俺は、箱を眺めた。
この箱に女の子は、住んでいるのだろうか。
一人で寂しく思っているのだろうか。
俺は、今まで、この箱を何とか排除しようと考えていた。
でも、箱が来る前と来た後で俺の生活が悪化した覚えはない。
俺が惚け始めたとも思われない。
また、心臓が痛むと言うのも無い。
伯父の心不全は、この子のせいだろうか。
突然死なんて、年がいけば何所にでもある。
おばばは、どうだろう。
おばばは、あの女の子のせいで痴呆になったのだろうか。
おばばは、むしろ、昔のことを思い出して、女の子と遊んでやっていたのではないか。
おばばは、女の子が現れた時、この箱を封印しなかった。
封印せずに女の子と遊んだじゃないか。
そして、自分が死ぬ時、あの女の子を連れて行こうとしたのではないか。
しかし、おばばは病気で痴呆になってしまった。
そして、予定に反して、何も分からないまま、箱を残して逝ってしまった。
俺の名前が書いた紙が木箱に貼られている。
この紙を貼った時は、少なくともおばばは、惚けてはいなかった。
貼る意味があって、それを考えたから、貼ったんだ。
人は、何時か死ぬ。
でも、それは遥か遠い先だとしか考えない。
おばばは、遠い先のことを考えて貼ったのだろうか。
いや、人は、いつ死ぬか分からないのも事実だ。
交通事故のように、本人が明日も明後日も生きているだろうという予測を打ち切って起こってしまうこともある。
おばばは、もしも、そう言うことが起こった場合、この箱の対処のため、俺の名前を紙に書いて、この箱に貼り付けたのでは無いだろうか。
おばば自身に、何かが起これば、この箱の行き先が分かるようにしておいたのではないか。
いずれにしろ、おばばに万が一のことがあれば、俺の所に箱が行くようにした。
つまり、この箱は、おばばが俺に託したものではないのか。
そうだ、そうだったんだ。
この箱は、おばばが俺に送ったものなんだ。
俺は、胸が熱くなった。
俺は、思った。
「 おばば、待っとれ。
この箱は、今すぐには、持って行けない。
でも、俺が死んだ時は、棺桶にこの箱を突っ込んで、俺がおばばの所
に持って行ってやる。
おばば、そうやったんか。
俺は、分かった。
おばばが、一番頼りにしていたのは俺やったんか。
あほか、おばば。」
俺は、眼から涙が溢れて来た。
鼻水まで出て来た。
ティッシュで拭いても止まらなかった。
「 よし、遺書を書くぞ。」
俺は、箱を俺の棺桶に入れろと書いて、日付と名前とハンコを押して封筒に入れ、机の引き出しの奥に入れた。
そして、俺の部屋の押入れの襖を開け、机の上に置いてあった箱を、押入れの上段の隙間に仕舞い込んだ。
「 よし、これでいい。」
俺は、箱を軽くポンポンと二回叩いて襖を閉じた。
俺は再び部屋の電気を消して、明日に備えて寝ようと思った。
布団に入って暗くなった天井を見ていると、俺の頭の中には、母の実家で過ごした色々な思い出が浮かんで来る。
それらのひとつひとつが、俺にとって掛け替えの無い思い出だ。
俺は思った。
その思い出に支えられて、俺は生きているのだと。
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