入院1 

   入院

 俺は、大阪の大学の5回生だった。
去年は単位を落として卒業できなかった。
友人は数人を残して皆卒業して、俺は大学に取り残された。
学費を出してくれている両親もうるさいし、今年は卒業したいと思っていた。
 当日は卒業論文の資料調べで大学の図書館へ来ていた。
12月25日、クリスマスの寒い日だった。
数日前から、ストレスからか体調不良は感じていたが、どうも今日は熱があるなと思った。
図書館で本を数冊調べているうち、たまらなく体がだるくなってきた。
隣にいた友人の声が耳から遠退いていく。
 俺は、席を立って家へ帰ることにした。
電車の中では、長いシートに横になりたかった。
隣に座ったおばはんの買い物袋から流れる甘い臭いに吐きそうになった。
 家について玄関の上がり框で、うつむきにくの字になってうずくまった。
両親が玄関にやってきて、玄関で熱を測った。
38.2度。
両親は、早く医者に行けといった。
自動車で送ってくれるものと思ったが歩いていけと親は言った。
俺は、仕方なく自転車にしがみついて近所の医者に行った。
 医者に行くのは久しぶりだ。
待合室には、じいさんばあさんが楽しそうに話をしていた。
座る席が無いので、壁にもたれて崩れ落ちそうになるのを我慢して待った。
40分待った。
前からいるじいさんばあさんが、後から来たじいさんばあさんに席を譲って、俺は何時まで経っても座れなかった。
 ようやく名前を呼ばれたときは、よれよれだった。
診察室に入ると、50才ぐらいの脂ぎった医者が笑顔で座っていた。
俺の顔を見て、直ぐに医者は言った。

「 風邪です。」

30秒で診断は下された。
 俺は、3日分の薬を貰って帰った。
両親は、何だ風邪かという顔をした。
薬の袋には、高貴薬と言うハンコが押してあった。
俺は、疑問を持ちながら薬を飲んだ。
やはり、3日経ったが熱は下がらなかった。



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[ 2007/01/24 18:22 ] 入院 | TB(0) | CM(0)

入院2 

 4日目、医者に行った。
医者は、さかんにおかしいと言った。

「 おかしいですね、これ。
 いい薬、出してるんですけどね。
 普通の人だったら、熱、下がるんですけどね。
 レントゲン撮ってみましょう。
 最新の機械を入れたんですよ。」

医者は嬉しそうに言った。
俺は、自分では普通の人だと今まで思っていたのに、普通の人では無かったようだ。
 レントゲンの現像に1時間待たされた。
名前を再度呼ばれて、診察室に入ってレントゲンの映像を見た。
何か真っ黒で分からなかった。
医者は、言った。

「 ちょっと現像失敗しましてね。
 でも、ここ見てください。
 白いもやが有るでしょう。
 これは、入院ですよ。
 病院を紹介します。」

俺は、身を乗り出して映像を見た。
画面は真っ黒で、僅かに体の両側の線が分かる程度だった。
俺は確かめたくって聞いた。

「 何処ですか?」
「 ここ、ここですよ。
 ほら、白くもやっとしてるでしょう。」


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[ 2007/01/24 18:21 ] 入院 | TB(0) | CM(0)

入院3 

 医者の指差した所を、目玉が落ちるぐらい眼を見開いて凝視したが、他の部分と何処がどう違うのか分からなかった。

「 ここですか?」
「 そう、そこです、そこ。」
「 なんか、他と同じようにしか見えないんですが?」
「 もう、これだから素人は困る。
 入院先を紹介しますから、ちょっと待ってください。」

この医者は超能力者だと思った。
エスパー伊東のテニスラケット輪くぐりと互角のレベルだ。
失敗した、ここへ来るんじゃなかった。
早くここから脱出しないと、もっと他の病気も超能力で見つけられるんじゃないかとびびっていた。
 俺が黙っていると医者は納得したものと思って話を進めた。
とりあえず、うん、うん、と返事をしてこの場を収めた。
窓口で診察料金を払って、脱出した。
もう二度と来るもんかと思った。
家に帰ってから、おやじにいい病院を探してもらって入院しようと思った。
そして、自転車にへばりついてかろうじて家に戻った。
 家に帰るなりおやじは言った。

