蔵の箱57 

Tは、木箱の蓋を再び開けた。
黒い箱の上面を見てTが言った。

「 予想通り御札が貼ってある。
 これ、結構、新しいぞ。
 おばばが死んだ後かな。
 伯父が貼ったんじゃないかな。」

Tは、木箱の蓋を閉じた。
三人は、黙って木箱を眺めた。
Tが、言った。

「 御祓いか。」
「 そうやな、御祓いかな。」
「 御祓い出来そうな所、知ってるか?」
「 うーん。」

Sちゃんが言った。

「 京都の実家のじじばばに聞いて見よっか。
 京都は、お寺や神社、たくさんあるよ。
 知り合いがあるかも知れないわ。」

これは、渡りに舟だ。
俺たちは、Sちゃんに頼むことにした。




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[ 2007/04/27 17:58 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱58 

話が一段落したので、俺は言った。

「 今日は、朝から走り回って、疲れたから帰るわ。」
「 そうね、私も帰る。」

俺とSちゃんが腰を浮かせた。
Tが俺たち二人に言った。

「 おい、おい、この箱は?」

俺は、答えた。

「 ここに、置いておいたらええやん。」

Tは、血相を変えて言った。

「 やめてくれ〜。」
「 それじゃ、帰ろっかな。」
「 そうね。」
「 持って帰れ、このぉ〜っ。」
「 女の子とままごと出来るし、ええやん。」
「 そうね、きっとすご〜い可愛い子ね。」
「 持って帰れよぉ〜。」
「 また、警察に捕まるのいややからな。」
「 ああぁ・・・。
 その、・・・・・・・・。
 そうか、分かった、送って行く。
 自動車で送って行く。
 大阪でも沖縄でも送って行く。
 ここに置いておくのだけは、やめてくれ。」

俺とSちゃんは、また、笑った。
Sちゃんは、俺に言った。

「 御祓い、相談しとくね。」
「 よろしく!」

俺はSちゃんに笑って答えた。
Sちゃんは、手で小さくバイバイをして、自転車で帰って行った。





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[ 2007/04/26 18:04 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱59 

 俺とTは、Tの車に箱を積み込んで大阪の俺の家に出発した。
日は、西に沈み始めていた。
途中、Tは幾度と無く呟いた。

「 今日は、人生、最悪の日だ。」

 京都から大阪の俺の家まで途中の渋滞が酷くかなり時間がかかったが、なんとか家までたどり着いた。
玄関を開けて俺は言った。

「 今、帰ったで。」

母が出て来て言った。

「 なんや、もう、帰ってきたんか。」
「 帰ってきて、悪かったな。」
「 今日、危ない所やったわ。」
「 なんやねん。」
「 振り込め詐欺や。
 警察や、言うて電話掛かってきたわ。
 適当に、あしらっといたわ。
 アホな、奴等や。」
「 俺、警察に捕まってたんや。」
「 あれっ、そしたらあの電話、ホンマやったんかいな。」
「 何時間、尋問されたか分かるか。」
「 それで、釈放されたんかいな。」
「 釈放されたから、ここにおるんや。」
「 なんや、面白くない。
 もっと、説教されたら良かったのに・・・・。」

そこに、車から降りて来たTが顔を出した。

「 おじゃまします。」

母は、Tに言った。

「 おや、Tちゃん、久しぶり。
 よお来たなあ。
 いつも、うちの穀潰しが、世話になって・・・・・。」
「 いえ、用事があるので、もう、帰りますので・・・・・・。」
「 そんなん言わんと、ちょっと上がって行きいな。」
「 あ、ほんとにだめなんです。」

Tは、母と俺に軽く挨拶をして、逃げるようにそそくさと帰って行った。



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[ 2007/04/25 18:15 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱60 

 母は、俺に言った。

「 ええ子やな。
 お前も、あんな子やったら良かったのに。」
「 穀潰しで、悪かったな。」
「 あはは。」

母は、笑いながら奥に入って行った。
 俺は、箱を持って二階の俺の部屋に上がった。
俺は、箱を机の上に置いた。
そして、思い出した。

「 そうだ、伯母に電話を掛けて箱が送られてきた事情を聞かねば。」

俺は、早速、実家に帰っている伯母に連絡を取った。
俺は、伯母に聞いた。

「 どうして、俺の所に箱が送られてきたのですか?」
「 お母さんは、惚ける前に、あの箱にあんたの名前を書いた紙を貼っ
 たよ。
 意味は、私には分からない。
 死んだ主人も、意味は分からなかったようだし、お母さんがしたこと だから、箱はあんたの物だよ。」
「 中の黒い箱に貼ってあった御札は、伯父がしたものですか?」
「 何か、やっていたと思うけれど、詳しくは言ってくれなかったから
 私には分からないよ。」
「 そうですか。」
「 それじゃ、電話、切るよ。」
「 ありがとうございました。」

