家に棲むもの1 

 家に棲むもの

 長い夏休みが終わって2学期が始まりました。
夏休み中、のんびり暮らしていた教師にとって、9月とは言え、残暑の残る暑い中の過酷な日々は結構堪えます。
夏休み中、ガランとしていた校舎に、生徒たちの活気に溢れた声が帰ってきました。
私は、成長期の生徒たちのエネルギーには圧倒される気がします。
それでも、生徒たちの中には、夏休みに夜遅くまで起きている習慣のついてしまっている者もいて授業中あくびをしている者も見られます。
教師も夏休み明けの2学期当初は、調子がいまいちで、何時ものペースを取り返すにも少し時間がかかります。
 私は、今年から、N市で中学校の国語の教師をしています。
勤めている中学校の校区は、N市の下町で商店や住宅やマンションが立ち並ぶにぎやかな町の中です。
 私は、地元の女子大学を卒業し、2年間、地元で中学校の講師をして、ようやく去年、採用予定者数の多い隣の県の教員採用試験で合格し中学校の教諭になる事が出来ました。
講師の時は、自宅から通う範囲の中学校だったのですが、採用が決まった中学校は隣の県で自宅から遠く、三月末に採用連絡があって慌てて賃貸のマンションを借りて住む事になりました。
三月末のマンションは、良さそうな所は入居が決まっているものが多いのですが、たまたま駅前の賃貸業者で運良く、駅から近いワンルームマンションで家賃も安いものを見つける事ができました。
最初の頃は、何かと不自由なことも多かったのですが、今は、一人暮らしにも慣れて、両親から離れて生活するのもいいかなと思えるようになりました。



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[ 2007/02/17 17:16 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの2 

 今年の夏休みは、教科担当として受け持っている中学一年生の五クラス200人全員に、読書感想文の宿題の未提出はお仕置きをする、と宣言して出しました。
これぐらい言っておかないと提出をしない生徒もいるのです。
いい物があれば、全国の読書感想文のコンクールに出そうかな、と考えていたのです。
 2学期当初の忙しさが、少し落ち着いてきた頃、生徒が出した読書感想文の点検を始めました。
学校では、授業の予習や宿題点検、会議や雑務で、落ち着いて読書感想文を読むことができないので、自宅に持って帰って読むことにしました。
私は、コンクールに出せそうな物が出てくることを期待していました。
 昨日は、一クラス目の40人分を読んで、良さそうな物を三つ選びました。
今日の二クラス目は、私が担任しているクラスです。
読書感想文は、普段クラスの中で、その生徒が話していることと違った面を見ることが出来ます。
教師は、生徒と接する中で、生徒が思っていることの一部しか分かりません。
一人一人の生徒が、一人一人違った家庭環境で育ち、今の生徒があるのです。
私は、クラスの生徒一人一人の読書感想文を読んで、普段、私が知らなかった面を見つけようと考えていました。
 夜の11時頃から、マンションの部屋で感想文の束を読み始めました。
名簿の一番から順に読みました。
物語の粗筋を述べて感想は一行とか、後書きを写してあるようなものなどが続き困ったなあと思いました。
始めの五人程を、通過して六人目に差し掛かりました。



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[ 2007/02/17 17:15 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの3 

