してメンバーがそろうだろうことを告げてイベントが確定した。



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[ 2007/06/07 19:34 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼7 

 俺は電話で、引き続いて法螺に言った。

「 それにしても、暑そうな声をだすなあ、お前の所は全館冷房で快適
 なんと違うのか。」
「 いや、今、エアコン潰れているので、暑いのなんのって・・・。」
「 そうか、うちは電気代がかかるのですぐ電源切りよんにゃ、しゃー
 ないオカンやで。」
「 そうだなぁ、う〜ん、あのなぁ、“みなずぬま”って、知ってる
 か?」
「 みなずぬまって、深い泥の沼って書くあれか?」
「 そうだよ。」
「 聞いたことあるわ。
 行ったことはないけどな。」
「 Y市の北の方にある沼だよ。
 そこに幽霊屋敷があるんだって、行って見るか?」
「 ほんまか。
 そんなもんあるんか。
 よし、よし、行こう、行こう。
 えっと、待てよ、何で行く?」
「 僕の家の車で行こう。」
「 お前、何時、免許をとったんや。」
「 高三の春休み。」
「 ええなあ、金持ちは。」
「 ああ、どうせ親父の金だよ。」
「 まあ、ええけどな。
 それからやなぁ・・・・・・。」
「 何だ、まだ、何かあるのか。
 ああ、そうか、分かった、分かった、女に子、誰、誘う?」
「 そうやな、俺、Uちゃんがいい。」
「 じゃ、どうしようかなあ、ちょっと考えるな。」
「 ちょっと考えるって言うても、決まってるんやろ。
 Uちゃんに電話かけるわな。
 Uちゃんに言ったらSちゃんも来るで、法螺、それでいいやろ?」
「 OK、OK、それで、いいよ。
 何時がいい?」
「 俺は、いつでもいいけど。」
「 それじゃ、明後日にしょうか。
 明後日だったら、予定が空いてるよ。」
「 よっしゃ、よっしゃ。」
「 時間は、7時、朝じゃないよ、夜だよ。」
「 女の子、夜やけど、誘ったら来るかな?」
「 来る来る、二人とも暇そうにしてるよ。」
「 うしし、Uちゃん、楽しみ。」
「 お前、涎が出てるな。」

法螺は、その辺は詳しい。
俺は、うれしくって笑いがこみ上げて来た。

「 イヒ、イヒヒヒヒヒ、イヒ。」
「 何だ、気持ち悪いなあ、まあ、何考えているのか大体分かるけれど
 な。
 ほんじゃ、とりあえず、明後日の午後7時、僕の家の前で集合にしよ う。
 まあ、女の子の都合で予定変更かも知れないけど。
 女の子、ちゃんと誘ってな、じゃ〜な。」
「 イヒ、イヒヒヒヒ。」

俺は、電話を切った。




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[ 2007/06/06 19:20 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼6 

 法螺は、後で担任に呼び出されてこっぴどく怒られた。
その呼び出された場に、俺も同席していた。
法螺も俺も正直に出来事の話をしたのに、担任は話の内容に激怒してしまった。
まあ、霊がいたからなんて言っても、誰も信じる筈が無い。
それでも、最後まで、法螺は黒くって丸い物が見えたと言い張った。
俺は、黒くって丸い物は見えていなかったが、付き合いで同じ事を言って法螺を弁護した。
 担任は延々と法螺だけで無く、俺にも説教した。
俺は参考人で呼び出されたのに、職員室で2人並んで担任と向かい合っていたから他の先生から、俺も同罪で怒られているように見られた。
実際、後で聞くと、俺が法螺を唆したと言う尾ひれが付いた話が職員室で蔓延していた。
処分まではされなかったが、この出来事から、俺たちは危ない奴等と先生から眼を付けられてしまったと思う。
 中学の頃からの法螺の友達に、この話をすると、この系統の法螺の話はろくな結果にならないと忠告された。
確かにそうだと思った。
でも、俺は、法螺の霊の話を否定することまでは考えていなかった。
なぜなら、このとき俺は地下鉄での出来事を思い出していたからだ。
とにかく、法螺には危険を事前に予知する力があるのかも知れないとも考えた。
そう思った方が得策と考えたからだ。
 事が起こってからでは遅いのだ。
法螺が階段を上がったから、女の子は階段から落ちなかった。
法螺が階段を上がらなかったとしても、女の子は階段から落ちなかったかもしれない。
でも、そういい切れるものでもない。
どちらにしても、実際には落ちなかったので良かったのだ。
最悪、法螺が助けに行かずに、女の子が階段から転げ落ちて、血みどろになってからでは遅いのだ。
法螺は悪意を持って行動するような奴ではない。
それに、法螺は、人の不幸を黙って見過ごす奴でもない。
俺は、この時、法螺の霊が見えると言う話をできるだけ信用してやろうと思った。