俺は、電話を置いた。
短い会話だったが、おばばと伯父夫婦との間で何かやり取りがあったのだと俺は感じた。
そして、俺の長い一日が終了した。




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[ 2007/04/24 18:47 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱61 

 数日後、Tから連絡が入った。
明日、午後7時にSちゃんの実家に来て欲しいという連絡だった。
次の日、午後7時丁度に、俺とTは、Tの車に乗ってSちゃんの実家に行った。
お寺みたいな、大きな和風の家だった。
屋根の付いた観音開きの木の門が閉まっていて、横に通用門が付いていた。
チャイムを鳴らすと、Sちゃんが通用門から顔を出した。

「 ようこそ、私の実家へ。」
「 こんばんは。
 大きな家やな。」
「 かなり古いわ。
 京都にある昔からの家よ。」

 石畳が母屋に繋がっていた。
石畳からつつじの垣根越しに松の木や灯篭が置いてある庭園があった。
俺たち二人はSちゃんに連れられて、玄関まで進んだ。
Sちゃんが、玄関を開けて言った。

「 どうぞ。」

玄関に入ると、上がり框に和服を着た恐そうな祖父と温和そうな祖母が並んで立っていた。
Sちゃんの祖父は、赤鬼のように俺たちを睨み付けていた。




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[ 2007/04/23 18:22 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱62 

 俺たちは、祖父に押されぎみに挨拶した。

「 こんばんは。」
「 こんばんは。」
「 うむ、奥に入りなさい。」

板張りの廊下を歩いて、障子を開けると鷹の絵が描いた掛け軸と大小の刀を飾った床の間付きの和室があった。
 俺たちは和室に入り、2人並んで花梨の座卓を挟んでSちゃんの祖父母と向かい会って座った。
訳が分からないまま、しばらく、無言の睨み合いが続いた。
Sちゃんが、お茶を五つ持ってきて、それぞれの前に置き、祖父母の横に座った。
祖父が、祖母の方を向いて言った。

「 まさか、二人も来るとは思わなかった。
 ばあさん、どうする?」
「 うーん、わたしゃ、左の方がええな。」
「 そうか、わしゃ、右じゃ。
 困ったの、意見が分かれた。
 そうじゃ、大学は聞いておるが、学部はどこじゃ。」
「 医学部です。」
「 工学部です。」

祖父の眼が、キラリと光った。

「 おっ、医者じゃ、こっちで行こうか、なあ、ばあさん。」
「 そうじゃな、じいさん、わたしゃの好みは、こっちじゃが、惜しいな。」
「 あんたにしよう。
 S、こっちにしたらいい。」

祖父は、Tの方を見ながらSちゃんに同意を求めた。



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[ 2007/04/22 19:00 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱63 

俺たちは、何のことか分からなかった。
俺は、Sちゃんの祖母に聞いた。

「 何のことですか?」
「 彼氏が来るから、会ってくれと言われてな。
 まさか、二人も来るとは思わなかった。」

俺とTは、Sちゃんを見た。
Sちゃんは、言った。

「 勘違いしてるのよ。
 明日、男の人が相談に来るから会ってあげてと言ったら、どんどん祖
 父母同士で話が進んで、説明しようとしても、ぜんぜん話を聞かない
 んだから・・・・・。」

祖父はTに言った。

「 Sを末永く、よろしく頼んだぞ。」

Tは、言った。

「 いや、そうじゃ無いんです。」

祖父の顔色が、サッと変わった。

「 なに!
 Sに不満でもあると言うのか!!
 うちのかわいい孫に向かって!!!」



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[ 2007/04/16 20:36 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱64 

 祖父は、立ち上がった。
そして、床の間にある刀を取りに行こうとした。
俺たちは、とにかくヤバイと思った。
二人とも腰が浮いた。
Sちゃんが祖父を引き止めながら言った。