 六人目のKは男子で、クラスでは前にどんどん出てくるような子ではなく、比較的大人しい部類に属する子でした。
Kの出身小学校は隣町のT市で、中学校からこのN市に引越しして入学して来た子です。
 5月に全校一斉の家庭訪問があり、Kの家に行った時、母親と話をしました。
引越しした理由は、Kが小学校6年生の冬に父親が交通事故で亡くなり、母子家庭となった経済的なものであると聞きました。
前の家である賃貸の一戸建てに住み続けるには経済的に苦しく、母親の収入では賄い切れなかったので、安いマンションに引越しするつもりだったと言うことです。
でも、不思議な事に、私が訪れた家はマンションではなく引越ししてくる前と同じ一戸建てでした。
私は、家賃の安いマンションに引越しの予定じゃなかったんですかと母親に聞きました。
すると、母親は、たまたま、不動産屋に紹介してもらったこの一戸建ては、JRと私鉄に挟まれた便利な立地にもかかわらず、家賃は破格の安い物で、実際、賃貸マンションよりも安いんですと話してくれました。
 Kは、四月に学校に来て直ぐに友達も数人出来て、一学期の初めにはクラスに馴染んでいたと思います。
特に目立つことは、成績が優秀で、一学期、クラスではトップでした。
理知的な眼に深い洞察力を持っていると感じていましたが、同時に、父親を亡くした以外に、心に影を持っている感じがして、私は、それは一体何なんだろうとも思っていました。
面談をしても、口数は少なく、多くを話してくれませんでした。
また、一学期、掃除の時間などに、Kに話しかけてもニコッとはするのですが、会話が弾むと言うことはありませんでした。
だから、Kは普段何を考えているのかな、と興味を持ってKの読書感想文を読み始めたんです。



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[ 2007/02/17 17:14 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの4 

 題名が書いてありました。

「 読書感想文 恐怖実話怪談集」

もっと、理系の科学的なSFとかを予想していたのですが以外でした。
でも、夏場にピッタリの読み物です。
創作した怪談も怖い物があるのですが、実話体験談も面白い物があります。
私も、中学校の頃、興味を持って読んだ事を思い出していました。
学校図書館の司書に聞いたのですが、分野別で貸し出しの多い物の筆頭はこの怪談分野だそうです。
 私は、早速読み始めました。

「 僕は、夏休みの読書感想文に恐怖実話怪談集を選びました。
 今日は、もう、8月の31日です。
 今まで、宿題をしていなかったので、今日の昼、図書館に行って借
 りてきました。
 借りて来たのはいいんですが、夏季研究工作とポスター製作に時間
 を食って、まだ、本が読めていません。」

“ あら、最終日に全部やる気だわ、まったく・・・・・・・・・。”

「 もう、夜の午前1時です。
 今から、必死で読もうと思います。」

“ 困った子だわ。”

「 この本は、四つの話から出来ています。
 どれか一つ選んで書いちゃえばいいかな、なんて甘い考えで読み始
 めました。
 でも、一通り読んでから、どれについて書こうか決めようと思います。
 それじゃ、読みます。」

「 時間がかかって、なかなか読み終わりません。
 まだ、途中です。
 三話目まで、読み終わりました。
 あと、一話です。
  もう、午前三時です。
 こんな時間まで起きているのは初めてです。
 いつもなら熟睡中です。
 僕は、一度寝ると朝まで爆睡状態で眼を覚ましません。
 真夜中は自動車の音も無くって、静かなことが分かりました。
  今、ビシッと言う音がしました。
 家鳴りです。
 母から聞きました。
 木造の家が古くなると、湿度で家が軋んで音がするのです。
 この家は、古い家でよく家鳴りがします。」

“ 古く無くても、家鳴りはするわ。
実際、このマンションの私の部屋だって、湿度のせいか風呂で音がすることがあるし。”



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[ 2007/02/17 17:13 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの5 

「 もう、時間が無いから、感想文は読みながら書くことにします。
 前の三話はたいした事無かったです。
 だから、四話目を感想文にします。
 どんな話か分かりませんが決めました。
 もう、時間がありません。
 読みながら書くので、実況中継です。
  四話目は、“家に憑くもの”と言う題名です。
 あるN市の家の話しです。
 N市は、この市と同じイニシャルです。
 適当に付けてあっても、同じイニシャルだと、この市のように思え
 るのが不思議です。
 敷地が三角形で道の分かれ目にある家だそうです。
 僕の家も、Y字型に道が分かれた角っこの家です。」