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[ 2007/06/05 19:16 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼5 

 俺と法螺は、朝、高校に登校する時、よく一緒になった。
俺たちが通っていた高校の靴箱は二階にあった。
校舎の外から校舎の二階に長い階段が続き、二階の入り口から入った所にある靴箱で上靴に履き替えることになっていた。
俺と法螺は、その階段を上がろうとしていた。
上を見ると、階段の中ほどに女の子が二人階段を上がりつつあった。

「 あっ。」

 法螺は、大急ぎで階段を駆け登って行った。
俺は、何が起こったのか分からずに法螺を見ていた。
法螺は、二人の女の子の五段ほど下で両手を大きく広げて女の子に迫っていた。
女の子は、気配を感じて振り返った。

「 キャーッ!」

 女の子は、叫び声を上げて昇降口に逃げて行った。
法螺を危ない奴だと思ったのだろう。
俺は階段を上り、呆然として両手を広げたまま階段の途中に立ち止まっている法螺に言った。

「 おい、昼間から女の子を襲うのは止めろよなあ!」
「 いや、違う。」
「 何や、違うにゃて?
 どう見ても襲っているとしか見えへんで。
 中学と違って、退学処分になるで。」
「 いや、いたんだ。
 黒くって、丸いものが左側の女の子の足にクルクルって絡み付いてい
 た。
 放置すると、階段を踏み外して落ちると思ったから助けに行った。」
「 そんなもの見えへんかったで。」
「 いや、いた。」
「 女の子二人とも階段の上まで走って行って、昇降口に入って行った
 で。
 階段なんか踏み外して無いやないか。」
「 いや、途中まで見えていたが、手を広げたら消えてしまった。」
「 お前なあ、・・・・・・・・。」




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[ 2007/06/04 17:35 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼4 

 高校以前から、法螺吹きMは法螺と呼ばれていた。
法螺は、何故、法螺と呼ばれていたのかと言うと、時々あそこに霊が見えると真面目な顔で法螺を吹くからである。
本当にいるのかどうかは普通分からない。
でも、俺たちの中で法螺がそこに霊がいると言った所を見ても、誰も見えた事が無い。
俺たちの中では、法螺が、霊が見えると言い出すと、ああ、またかと言う顔をする決まりになっていた。
 それは、霊が見えると言っている時、真剣に言っているのかどうか良く分からない態度も影響して、ああ、またかになってしまうのだと思う。
たぶん、俺たちの中では、ネタとしては面白いが実際に信じている奴はいなかったと思う。
俺も高校の時はそうだった。
それに、俺も、当然、霊は見えなかった。
 だからと言って俺たちは、法螺を馬鹿にしていた訳ではない。
法螺は、結構、頭が良かった。
地元の大学は手が届かなかったが、他県の国立大学の医学部に現役で合格したし、容姿も見様によっては格好いい部類で、家が医者で金持ちだから女の子に持てていると言ってもいいくらいだ。
それに法螺は、実際、話に面白いものを持っていたし、どちらかと言うと人気者と言ってよかったと思う。
 俺と法螺は高校一年の時、始めて同じクラスになった。
それも、机が隣同士だったので、以前にも増してよく話をするようになった。
でも、俺は、まだ、その時、法螺から色々な霊が見えると聞いてはいなかった。
そんな時、俺が初めて法螺の霊の話に遭遇したのは、高校に入学して一ヶ月ぐらい経った頃だった。