「 おじいちゃん、ちょっと待ってよ!」
「 S,何を言うておる。
 この馬鹿者に居合い五段の腕を見せてやる、離せ。」

祖母が、割って入った。

「 じいさん、じいさん、どうも話がおかしいようですよ。
 ちょっと、座って話を聞きましょうよ。
 ほら、ここに座って。」

祖父は、俺たちを睨み付けながら言った。

「 ばあさんが言うなら、仕方が無い。」

そして、横を向いてしぶしぶ座った。
俺は、今迄の黒い箱の経過を差し障りのない程度に話して、御祓いの助力を頼んだ。




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[ 2007/04/15 18:58 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱65 

 祖母が、言った。

「 ああ、そうだったの。
 わたしゃ、てっきりあれだと思って。
 あははは。
 わたしゃ、ホッとしたよ。
 そうね、Sは、まだ子供だからね。
  うん、そうだね、じいさん。
 昔、狐憑きを治したM寺の住職に頼んで見ようかね。
 かなり歳だけど、法力はあると自分で言ってたからね。
 私から、頼んであげるよ。」
「 よろしくお願いします。」

祖父は、横を向いたままだった。
 俺たちは、早々に礼を言って逃げるように退散した。
Sちゃんと祖母が見送りに通用門から出てきた。
二人に再度、礼を言って、Tの車に乗り出発しようとした時、祖母の声が小さく聞こえた。
祖母は、Sちゃんに向かって言った。

「 それで、どっちが、いいんだね?」

Tの車は、大きな音を立てて発進した。
車の音に消されて、Sちゃんの答えは聞こえなかった。





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[ 2007/04/14 20:04 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱66 

 5日後の日曜日、俺たち三人は京都のM寺に箱を持って行く事になった。
Tの車にSちゃんが乗って俺の家に来た。
俺は、箱を横に乗せて車に乗り込んだ。
再び、京都に向かって出発だ。
車に乗り込んで、直ぐにSちゃんは、俺に言った。

「 この前の夜はごめんなさい。
 前もって、言っておけば良かったわ。」
「 そうやで。
 殺されるかと思った。」
「 あはは。
 危なかったわね。
 おじいちゃんの居合い、すごいのよ。
 地面に2メートル程の竹を立てて置いて、斜めに切るとスパッと切れ
 るの。
 固定してないのね、竹は。
 立ててあるだけ。
 普通は切れずに、刀に当たった竹が吹っ飛ぶだけなの。
 それが、切れちゃうのよ。」

俺の頭には、時代劇で出てきて直ぐに切られる悪役の手下の映像が浮かんだ。
その顔は、Tだった。
Tは、言った。

「 お前、僕が切られる所を想像してるだろ。」
「 よくわかったな。」
「 僕が切られたら、お前は刺されてるよ。」

俺は、腹に刀が刺さった俺を想像した。

「 うう、気持ち悪い。」

Sちゃんは、うふふと笑った。
次に行く時は、鎧兜で行こうと思った。
俺は、窓の外の流れる風景を見ながら、Sちゃんは、あの夜、祖母に何て返事したのかなと思った。




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[ 2007/04/13 23:59 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱67 

 M寺に着いた。
静かな郊外の大きな寺だった。
門を入って作務衣を着た人に用件を言った。
俺たちは寺務所に案内された。
そして、箱をテーブルの上に置き、椅子に座って住職を待った。
しばらくすると、痩せた住職が現れた。
 俺は、一気に不安になった。
Sちゃんの祖母から聞いてはいたが、かなりの高齢だ。
テーブルの上に置いた箱を挟んで向こう側の椅子に住職は座ろうとしたが、足を椅子の足に引っかけた。
バタッ。
とっさに住職は、両手を箱の上について体を支えた。
思ったより運動神経は、良さそうだ。
 体が前のめりになって、俺たちの眼の前に住職の頭があった。
頭は光っていた。
そして、顔を上げてニタッと笑った。
顔と不釣り合いな総入れ歯も金色に光っていた。
箱の中の女の子は、びっくりしたかもしれないと思った。
 椅子に座った住職は、聞き取りにくい声で座っている俺たちに言った。
結構長い話だった。
もごもごと言う声は、昔の短波ラジオの放送の様だった。
俺たちは、昔のビクターの犬の様に首を傾けてその声を聞き取った。




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[ 2007/04/13 20:34 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱68 