“ そうだわ、家庭訪問に行った時、変わった家だと思ったわ。
二車線の広い道路の行き帰りの車線が、Kの家の所で左右に二つに分かれていて、どちらも行き帰りの一方通行になっていたわ。
Kの家は、ちょうど一方通行に分かれる真ん中の三角の敷地に建っていたわ。
道の正面で、脇見運転していると家に飛び込んでしまいそうで危ないなと思ったわ。
家賃が安いのは、これのせいね。
それに、車が突っ込んできても弾き飛ばせるように、大きな石が一つ分かれ目に置いてあったわ。”

「 家に憑くものの話を簡単に紹介します。
 主人公のHが駅前の賃貸業者で格安の木造二階建ての物件を紹介され
 て、入居した所から物語は始まります。
 この家も、僕の家と同じ屋鳴りがするそうです。
  入って数日は、何も起こらなかったそうです。
 入居して二週間ほど経った頃、Hが夜、二階で寝ていると階段を上が
 って来る音が聞こえて来て、眼を覚まします。
 何の音だろうと布団の中で襖を背にして、耳を澄ませて聞いていま
 した。
 階段を、一段、一段、ずる〜っ、ずるっ、ずる〜っ、ずるっと何か
 が這い上がって来るのです。
 泥棒にしては、音を出すのでおかしいと思ったようです。
 Hは、恐くなって、襖を背に、強く眼をつぶって寝ている振りをし
 ました。
 じっと聞いていると、音は階段を上がりきり、後ろの襖をすう〜っ
 と開ける音が聞こえました。

  あれっ、今、一階で何か音がしました。
 ちょっと、見てきます。
 泥棒だったら、怖いです。」

“ おい、おい、本当に泥棒だったら、刃物を持っているし危険だわ。
武器も持たずに行ったのかしら?”




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[ 2007/02/17 17:12 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの6 

「 今、戻ってきました。
 確かに音がしたと思ったのですが、母はぐっすり眠っているし、気
 のせいだったかも知れません。
 母は、最近、疲れやすくなったと言って、アルバイトも休みがちです。
 引っ越して来る前は、病気をした事も無く元気だったのですが、気
 苦労が多いせいでしょうか。
 玄関にも鍵が掛かっていたので、大丈夫だと思います。」

“ 泥棒じゃ無かったんだわ、良かった。
 結構、お母さん思いなのね。
 気苦労なんてなかなか言えないわ。”

「 あ、話を戻します。
 でも、読むのがとても怖いです。」

“ そう言うものを選んだんだから・・・・。”

「 襖の方から自分の寝ている背中に何かが這って来る気配がします。
 背中の方の布団に重みを感じます。
 何かが腐ったような臭いがしてきます。
 Hは、恐怖で南無阿弥陀仏と心の中で念仏を唱え始めました。
 Hの後頭部に息がかかっています。」

“ 結構、恐い話しね、ちょっと窓を閉めましょう、気持ち悪いから。
ん、今、カーテンの隙間に何か黒い影が見えた気がしたけど?
この部屋、三階だし外を人が通る筈が無いわ。
そうよね、怖い話を読んでいるから、見えた気になるんだわ。
自動車が通過した時、ライトの灯りで電柱の影とか、壁に動いて見えるから。”

「 何かが、私の耳の近くに顔を近付けて、私の顔をじっと見ている
 気配がしました。
 そして、しわがれた男の声が耳元で聞こえました。

 『 念仏なんて、効かない・・・・・。』

 私は、気が遠くなって行くのを感じて、意識が無くなりました。

 僕は、念仏は効くと思っていました。
 この幽霊は、キリスト教の幽霊かなと思いました。」

“ おい、おい、イスラム教かも知れないわ、ふふ。”



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[ 2007/02/17 17:11 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの7 

「 気になるので、この話の最後はどうなっているのかページを捲
 って、チラッと見てみます。
 えっと、やはり取り憑かれて、この人は自殺しています。
 早く、捲ったページの分を埋めて感想文に取り掛かりたいです。
  えっ、また、一階で音が聞こえます。
 母が、トイレに起きたのかな。
 でも、トイレの扉を開け閉めする音はしません。
 それに、先程、母はぐっすり眠っているのは見て来ましたから、母
 では無いと思います。」

“ 今度こそ、泥棒?”