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[ 2007/06/03 19:36 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼3 

俺が法螺と初めて喋ったのは、中学三年のとき、地下鉄の駅だった。
高校受験のための塾が、地下鉄で一駅離れたところにあって、俺も法螺も同じ塾に通っていた。
 午後8時頃だったと思う。
塾の帰り、俺は椅子に座って駅で電車が来るのを待っていた。
くたびれていたのか、椅子に座っていると眠くなってきた。
しばらく待っていると、普通電車がゆっくり止まる音が聞こえた。
 俺は薄目を開けた。
椅子に座っていた両隣の人が、席を立って前に歩いて行った。
俺も早く乗らなきゃと思って電車に近付いた。
 もう少しで電車の扉だと思った時、後ろから肘を引っ張られた。
俺は、ハッとして後ろを振り返った。
法螺が立っていた。
その時、俺は初めて法螺の声を聞いた。

「 危なかったな。」

 俺の後ろを特急電車が通過していた。
普通電車は、そこには無かった。
俺は、特急電車の風圧で体が揺れた。
後ろで、チッ!と言う声が聞こえた気がした。
 俺は周りを見回した。
でも、周りには法螺以外誰もいなかった。
俺は、法螺に引っ張られて椅子に座った。
 法螺が俺に言った。

「 寝ぼけていると危ないぜ。」

ああ、寝ぼけていると、確かに危ないと思った。
でも、さっきの人や電車は実際あったような気もした。
 法螺は、それ以上、今のことについて言うことも無く話題は塾の事に変わった。
話して見ると、妙に気が合いそうだと俺は思った。
本格的に喋るようになったのは、その時からと言ってよいだろう。
今考えると、俺は法螺にこの時助けられたんだと思う。
でも、これはずっと後になって思うことであって、その時はまだ法螺をよく知らなかった。



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[ 2007/06/02 16:33 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼2 

 法螺吹きMは、法螺と俺たちの中で呼ばれていた。
法螺は、この辺では屈指の大病院の跡取り息子である。
一人息子の法螺は、他県の国立大医学部に合格し、俺と同じように夏休みを地元に戻って過ごしていた。
 法螺と俺の出会いは小学校の頃にさかのぼる。
小学校三年の夏休み、近くの工場が潰れた後の空き地に、でかい病院が完成した。
関東から進出してきた病院と言うことだった。
そして、夏休みがあけて、隣のクラスに転校してきたのが法螺だった。
その時は、もう既にその病院の経営者の息子が転向して来ると言う噂が流れていた。
俺は数人のクラスメートとわざわざ隣のクラスまでどんな奴か見に行った。
 法螺は、窓際の一番後ろの席に座って本を読んでいた。
廊下で騒いでいる声が聞こえたのか、法螺は俺たちをチラッと見た。
俺は、その顔を見たとき落ち着いた独特の雰囲気のある奴だと思った。
でも、小学校の時は、クラスが一緒になることも無く、話をすることも無かった。
 中学は、大通りを挟んで、俺と法螺とは校区が違っていたので、別々の中学に通っていた。
それでも、家が近かった事もあって、話こそしなかったが道で出会うことは多かったと思う。
道で出会った法螺は、何故か俺の顔をじっと見た。
俺は、法螺に頭の中を覗かれている様な不気味さを感じていた。
だから、見られているのは感じたが、素知らぬ顔で何時も通過していた。



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[ 2007/06/01 20:16 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)
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