 聞き取れた範囲で要約すると、話は長かったが、これだけしかない。

「 もう心配することは無い。
 事情は、聞いて分かっている。
 全宇宙の力を、わしは身に付けておる。
 ウルトラマンじゃ。
 ふっ、ふっ、ふっ。」

どう見ても、宇宙から来たウルトラマンには見えない。
住職は弟子に、箱を本堂に持って行けと指示を出すのに3分以上かかった。
ウルトラマンなら、指示を出す前に帰ってしまう。
そして、お色直しに去って行った。
 俺たち三人は、箱を持った作務衣の人について本堂に移動した。
大きな本堂は、雨戸が所々閉まっていて薄暗かった。
俺たちが入って障子が閉まると、ろうそくの明かりに照らされた室内は夕暮れ少し過ぎの雰囲気だった。
 箱を正面に置いて、坊さんの座る座布団が、3つ並んでいた。
俺たちの座布団も用意されている。
俺たちは、坊さん達に対してT字形に並んだ3つの座布団に座った。
少し離れた位置だが、座布団に座ると坊さんたちを横から見られる。
左からSちゃん、俺、Tの順番だ。
俺たちが、神妙に待っていると、先程の住職が弟子を二人連れて現れた。
住職の衣装は紫に変わっていた。



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[ 2007/04/12 18:06 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱69 

 住職を真ん中に左右が弟子で読経が始まった。
住職は、厳かな口調で、ばんばん、ばんばんと二回言い、棒で空中をかき回してから、何かを弾き飛ばすような仕草をした。
俺は、空中に蝿でも居るのかと思った。
三人の坊さんの合唱が始まった。

「 ら〜〜〜〜らんあんわんあんらんあ〜〜〜〜〜ん。」

深い重低音と強弱を付けた読経は本堂に響いた。
うおっ、これはなかなかだ。
でも、住職の声は出ているのかな?
どうも、聞こえないような気がする。
 左側の坊さんがシンバルみたいな金属の丸い楽器を持った。

「 じゃ〜ん、じゃらんじゃらんじゃらん、じゃ〜んじゃらん。」

一度大きく叩き、振動しているシンバルをうまくこすりあわせ、じゃらんじゃらんと音を出していた。
これは、すごい、頭に響きクラクラする。
三、四回、シンバルは、豪快に鳴った。

“ Sちゃんすごいよ、これ!”

Sちゃんの祖母は、すごい人を知っていたのだと思って、左に座っているSちゃんを俺は見た。




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[ 2007/04/11 18:35 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱70 

 Sちゃんは、俺が見たことに気付いて、こちらを見てニコッと満足そうな顔を見せた。
そして、膝のところで右手の人差し指を本堂の奥に向かって指差した。
Sちゃんは、俺の顔を見ながら、手首から先を盛んに前後に動かしている。
俺は、あっちを見ろと言っているんだと理解した。
俺は何だろうと思って、体を前に倒し、Sちゃんの体の前から本堂の奥を覗き込んだ。

“ あれっ、何かが動いている。”

仏像の左側の後ろから、白と茶色が混じった顔が覗いている。

“ ネコだ。”

 シンバルと読経に釣られて、ネコが様子を窺ってやって来たんだ。
この寺に飼われているネコだろう。
盛んに、こちらを覗き込んでいる。
 Sちゃんが、右手で小さく、おいで、おいでをした。
ネコは分かったのか、仏像の奥から出て来て、トッ、トッ、トッ、とやって来た。
そして、Sちゃんの顔を見上げてから、ず〜、ず〜しくも、Sちゃんの膝の上にあがり込んで丸くなった。
 Sちゃんは、両手でネコを抱えて俺の顔を見た。
とんでもない野郎だ。
俺は、ネコを睨み付けた。
ネコは殺気を感じたのか、するりとSちゃんの膝を降りた。
そして、俺の方を一度振り返ってから、読経している三人の坊さんに近付いて行った。



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[ 2007/04/10 18:16 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱71 

 読経をしていた左側の坊さんは、ネコが近付いて来たことに気が付いて、左手で、シッ、シッと追い払っているのが見えた。
ネコは、その手を気にもせず、左側の坊さんの前に廻り込んだ。
 ネコの動きが止まった。
ネコは、何かを見つけたんだ。
ネコは身を低くして、顔を上下に揺らしている。
え〜と、上下に揺れている物は〜。
住職は読経しながら、木魚を叩いている。
 そうか、木魚のバチだ。
ネコの視線の先にあるものは、住職の木魚のバチだ。
住職が叩いているバチの先についている丸いボールみたいな奴を狙っているんだ。
確かに、ボールの動きに合わせて顔が上下している。
Sちゃんは、じっとネコを見ていた。
Tは、ネコが見えにくいので体を前に倒して覗いていた。
俺は、ネコを見ながら、スゴクわくわくしていた。