「 先程、台所も誰もいなかったから・・・・、あっ、トイレを見て
 いませんでした。
 トイレに泥棒が隠れていたら大変です。
 泥棒が玄関から入って来ていたのかもしれません。
  まだ、音がしています。
 階段の下辺りです。
 見に行くのも恐いです。
 包丁で刺されたりするかもしれません。
 警察に電話は掛けられません。
 電話は、一階の台所なんです。
 階段を下りると泥棒と鉢合わせになります。
 こそ泥だったら物を物色して出て行くと思います。
 母はこう言う時の為に、五千円札を一枚、台所に置いているのです。
 何も取る物が無いと余計危険です。
 母の声も聞こえないので、母は大丈夫だと思います。
  えっ、・・・・・・・・・。
 今、階段を、何かが上がってきてます・・・・・。
 いやにゆっくりと、一段ずつ上がって来ます。
 こんなにゆっくり上がって来るから、母ではないと思います。
 それに、何かを引き摺って上がって来るような音がしています。
 泥棒だったら、あんな音は出さないと思います。
 この家には、僕と母しかいません。
 僕は、ちょっと怖いです。
 階段を、一段、一段、ずる〜っ、ずるっ、ずる〜っ、ずるっと何か
 が這い上がって来ています。」

“ 本の内容と同じじゃないの、怖いわ・・・。”



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[ 2007/02/17 17:10 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの8 

「 今、襖の所で音が止まりました。
 襖を掌で擦っているような音がしています。
 襖の下の方でシューッ、シューッ、と襖を擦るような音がしてい
 ます。
  僕は、嫌です。
 何かが、この部屋に入ろうとしています。
 僕は、襖を見ています。
 開かないで下さい。
 怖いです。」

“ どうなるのかしら……、危ないわ。”

「 今、音が止まりました。
 廊下にいると思います。
 廊下を挟んだ向かいの部屋の襖を開ける音がしました。
 この部屋の襖は閉まったままです。
 ずる〜っ、ずるっ、と言う音が向かいの部屋に入って行きます。
 向かいの部屋の襖が、閉まりました。
 音が聞こえなくなりました。
  僕は、どうしたらいいのでしょう。
 今は、音はしません。
 僕は、何が入って行ったのか凄く気になります。
 向かいの部屋の様子を見てこようと思います。
 念のため、少年野球の時、使っていたバットを持って行こうと思い
 ます。
 今から、行きます。」

“ 行かない方がいいんじゃないかな・・・・・・・。
それ、泥棒じゃないわ。
私は、霊感とかぜんぜん無いから分からないけれど、普通じゃ無いわ。
大丈夫かな・・・・・・・。”



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[ 2007/02/17 17:09 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの9 