「 入院先に電話しといたぞ。」
「 えっ、何で入院て、知ってるん?」
「 医者から、さっき連絡があって、直ぐに入院先に連絡を取って予
 約しといた。」

俺は、やられたと思った。
他の病院にしてくれとさんざん言って探してもらったが、良さそうな所はどこもいっぱいだった。
年末は、病院も混んでいるのかと思った。
 次の日、12月29日に超能力医者の紹介の病院に入院することになった。
入院の荷物を準備しながら、不安でいっぱいだった。
熱に慣れたのか、体は不思議と動くようになっていた。



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[ 2007/01/24 18:20 ] 入院 | TB(0) | CM(0)

入院4 

12月29日
 俺は、大阪の郊外にある大きな病院に一人で荷物を持って入院した。
病院は、鉄筋コンクリートの4階建てで3個の直方体が平行して並んでおり、各階は連絡通路で繋がっていた。
病室は、真ん中の棟の3階だった。
大部屋は、いっぱいだったので料金の高い個室に入った。
通路を挟んで、片方が個室、反対側が大部屋になっている。
病室は、各階の中央にあるナースステーションから二つ目の個室だった。
案内してくれた看護婦さんが言った。

「 ここが、病室です。
 私は、担当のSです。
 いろいろ規則がありますから、ちゃんと守ってくださいね。」

 俺は、軽く会釈をして、Sさんの説明を聞いている振りをしてSさんの顔をじっと眺めていた。
Sさんを見たとき、奇麗な人だと思った。
とってもラッキーの気分だった。
俺と同じぐらいの年で、はっきりした言葉使いで話し、時々こちらを見る眼は鋭い感じがした。

「 聞いてますかっ!!」
「 えっ!」
「 聞かないのなら止めますよ!
 絶対、困りますから!」
「 すみません。」

 俺は、突然、怒られてしまった。
Sさんは、一通り説明すると部屋を出て行った。
入院の荷物を、入り口左のロッカーに片付けながら、この病院でもいいかなと思った。



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[ 2007/01/24 18:19 ] 入院 | TB(0) | CM(0)

入院5 

 荷物を片付け終わって、改めて病室を見回した。
病室は、縦に長い四角形で、入り口と反対に窓があった。
ベッドは、入り口から見て右の壁に縦につけてあり、頭を窓、足を入り口に置かれていた。
入り口の右隅には、洗面の水道がある。
左側の壁に沿って、来客用の椅子が二つ、キャスター付きの物入れ棚、その上にテレビが置いてあった。
白い部屋なのに、何か暗く重い空気を感じた。
それは、俺の病院に対するイメージが、そう感じさせているのだと思った。
 しばらくして、両親がやってきた。
明日から10日間ヨーロッパに旅行に行くようだ。
何時の間に決めたのか知らなかった。
家が空になるので、と言って鍵を一つ渡してくれた。
早く治ったときの用意らしい。
手を繋いで病室を出て行く両親を見て、こりゃ負けたなと思った。
 Sさんに連れられて、主治医のところに行った。
かなり年寄りのじいちゃんだ。
90歳ぐらいに見えたが、実際は70歳ちょい超えたぐらいか。
言っている事が、もごもご不明瞭で良く分からない。
通訳がいるかと思ったが、理解した範囲で聞くことにした。
述べた内容を要約すると次のようだった。

「 弟子から聞いて病状は、分かっている。
 いい薬があるから直ぐ治る。
 最新の機械を入れたので、レントゲンを撮りなさい。」

 これだけの内容を説明するのに、30分話を聞かされた。
主治医は、嬉しそうに喋っていた。
話の内容は、何処かで聞いた話と同じだ。
正真正銘、師匠と弟子だと思った。
何か、もっと恐ろしい病気をスーパー超能力で発見されそうで不安が膨れて
きた。
検査を受けて主治医から説明を受けた。
今度は、レントゲンの映像に、胸に確かに白いもやが映っていて納得した。
 夕食時にSさんが、薬の袋を持ってきた。
俺は、高貴薬と書いてないか確かめてから薬を飲んだ。
高貴薬とは書いてなかった。
これは師匠の対応としては納得できなかったが、実際のところはホッとした。
Sさんは、テキパキと仕事をこなしていたが、時々フッと顔に疲れが見えた。
熱は、解熱剤を飲んだときは37度台、薬が切れると38度台に上がった。
やはり38度台では体がきつく、次の解熱剤が待ち遠しかった。



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[ 2007/01/24 18:18 ] 入院 | TB(0) | CM(0)