“ 行くぞ、行くぞ、行くぞ・・・・・。
5、4、3、2、1・・・・・。
行ったあ〜。
ネコパンチ〜。”

 ネコは、住職のバチに突っ込んだ。
左の坊さんは、両手でネコを捕まえようとして前のめりになった。
ネコは、坊さんの手をすり抜けようとした。
坊さんの左手は空を切ったが、右手はネコの右足を引っ掛けた。

“ 惜しいなぁ〜、坊さん。”

坊さんの左手の数珠が吹っ飛んで、空中を本尊の方へ飛んでいった。



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[ 2007/04/09 19:46 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱72 

 ネコの方は、前のめりになって、木魚に向かって、スライディディングして滑って行った。
真ん中の住職は、驚いて両手を挙げてバンザイをした。
ネコは、ネコパンチの目標を失い、木魚に体ごと抱きついた。
そして、木魚を抱いたネコは、右側の坊さんの方へ滑って行った。
 右側の坊さんは、突然、ネコと木魚に突っ込まれて驚いて叫んだ。

「 うおっ!」

それでも、右の坊さん、体半身で前のめりになりながら、左手でネコと木魚をバックハンドキャッチした。

“ おお〜、ナイスキャッチ!”

でも、右手を大きく振り回したので、坊さんの右真横に置いてあった大きな太鼓を押してしまった。
押された太鼓は台座を離れ、ゴロゴロと後ろの方に転がって行った。
 それを見た左の坊さんが、スックと立ち上がって、タタタタタと走って太鼓を追いかけた。
右の坊さんは、バンザイをしたまま固まっている住職の前に木魚をすばやく置き、暴れるネコを押さえつけながら、控え室に衣の裾を翻して風のように走って行った。
その間に左の坊さんは、障子戸にぶち当たって転がっている太鼓を持ち上げ、大急ぎで元の台座に戻し、定位置に座った。
そして、両手を挙げたままの住職のバチは、再び振り下ろされたのだ。

“ ポクポクポクポク。”

 住職は、正確に木魚を叩き始めた。
薄暗い本堂の静寂のなかに、規則正しい木魚の音が2ビートで響いている。
そして、奥の控えの部屋から、鼻に傷テープを貼った坊さんが木魚の音のリズムでステップを踏み、すばやく住職の右に座った。
三役の揃い踏みである。
 そして、何事も無かったかのように、荘厳な読経は再開された。

「 ら〜〜〜〜らんあんわんあんらんあ〜〜〜〜〜ん。」
「 じゃ〜ん、じゃらんじゃらんじゃらん、じゃ〜んじゃらん。」

“ おお、何たるチームワーク!”

さすが、修業しているだけのことはある。
俺もTもSちゃんも、呆気に取られて、それを眺めていた。
それにしても、これは凄い。
俺は、仏教の真髄を見た気がした。




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[ 2007/04/08 19:33 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱73 

 しばらくして、左右の坊さんの読経が途絶えた。
いよいよ、次は主役の登場だ。
住職のソロが始まるぞ。
 俺は、偉大な住職に期待した。
行け、ウルトラマン!
全宇宙の力を見せてくれ!!

“ ん・・・・?”

 妙に静かな読経が始まった。
今までの迫力は何だったのか、急に迫力が無くなった。
全宇宙の力は、どうしたのだ。
どうも読経が、ふがふがしている。

「 ぽくぽくぽく、かつん、ぽくぽくぽくぽく、かつん。」

“ ・・・・・?”

 木魚の音は分かるのだが、かつんは何だろうと思った。
住職の手元を見ると、木魚を叩く手が少し震えていて、木魚を叩くバチが滑って木魚を置いてある机に当たって、かつんと言う音をたてている。
長い間、手を挙げていたので、疲れたのか・・・・・・。
それとも、長い間、木魚を叩いていたので、疲れたのか・・・・・・。

“ あっ、そうだ。”

 俺は理解した。
もう、3分はとっくに過ぎているのだ。
ウルトラマン住職の意識は、はるか彼方の銀河系に飛び去っているのだ。
意識の飛んだ住職のお経は、延々続いた。
 それにしても、変わったお経だ。
読経の声がふがふがしている。

“ ああ、そうか。”