「 戻ってきました。
 廊下の向かいの部屋に行ってきました。
 とても、怖かったです。
 僕は、まだ、心臓がドキドキしています。
  僕は、バットを左手に持って、自分の部屋の襖を右手でゆっくり
 開けました。
 廊下は真っ暗で何もいませんでした。
 向かいの部屋の襖が見えています。
 襖は、閉まっていました。
  僕は廊下に出て、右手で向かいの部屋の襖を少しずつ開けて、隙
 間から中を覗き込みました。
 隙間から見える範囲では、特に変なものはいませんでした。
 中は暗く、ガランとした畳の部屋は、外の街灯の明かりがカーテン
 の狭い隙間から少し入って、辛うじて物の形が分かる程度でした。
 この部屋は、普段使っていません。
 この家に来たときから置いてあった箪笥が、奥の壁際に一つあるだ
 けです。
  襖を開けて、僕は部屋の中に注意しながら入りました。
 部屋を見回しても、何もいません。
 確かに先程の音は、部屋に入って行ったと思います。
 おかしいです。
 何処に行ったんだろうかと思いました。
  僕は、注意深く箪笥の前まで進みました。
 特に変わったことはありません。
 でも、何か分かりませんがおかしいです。
 部屋の空気が冷たいような気がします。
 暗い部屋の中はシーンと静かです。
 静か過ぎて、僕はだんだん怖くなってきました。
  僕は、我慢できなくなって自分の部屋に早く戻ろうと思いました。
 僕は、後退りして襖のところまで戻りました。
 そして、部屋を出ようと後ろを向きました。
 廊下に左足を一歩踏み出したとき感じたんです。
 左手に持ったバットが、少し下に引っ張られます。
  僕は、体の動きを止めました。
 後ろの足下に誰かがいるんじゃないか・・・・・。
 何かが腐ったような臭いがします。
 息使いが僕の後ろで聞こえるような気がしました。
 僕は、後ろを振り返ろうかどうしようかと迷いました。
 とても、怖かったです。
 僕は、後ろを見てはいけないと思いました。
 見たら僕は終わってしまうんじゃないかと思いました。
  僕は、もう一歩右足を踏み出して、部屋から廊下に出ました。
 後ろを見ないようにして、右手で襖を閉めようとしました。
 襖に伸ばした右手が、襖の縁に触った時、右手の指に冷たい手が僅
 かに触れたんです。
 心臓がドキドキしました。
 僕はかまわず、右手で襖を閉めました。
  廊下でも後ろを、見ませんでした。
 自分の部屋の襖を開けた時も、後ろは見ませんでした。
 自分の部屋に入って、襖を閉めてホッとしました。
 何かは、ついて来ていません。
 良かったです。
  今、向かいの部屋から、音は聞こえてきません。
 しばらく、じっとしていようと思います。
 今のうちに、感想文を書いてしまいます。」

“ 何かが、戻ってくるとか・・・・・。”



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[ 2007/02/17 17:08 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの10 

「 30分程経ちました。
 ずっと音はしていません。
 時計の音が大きく聞こえているだけです。
  今、新聞屋さんの音が外でしました。
 少し、外が明るくなって来ています。
 もう、大丈夫だと思います。
 ようやく、明るくなって来たのです。
 うれしいです。
  今日は、始業式です。
 少し眠ろうと思います。
 変な感想文になってすみません。」

 私は、感想文を読み終わって考えていました。
Kは、二学期になって、特に以前と比べて、表情が暗くなったと言う印象はありませんでした。
むしろ、二学期になって表情が明るくなったような気がします。
私は、感想文を読むのを一旦止めて、残りは明日読もうと思いました。
実話怪談集の家は、ひょっとしたらKの家ではないのかと言う気がしたのです。
 ベッドに入って、Kの感想文を思い出していました。
霊感のある人ってどんな人かしら?
私自身は、まったく霊感ゼロだと思います。
むしろ、そう言うものを信じて無いからでしょう。
私は、ちょっとKを疑い始めました。
Kは、嘘を言うような子では無いと思います。
だとしたら、私を脅かそうとするKのいたずらじゃないでしょうか。
 もう、午前一時です。
時計の音が大きく聞こえます。
また、風呂の水漏れの音がしています。
このマンションに入ってから、気にはなっています。
入居してから、一度、水道業者を呼んで調べてもらったのですが、何処も異常が無いと言うことで調査費だけ取られました。
立て付けが悪いのか、風呂のドアを閉めておいても朝になると開いていることがあります。
私は、Kの真意が分からないまま眠りにつきました。



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[ 2007/02/17 17:07 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの11 

 次の日、私は、昼休みにKを相談室に呼びました。
Kは、一瞬、えっ、と言う顔をしましたが、感想文のことですね、と言うと私の後を付いてきました。
相談室に入って、テーブルを挟んで向き合って座りました。
私は、Kに言いました。