入院6 

 病院の夕食は、夕方5時半だ。
職員の就業時間の関係で仕方ないかと思うが、それにしても早すぎる。
夕食後の気の遠くなる程の長い時間、何もすることが無くテレビをぼんやり見ていた。
そして、いつの間にか寝てしまっていた。
Sさんの声が聞こえた。

「 就寝時間です。
 テレビを消してください。
 規則です。」
「 はい。」

また、怒られてしまった。
 病室の電気を消して出て行くSさんの後姿を見ながら、リモコンでテレビを消した。
薄暗い病室で、ベッドに仰向けに寝て、何時になったら退院できるのか不安になった。
このまま、ずっと入院だと卒業もできないし弱ったと思った。
そのうち、熱と疲れからかいつもよりかなり早い時間に寝てしまった。
 夜中に眼が開いた。
始めは、もう朝かと思ったが、カーテンの隙間は真っ暗だし、枕元の時計を見て午前1時だと分かった。
早く寝すぎたので夜中に眼が開いてしまった。
廊下の暗い明かりが、入り口のガラスを通して病室に射し込んでいた。
することも無いので、もう一度寝直しだと思ったが、なかなか眠れなかった。
何のモニターか分からないが、心臓の鼓動のペースの機械音がピッ、ピッ、ピッと遠くに微かに聞こえていた。
 1時間ほど眠れずに寝返りをうっていた。
ふと眼を開けると、入り口の扉のあたりに黒い縦長の楕円形の影が浮いているのが見えた。
薄く透き通って、影越しにドアが見える。
何だろうと思って見ていると直ぐに消えてしまった。
また、熱が上がってきたかな、と思っているうちに三度目の眠りに付いた。



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[ 2007/01/24 18:17 ] 入院 | TB(0) | CM(0)

入院7 

12月30日
 何処で聞きつけたのか、同じ大学の友人、5回生のYがやって来た。
そして、ベッドに寝ている俺に言った。

「 お、いたいた。
 個室に入ってるなんて、豪華、豪華。
 クリスマスの日、図書館から急に帰ってしまって音沙汰無いから、
 どうしたのかと思ってたら、こんなホテルに連泊してたんか。
 元気そうやけど、何処が悪いねん。
 どうせ下半身の問題やろ。」
「 熱が38度もあるんやで。
 元気なもんか。
 今は、解熱剤で熱が下がってるからいいけど、薬が切れるとヘロヘ
 ロや。」
「 なんや、薬物中毒かいな。」
「 肺炎や、肺炎!」
「 お見舞い持って来たったぞ。」

Yは、果物籠と花束を俺の眼の前に見せた。

「 年末やから、みんなおらんし、代表して来たんや。
 代金は、立替や、来年なったら、みんなから集めるわ。」

こいつらしいなと思った。
Yは、同じ学部の留年組だ。
大阪生まれの大阪育ち、こてこての大阪人だ。
 血圧測定と検温に、Sさんが入ってきた。
Sさんは、Yをチラッと見ただけで、直ぐに血圧測定の準備を始めた。
俺はイスに座って、腰をかがめて測定を始めたSさんの顔を見ていた。
Yが、俺の顔を見ながら近付いてきて、俺から見てSさんの右横に立った。
血圧測定が終わってSさんが、真っ直ぐ立ち上がった時、SさんとYが2人並んだ。
Yは、俺の顔を真っ直ぐ見ながら、右手をSさんの後ろに回しSさんの右肩をたたいた。
Sさんは、右後ろを振り返った。

「 ???」

Yは、ニヤニヤしていた。
Sさんは左を向き、Yの顔を睨み付けて言った。

「 やめてください!!」

Sさんは機材をサッサと片付けて、検温もせずに病室から出て行った。



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[ 2007/01/24 18:16 ] 入院 | TB(0) | CM(0)

入院8 

 Yが俺に不満そうに言った。

「 愛想、悪いやっちゃなぁ〜。
 きゃ、とか言えば可愛いのに。
 ぜんぜん、驚きよらへん。」
「 世話してもらってるのは、俺やから、やめといてくれ。
 毒でも注射されたら、どないすんねん。」
「 ちょっと綺麗や思て、しゃーないやっちゃなぁ。」
「 ほどほどにしといてな。」