 俺は、寺務所で見た、住職の金色の総入れ歯を思い出した。
ふがふがは、入れ歯が口の中で浮いているからだ。
それに、時々、お経が裏声になって、ぴゅ〜とか言う。
 俺は、だんだん可笑しくなって来た。
そして、俯いて笑いをこらえた。
俯きながら、Sちゃんを見ると、Sちゃんも俯いて必死で笑いをこらえている。
Tの方を見ると、Tはゆらゆら体を揺らし、気持ち良く居眠りをし始めていた。



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[ 2007/04/07 19:41 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(1)

蔵の箱74 

 住職の静かな読経は延々続き、だんだん小さくなってきた。
木魚の音も、強くなったり弱くなったりしながら、やがて途絶えた。
そのうち、住職は体を前後に揺らし始めた。
横から見ていると、寝ているようにも見える。
そして、微かに聞こえる住職の読経も聞こえなくなった。
薄暗い本堂を静寂が包んでいた。

“ これで、終わりかな・・・・・?”

そう思ったとき、住職は体をピクンと動かした。

「 うぐっ、うぐうぐ。」
「 ?」

木魚の音は、思い出したように、突然再開された。

「 ポクポクポクポクポクポク。」

 木魚の音が、妙に早いリズムで響き始めた。
とにかく、住職の営業は再開された。
住職の意識も、宇宙の彼方から戻ってきたのだ。
俺は、左に体を少し倒して住職を覗いて見た。
すると、住職は金色のハンバーガーをくわえていたのだ。

「 うぐっ、うぐうぐっ。」

“ ハンバーガーから、エネルギーを吸収している・・・・。”

そして、木魚の音には、不自然な力が徐々に入り始めていた。

“ あの金色のエネルギー源は、何だろう・・・?
 お供えを食っているのかな?”

それにしても、昼食休憩の時間とも思えない。

“ おお、分かった!”

 俺は、全てを理解した。
あのハンバーガーは総入れ歯だ。
半回転した総入れ歯が、読経の拍子に口から飛び出しそうになるのを、上下の唇で挟んで阻止しているんだ。
総入れ歯が口から落ちそうになって、住職は、ハッと意識を取り戻したのだ。
住職は、もごもご唇を前後に動かして総入れ歯を口に戻そうと努力しているが、元に戻らない。

「 うごっ、うごっ、うごっ、うっ!」

 総入れ歯は、住職の口を滑り落ち、膝でワンバウンドして座布団の前に転がった。
住職は、右手で木魚を叩きながら、咳き込んだ振りをした。

“ ごほっ、ごほ、ごほっ・・・・・。”

 そして、前屈みになると左手をさっと伸ばして入れ歯を掴み、口の中に放り込むとムグムグと調節した。
年寄りとは思えない素早さだ。
完全に住職は復活した。
住職の読経は再び開始された。
俺とSちゃんは、その一部始終を見ていた。
死にそうにおかしかった。



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[ 2007/04/06 19:11 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱75 

 読経が始まってから、かなりの時間が経った。
こう長いと、さすがに俺たちも疲れてきた。
それに、再び、住職も疲れてきたようだ。
 本堂の中に静かな時が流れていた。
本尊の前のろうそくの火が揺れている。
木魚の音も止み、抑揚の無い弱々しい読経のみが延々と続いた。
単調な読経が、薄暗い本堂に、時を忘れるくらい続くと、段々眠くなってくる。
俺は、何とか我慢して聞いていた。
眼を閉じたら寝てしまう。
俺は必死に住職を睨み付けて我慢した。
 その時、突然、右側に座っていた坊さんの気合いの入った声が響いた。

「 うやっ!」

起きていた俺とSちゃんは、ビクッとした。

「 ひょっ!!」

寝ていたTは、びっくりして30センチ程飛び上がった。
俺とSちゃんは、ぷっと吹き出してしまった。
 長い長い読経が終わり、坊さん達は席を立って奥に戻って行った。
俺たちは、寺務所に戻ってもとの椅子に座った。
箱は、作務衣を着た人が運んで来てテーブルの上に乗せられた。
着替えて来た住職が、箱を挟んで、俺たちの前の椅子に座った。
また、長々と話しが始まった。
その中で、一つだけ気になった項目があった。