「 読書感想文のことだけど。」
「 ええ、すみません。
 読書感想文になってないですね。
 怖かったですか?」
「 怖かったわよ。」
「 良かった。」
「 良かったじゃないわよ。
 私を脅かそうとしたでしょう。」
「 いえ、本当のことを書きました。」
「 そんなこと起こらないでしょう。」
「 いえ、本当に起こりました。
 でも、もういいんです。」
「 いいことないじゃない。」
「 引越ししたんです。」
「 えっ。」
「 あの感想文を書いて少し眠りました。
 その時、僕は、夢を見たんです。
 死んだ父親が、夢に出て来て首を横に振るのです。
 とても悲しそうな顔をしていました。
 僕は、この家のことだと思いました。
  何かが、僕の部屋に入ろうとしていました。
 でも、入れなかった。
 父が僕を助けてくれたんです。
 部屋を出たのは、危なかったと思います。
 でも、何とか部屋に戻れました。
 父が、守ってくれたのだと思います。
  朝、眼が覚めて直ぐに、母の所に行きました。
 母は、起きていました。
 母は、僕の顔を見るなり、父の夢を見たと言いました。
 それも、僕と同じ夢を見ていたのです。
 母も父に助けられていました。」
 
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[ 2007/02/17 17:06 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの12 

「 夕方、僕と母は伯父に付いて来て貰って、駅前の不動産屋に行き
 ました。
 そして、不動産屋に事情を説明しました。
 それで、不動産屋は始めは渋っていたのですが、危ない家だと白状
 しました。
 Yマークの家だったんです。
  不動産屋は、客向けの台帳じゃなくて、奥から事業用の台帳を調べ
 て来ました。
 あの家の最初の持ち主が、15年前の8月31日、突っ込んできた
 車と家の間に挟まれて亡くなったそうです。
 丁度、大きな石が置いてある所です。
  持ち主の体は、車と家に挟まれて酷い状態だったそうです。
 潰れた体では、普通に階段は上がれませんよね。
 その事故の後、車が突っ込んで来ないように、あの大きな石を置い
 たそうです。
 二階にあった箪笥は、その人の物だそうです。
 伯父がどうして処分しないのか聞いたのですが、不動産屋は言葉を
 濁したまま黙ってしまいました。
  でも、もう、いいんです。
 直ぐに別のマンションを紹介してもらって引越ししたからです。
 引越しするまでは、伯父の家に泊めてもらいました。
 引越し先の、今のマンションは快適です。
 母の体も嘘のように元気になりました。
 だから、もう、いいんです。」
「 その駅前の不動産屋って、駅の正面のビルの二階にある不動産屋?」
「 そうです。
 どうかしたんですか?」
「 ええ、行ったことがあるから。」
「 伯父が言ってました。
 周辺のものと比較して、妙に安いのは訳ありだよって。
 確かにそうだと思いました。」
「 じゃ、本当だったの。」
「 そうです。
 僕は、霊感なんて嘘だとずっと思っていたのです。
 でも、思い直しました。
 こんなのは、二度と嫌です。」
「 あなたの読書感想文を読んでいて、実話怪談集の家は、ひょっと
 したらあなたの家ではないのかと言う気がしたの・・・・・。」
「 それは、どうか分かりません。
 N市のイニシャルも同じだし、家の場所も、起こった事も似ています。
 でも、そうなのか、そうでないのかは分かりません。」
「 今度、実話怪談集を見せてくれる?」
「 ええ、いいですよ。
 あっ、五時間目のチャイム。」
「 あっ、分かったわ。
 これからは、楽しく行けるね。」
「 たぶん。」
「 じゃ、授業に行きなさい。」
「 はい。」



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[ 2007/02/17 17:05 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの13 