俺は、ちょっと不安になった。
できれば、SさんにYを近付けたくなかった。
俺は、これまでの経緯をYに話した。

「 お前、生きとったら、また来るわ。」

嵐のようなYが、去って行った。
 果物籠を棚に置いて、イスにほっぽり出してあった花束を、ナースステーションから花瓶を借りてきて自分で生けた。
ナースステーションにいたSさんは、あっちを向いたままだった。
俺は、自分の熱がかなり上がったような気がした。
 夕食を食べて、また長い夜がやって来た。
俺は、不覚にもまた早く寝てしまった。
眼が開いたのは、やはり午前1時だった。
また、心臓の鼓動のペースの機械音がピッ、ピッ、ピッと遠くに微かに聞こえていた。
夜になると静かだから響いてくるのかなと思った。
 しばらく、寝られないので寝返りをうっていた。
ふと、眼を開けて入り口の方を見ると、ベッドの足元のところに人の輪郭を持った黒い影が一つ立っていた。
俺は、怖くなってナースコールを押した。
直ぐに看護婦さんがやって来たが、入ってくる前に黒い影はスーッと消えてしまった。
当直の看護婦さんは、SさんではなくKさんだった。
俺は、今見たことを説明した。
Kさんに、熱から来る悪い夢で片付けられた。
不安なまま、しばらく寝られなかったが、何時の間にか眠ってしまった。



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[ 2007/01/24 18:15 ] 入院 | TB(0) | CM(0)

入院9 

12月31日
 大晦日だ。
俺の熱は、少し上がり気味だ。
食欲もあまり無い。
 昼頃、体重を計りにナースステーションの横に行った。
70才位のじいさんが、先に体重を計っていた。
トイレに行ったとき、よくいるじいさんだ。
俺は、後ろに並んだ。
じいさんは体重計のメモリが見えないのか、尻を突き出して前かがみになった。

「 ぶーっ、ぶっ。」

じいさんは、俺の眼の前で二段の屁をした。
めまいがして、仰け反った。
 じいさんは、振り返ってニタニタしながら言った。

「 屁が出た。」

説明してもらわないでも分かっている。
いい加減にしろよなぁ〜、と思ったが、黙っていた。
じいさんの前歯が、一本欠けていた。
何処かで見たような顔だなと思って、考えているうち思い出した。
なんかの漫画に出てくる、妖怪ぬらりひょんだ。
ぬらりひょんが体重計を降りたので、次に俺がのった。
体重は、2キログラム減っていた。
 痩せてきたかなと思っていると後ろから声がした。

「 にいちゃん、にいちゃん。」

振り返ると、ぬらりひょんだった。

「 痩せたかぁ〜?」
「 ちょっと、痩せたかな。」

不覚にも、ぬらりひょんに喋ってしまった。

「 にいちゃん、おとつい二番目の部屋に入った人やろ。」
「 そうです。」
「 気ィつけやぁ〜。」
「 なんですか?」

ぬらりひょんは、答えずに大部屋の方に行ってしまった。



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[ 2007/01/24 18:14 ] 入院 | TB(0) | CM(0)

入院10 

 主治医は、いい薬を出しているから、もう直ぐ直ると言った。
俺は、熱も上がり気味だし逆に悪化しているような気がしていた。
それでも、今日は一つだけいい事があった。
ナースステーションの前を通ったとき、話し声が聞こえて、今日の当直はSさんだと分かったことだ。
 昼に俺は、思った。
今まで、早く寝すぎていた。
だから、夜中に眼が覚めて夢か現実か分からないものを見てしまうのだ。
今日は、遅くまで起きていて、朝まで眼が覚めずに熟睡しようと思った。
テレビをボーっと見続けるのは、止めよう。
いつの間にか寝てしまうからだ。
 俺は、一階の売店に行って本を三冊買ってきた。
これで、時間を潰せばいい。
夕食の後、テレビを早めに消して、スティーブンキングの本を読んだ。
10ページほど読んだが、予定に反して、また、就寝時間前に寝てしまった。
 夜中に眼が覚めた。
午前1時だった。
体内時計がきちんと動いていた。
まずいなぁ〜、と思った。
 また寝返りをうって、入り口の様子を窺っていると黒い輪郭が現れた。
床まである黒くて長いコートが見える。
コートにはフードが付いており頭からすっぽり被っているので、顔は見えなかっ
た。
体は、動かそうとしても動かせなかった。
眼だけで見ていると、入り口近くの左の壁から同じような影がもう一つ現れて、2つ並んでまた左の壁に消えていった。




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[ 2007/01/24 18:13 ] 入院 | TB(0) | CM(0)
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