「 これで、もう、キツネは山に帰ったじゃろう。」
 箱は、持って帰って処分しなさい。」

違っているように思ったが、まあ、いいかと聞き流した。
箱の中で、女の子がキツネの格好でぴょんぴょん跳んでいる気がした。
処分なんてとんでもない。
俺たちは、寺を後にした。
そして、箱は、俺の机の上に戻った。
 月末にM寺から、6万4千円の請求書が来ていた。
驚いた。
これが、相場なのか・・・・・・・。
それでも、知り合いの紹介と言うことで二割引きだと書いてあった。
もとは、8万円だ。
 家内安全のお守りが三人分付いて来た。
サービスらしい。
テレホンショッピングみたいだ。
でも、仕方が無い。
Sちゃんに恥をかかせてはいけないので、俺はバイトの数を増やした。
俺は、バイトに忙しくなった。



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[ 2007/04/05 19:55 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱76 

 3ヶ月が過ぎた。
ようやく、俺は、お寺の借金を払い終えた。
箱は相変わらず俺の机の上にあった。
もう、お寺はこりごりだ。
かといって、神社やお祓い師も、女の子をいじめて、何処かに追い払うようでかわいそうな気もした。
俺は、どうしたものかと考えていた。
特に何も起こらない日々が過ぎていった。
 今日は、久しぶりにTとSちゃんと3人で飲んだ。
Tが、俺とSちゃんに連絡を取って場を設定した。
今月に入って、Tと会う機会が減った。
どうやら、Tに彼女が出来たようだ。
同じ医学部の子らしい。
Tの下宿にも行きにくくなっていた。
 久しぶりだが、いつものようにバカ話の連続だった。
一つ違ったのは、今日は深夜まで飲むことをしないで三人とも家に帰ったことだ。
何故かというと、Tが明日の土曜日、昼に三人で植物園に行こうと言い出したからだ。
夜に会うことはあったが、昼はそれほど無い。
たまには、良いだろうということで、俺もSちゃんもOKした。
だから、俺は自宅に戻って、早めに寝てしまった。



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[ 2007/04/04 18:52 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱77 

 俺は、夢を見ていた。
夢を見ていることが自分でも分かった。
俺は、北陸のおばばの家の玄関に旅行鞄をぶら下げて立っていた。
俺は、おばばを呼ぶ。

「 来ましたー。」

すると、おばばは、日焼けした梅干しのような顔をして現れた。
 おばばは、無言で俺の頭を両手でぐるぐるかき回すように何回も撫でニタッと笑った。
今日は、いつもより撫でる回数が多いような気がした
俺は、髪の毛を元に戻しながら、一礼をして顔を上げるとおばばは消えていた。
 俺は、眼が開いた。
おばばの夢なんて何年ぶりだろう。
昔は、たまに見たが、しばかれる夢ばかりだった。
まだ、外は暗かった。
静かな俺の部屋に時計の音が規則正しく聞こえていた。
 俺は、起き上がって電気を点けて机の前に座った。
俺は、机の上の木箱を見た。
この箱が、俺の所にやって来て、何ヶ月か経った。
その間に、何かあっただろうか。
特に何も無く、箱は机の上にあるだけだ。



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[ 2007/04/03 19:27 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱78 

 俺は、箱を眺めた。
この箱に女の子は、住んでいるのだろうか。
一人で寂しく思っているのだろうか。
 俺は、今まで、この箱を何とか排除しようと考えていた。
でも、箱が来る前と来た後で俺の生活が悪化した覚えはない。
俺が惚け始めたとも思われない。
また、心臓が痛むと言うのも無い。
 伯父の心不全は、この子のせいだろうか。
突然死なんて、年がいけば何所にでもある。
 おばばは、どうだろう。
おばばは、あの女の子のせいで痴呆になったのだろうか。
おばばは、むしろ、昔のことを思い出して、女の子と遊んでやっていたのではないか。
おばばは、女の子が現れた時、この箱を封印しなかった。
封印せずに女の子と遊んだじゃないか。
そして、自分が死ぬ時、あの女の子を連れて行こうとしたのではないか。
しかし、おばばは病気で痴呆になってしまった。
そして、予定に反して、何も分からないまま、箱を残して逝ってしまった。
 俺の名前が書いた紙が木箱に貼られている。
この紙を貼った時は、少なくともおばばは、惚けてはいなかった。
貼る意味があって、それを考えたから、貼ったんだ。
人は、何時か死ぬ。
でも、それは遥か遠い先だとしか考えない。
 おばばは、遠い先のことを考えて貼ったのだろうか。
いや、人は、いつ死ぬか分からないのも事実だ。
交通事故のように、本人が明日も明後日も生きているだろうという予測を打ち切って起こってしまうこともある。
おばばは、もしも、そう言うことが起こった場合、この箱の対処のため、俺の名前を紙に書いて、この箱に貼り付けたのでは無いだろうか。
おばば自身に、何かが起これば、この箱の行き先が分かるようにしておいたのではないか。
いずれにしろ、おばばに万が一のことがあれば、俺の所に箱が行くようにした。
つまり、この箱は、おばばが俺に託したものではないのか。
 そうだ、そうだったんだ。
この箱は、おばばが俺に送ったものなんだ。
俺は、胸が熱くなった。
俺は、思った。