 Kは、相談室から出て行きました。
九月から表情が明るくなった訳が分かりました。
私は、駅前の不動産屋のことを考えていました。
今年の、三月末に採用連絡があって、慌てて賃貸のマンションを借りて住む事になった時、私が行った業者だったからです。
三月末のマンションは、良さそうな所は入居が決まっているものが多く、駅から近いワンルームマンションで、家賃も安いものを見つける事ができたのは、本当に運が良かったのでしょうか。
 私は、霊感とかぜんぜん無いから分からないけれど、Kの言っていることは信用できると思いました。
これまで、こんなことはテレビの中の作り事だと思っていたのですが、目の前でKの話を聞いていると有り得ることだと思えるようになった気がします。
とにかく、Kの表情が明るくなったのは良いことだと思いました。
 
 今日も、暑い中、午後7時頃まで、仕事をして疲れて帰ってきました。
夕食に、冷やし中華を作って食べました。
しばらくテレビを見たり、本を読んだりしていました。
でも、まだ仕事が残っています。
読書感想文の続きを読まなければなりません。
 もう、午前0時に近いです。
夜でも暑さが残っていて体がべた付きます。
風呂の入って、すっきりしてから読書感想文を読もうと思いました。
このマンションの風呂は結構広く、入り口から入った右手に湯船があり、正面の壁には鏡、その下には蛇口とシャワーが付いています。
私は、ドブンと首まで湯に浸かりました。
丁度良い湯加減で、凄く気分良く感じました。
 しばらく湯船に浸かっていると、カサカサと何かの擦れる音が何処かから聞こえて来ました。
普段なら、隣の住人の音だと思うのですが、Kの感想文を読んだせいか、妙に気になります。
でも、隣でしょう。
マンションでは、音は響きやすいのです。



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[ 2007/02/17 17:04 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの14 

 今日は、放課後、文化祭の準備で走り回っていたので汗をかきました。
湯船から洗い場にあがって小さい椅子に座り鏡を見ると、髪が汗と油で頭に張り付いているように見えました。
私は、髪がべとついて気持ち悪かったので、まず髪を洗おうと思いました。
シャワーのお湯で頭を流します。
お湯の湯気で鏡が曇りました。
 私はシャンプーを取り、うつ伏せに前かがみになりました。
耳の辺りから、お湯が顔に滴れて来て眼がくしゃくしゃします。
そして、掌でシャンプーを泡立て、頭から下に垂れている髪を揉む様にして洗います。
シャンプーの飛沫が眼に入って痛いので眼を瞑りました。
しばらく眼を瞑ったまま、頭から下に垂れている髪を洗っていて、ふと気が付きました。

“ えっ、髪が長い・・・・・・。”

髪が、20センチ程長いのです。
 私は洗う手を止め、じっとそのままの姿勢で様子を窺いました。
そして、そっと髪から手を離しました。
私の髪はもっと短い・・・・・。
 私は眼を開けるのが怖くって、眼を開けられませんでした。
私の後ろは風呂場の入り口の扉です。
風呂に入った時、扉は確か閉めたと思います、でも・・・・。
誰かが部屋に入ってきたのか・・・。
 私は玄関の鍵を掛けたかどうか思い出そうとしました。
私は、用心深いので、何時も鍵を掛けている。
そう、絶対、掛けた筈です。
玄関は鍵が掛かっていて、誰も部屋に入れる筈はありません。
 私は、何か得体の知れないものがいるような気がしました。
後ろの扉の方から、隙間風のような空気の流れがあります。
そして、私はうつ伏せになっている私の首筋に、後ろから息を感じたんです。
その時、私は身も心も凍り付きました。
恐ろしくて、どうして良いのか分かりませんでした。



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[ 2007/02/17 17:03 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの15 

 とにかく、体勢を戻さないと脱出するにも動きが取れません。
私は、眼を瞑ったまま、ゆっくりと体を起こし正面を向いて座りました。
途中、背中に何かが当たらないか不安だったのですが大丈夫でした。
 私は、正面を向いたまま考えました。
私の後ろの扉は開いているのでしょうか。
閉まっているのでしょうか。
後ろが怖いのです。
 髪を伝ってシャンプーが顔に垂れてきます。
後ろからは、何も音は聞こえません。
でも、何かがいる気がします。
 鏡が正面の壁にあります。
その鏡に何か映っていないかと思いました。
私は、顔を伝うシャンプーの中で眼をそっと細く開け、正面を見ました。
正面の鏡は湯気で曇っていました。
鏡には、私の後ろが映っていないんです。
 私は、このまま風呂場から飛び出したいと思いました。
でも、脱出するには、扉を通過しなければなりません。
出口の扉は後ろなんです。
私は、足が震えました。
 私は正面を向いたまま座っていました。
考えられないくらい長い時間が流れたように思いました。
私はだんだん緊張に耐えられなくなって来ました。
そして、私は意を決して、後ろを見てみる事にしたんです。
最初は顔を右に回しました。
視界は前にある曇った鏡から、右にある湯船を通過しました。
そして、風呂場の角を通過して、後ろの壁から扉が徐々に見え始めました。
まだ、何も見えません。
そして、次に、上半身を体ごと捻って真後ろを見ました。
でも、そこには何もいなかったのです。
後ろの扉は閉まっていました。
 私は、ホッとしました。
そして、後ろをオドオドして見ている自分が可笑しく思えました。

“ 何だ、気のせいか。”

私は、床に転がっているシャワーを取って鏡にお湯を掛けました。
きれいになった鏡には、後ろの扉を背景に情けない顔をした私が映っていました。

“ 何だ、腹が立つ。”

私は自分に腹を立てていました。
何も起こっていない、いつも通りの風呂だったんです。



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[ 2007/02/17 17:02 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)

家に棲むもの16 

 私は、改めて髪に残っているシャンプーを洗い流しました。
洗い流しながら、考えました。
Kの話で、変な影響を受けているのかも知れない。
私は、もともと、霊感なんて信じてなかった。
でも、Kの話を聞いて、否定すればKの嘘に繋がります。
肯定すれば、これまでの私を否定することになるのです。
私は、Kの話を教師として信用しなければなりません。
生徒を信じてやることが、私の立場です。
今まで、気にならなかった事が、Kの話を信じたので、気になって来たのだろうと思いました。
 私は、再び湯船に浸かり壁や天井を見回しました。
何の異常もありません。
私は、やっぱり気のせいだと思いました。
そろそろ風呂から出て、読書感想文の続きを読まなければなりません。
私は、湯船から洗い場に出ようとして、洗い場の床に眼が行きました。

「 えっ!」

そこには、私の髪より明らかに長い髪の毛が数本、湯船から流れたお湯に揺らめいていました。

「 いやっ!!」

私は、風呂を飛び出しました。

 読書感想文は当分休憩です。
今日は、同僚の所に泊まります。
事情を話したら、泊めてもらえる事になったからです。
同僚に、鈍感だと言われました。
それに、良く今まで無事だったわねとも言われました。
そう言われると確かにそうです。
あのマンションに、半年近く住んでいたのです。
 私は、Kの話しの中で、Kが父親に守られていた事を思い出しました。
私は、どうなのかなと思いました。
そして、一つ思い出した事があります。
私が、20才の時です。
気の早い私の母親が、私の縁談についてS神社に占いに行った事がありました。
その時、私は父方の曾祖父に守られていると言われたらしいのです。
今まで、ぜんぜん気にもしていませんでしたが、そうかもしれないと思えるようになりました。
もっとも、縁談は29才らしいのでまだまだらしいですけどね。
 明日、駅前の不動産屋に行ってYマークの理由を白状させます。
同僚も付いて来てくれる事になりました。
そして、結論です。

「 取り憑かれないうちに、引っ越し、しようっと!!」


    完了

読んで頂き有難うございました。

次回より、“蔵の箱”を始めます。



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[ 2007/02/17 17:01 ] 家に棲むもの | TB(0) | CM(0)
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