「 おばば、待っとれ。
 この箱は、今すぐには、持って行けない。
 でも、俺が死んだ時は、棺桶にこの箱を突っ込んで、俺がおばばの所
 に持って行ってやる。
  おばば、そうやったんか。
 俺は、分かった。
 おばばが、一番頼りにしていたのは俺やったんか。
 あほか、おばば。」

 俺は、眼から涙が溢れて来た。
鼻水まで出て来た。
ティッシュで拭いても止まらなかった。

「 よし、遺書を書くぞ。」

 俺は、箱を俺の棺桶に入れろと書いて、日付と名前とハンコを押して封筒に入れ、机の引き出しの奥に入れた。
そして、俺の部屋の押入れの襖を開け、机の上に置いてあった箱を、押入れの上段の隙間に仕舞い込んだ。

「 よし、これでいい。」

俺は、箱を軽くポンポンと二回叩いて襖を閉じた。
 俺は再び部屋の電気を消して、明日に備えて寝ようと思った。
布団に入って暗くなった天井を見ていると、俺の頭の中には、母の実家で過ごした色々な思い出が浮かんで来る。
それらのひとつひとつが、俺にとって掛け替えの無い思い出だ。
俺は思った。
その思い出に支えられて、俺は生きているのだと。




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[ 2007/04/02 19:00 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)

蔵の箱79 

 11月、空はよく晴れていた。
今日は、三人で植物園だ。
俺は、深く眠れたためか、スッキリしていた。
気になることは一つあったが、気分は良い。
 午後1時過ぎに、植物園の入り口に着いた。
集合は、午後2時だ。
早く来過ぎた。
TもSちゃんもまだ来ていなかった。
 俺は、入り口横にある石段に腰掛けて、植物園に続く並木道をボンヤリと見ながら、する事も無く二人を待った。
しばらくして、並木道の影から、こちらに向かって歩いて来る仲のいい二人連れが見えた。
俺は、一瞬その二人がSちゃんとTに見えたが、直ぐに違うことが分かった。
二人は、俺の横を通り過ぎ入場券を買って植物園に入って行った。
 俺は、Tと再会した時の事を思い出していた。
駅の階段を上がりながらTの顔が見え始めた。
そして、女の子を連れていることが分かった。
二人並んでニコニコしながら、俺を迎えてくれた。
 Tの横にはSちゃんがいたんだ。
それから後は、二人のペースだった。
二人とも俺より一年早く京都に住んでいて大学生だ。
俺は二人のペースに付いて行くだけで精一杯だった。
 今月に入って、Tを飲みに誘っても、Tの都合が悪い日が続いた。
俺は、Tに彼女が出来たと思った。
携帯で聞いたら、Tは口ごもりながら医学部の子だと言った。
でも、俺は、その子はSちゃんじゃないかと思った。
並木道の木々が風に揺らされて葉っぱが地面に舞い落ちている。
俺は、道の端に吹き寄せられて行く葉っぱを見ながら時間が来るのを待った。
 午後2時前に、Sちゃんが自転車で現れた。

「 やあ。」
「 ちょうどね。」

Sちゃんは、自転車を置きに行って、そして、戻って来て俺の横に座った。
二人で、特に会話も無く午後2時10分が過ぎた。
俺は、Sちゃんに言った。

「 遅いね。」
「 そうね。」

 Tの携帯に連絡を入れたが繋がらなかった。
30分経っても、Tは現れなかった。

「 どうしたんだろ。」
「 来ないかもしれないわ。」
「 えっ、どうして。」
「 喋り方、いつもの関西弁じゃないわ。」

俺は、ドキッとした。
言われて気が付いた。

「 そんなこと、ないで。」
「 極端ね。
 何弁で喋ってもいいわ。
 もう、中に入りましょう。」

俺たちは、二人で植物園に入った。




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[ 2007/04/01 20:11 ] 蔵の箱(後編) | TB(0) | CM(0)
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