青電車1 

  青電車


「 先輩、今日は、取って置きの話をしましょう、聞いてください。
青電車を知っていますか。
JRの東海道線、京都から西明石までを同じ車両が、折り返して行ったり来たりしている普通電車です。
関東地方で使い古した中古品で、くすんだ青色をしています。
座席は、通路を挟んで両側にあり、座るとちょっと距離のあるお見合いをしているようです。
 私は、毎日、京都から天王寺までお仕事で通っていました。
京都駅に近いN駅から乗り込み、大阪駅まで行って、環状線の外回りに乗り換え、天王寺駅で降りて、10分ほど歩いて会社に着きます。
大阪駅までは、途中、T駅で快速電車に乗り換えれば早く着くのですが、座って行こうと思うと普通電車のまま乗っていた方が好都合で、T駅で快速電車に乗り換える人と入れ替えに座ることができます。
 少しスピードを出すと不安定なようでガタガタ揺れます。
途中、阪急電車と並行して走っている区間があります。
阪急電車が、横を走っていないときは、のんびり走ります。
阪急電車が、横を走っているときは、車両の性能の違いも考えず、ライバル意識もろだしで必死に走ります。
前に、揺れの酷さに子供が怯えたような表情で私を見たのが印象に残っています。


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[ 2007/01/01 01:11 ] 青電車 | TB(0) | CM(0)

青電車2 

 会社では、経理をやってました。
営業の外回りは、体力に自信が無いので、丁度の仕事だったと思います。
 その会社に勤めて、4年目に酷い夏風邪をひいてしまいました。
6月の梅雨の時期で、蒸し暑い日が続いていたからだと思います。
3日間休んでしまいました。
もう1日休もうか、と思っていたのですが、眼を覚ますと会社に行けそうな気がして、仕事もかなりたまっているだろうし、遅刻して行くことにしました。
 久しぶりに歩くと足元がふわふわします。
いつものようにN駅から青電車に乗り込みます。
その日は、午前11時32分の電車でした。
7両編成の、前から数えて5両目の一番後ろの扉から車両に乗りました。
扉から入って左側、3人がけの座席の一番奥の席、つまり車両の後ろの端の席が第一希望の席です。
端っこの席は、落ち着けるんです。
 N駅から、この車両に乗ったのは、私一人でした。
昼前の電車なので、車内もさすがに人も少なく、端の席が丁度空いていたので、座ることができました。



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[ 2007/01/01 01:10 ] 青電車 | TB(0) | CM(0)

青電車3 

 車内を見回すと、私の右隣は、一つ席を空けて、スポーツ新聞を読んでいる50歳ぐらいの少し頭の毛が薄くなった窓際族風の男、私の向かい側、つまり車両の一番後ろの私と反対側の座席には、グレーのスーツでシャツの第一ボタンをはずし、ゆるゆるネクタイの20歳代後半のサラリーマンが、黒の鞄を横に置き、窓にもたれて、口を半開きにしてだらしなく寝ていました。
サラリーマンから、一つ席を空けて、パンパンに膨れた袋を横に置いて、かなり年を食っているけれど、まだまだ現役でっせのぎらぎらした厚化粧のおばさんが座っていました。
 車内はガラガラで、この4人から車両の前にいたのは、大学生風の女の子の二人連れ、メールを打っているおねーちゃんと地味な服を着たおじーちゃんぐらいで、まともには採算が取れていない状態でした。
 電車が走り出して、車両が規則正しく揺れ始めると、だんだん眠くなってきました。
うつらうつらしながら幾つか駅を過ぎ、重い瞼を薄く開けて見回すと、厚化粧おばさんが消えていました。
前の方の乗客も、いつのまにか降りてしまったようで、吊り広告がゆらゆらと電車の天井で揺れていました。
この車両の乗客は、3人だけだなぁ、と思いました。
私は、また眠くなってうつらうつらしていました。


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[ 2007/01/01 01:09 ] 青電車 | TB(0) | CM(0)

青電車4 

 しばらくして、軽い振動を尻に感じました。
窓際族が、立ち上がったようです。
駅が近づいてきたのかな、と思って右を見ると、窓際族が左右に揺れながら前の車両に行こうとしていました。
窓際族の左右に流れる景色から、駅まではまだかなり距離があることが分かりました。
 駅まで遠いし、何故、こんなに揺れる電車の中をわざわざ前の車両に今行くんだろうか・・・・・。
私は、窓際族の後ろ姿を眺めながら考えている間に、窓際族は車両の前の扉の枠に2,3回ぶつかって、前の車両に行ってしまいました。
とうとう、この車両は、2人だけになってしまったな、と思いました。
 そのとき、私は、視線を感じたんです。
真前を見るとサラリーマンの男が、瞬きもせず、じっと私を凝視していたんです。
その眼をまともに見てしまった私は、何かぞっとするものを感じて、眼を閉じました。
なんだ、なんだ、なんだ。
なんなんだ。
何時から、あいつは起きていたんだ。
何時から、あいつは私を見ているんだ。


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[ 2007/01/01 01:08 ] 青電車 | TB(0) | CM(0)

青電車5 

 私は、何故見られているのか分からず、思い当たることをしばらく考えていました。
学生の頃の友人では無いし、仕事で何処かで出会った人か・・・・・。
思い出せないし、分からない。
私は困惑しました。
 その時、私は窓際族が移動して行った理由が分かりました。
そうか、そうだったんだ。
あの眼が、嫌だったんだ。
窓際族は逃げたんだ。
私は、逃げて行った窓際族を羨ましく思いました。
私を一人置いていってしまったんです。
厚化粧のおばちゃん、帰って来いよ、とも思いました。
 こうしている間も男は、私の顔を見ていることは感じました。
私は、様子を伺っていました。
眼をほそーく開けてみましたが、瞼と睫が邪魔をしてよく見えない。
私も前の車両に行こうか・・・・・・。
次の駅で誰か乗ってくるかもしれないし、もう少し様子を見るか・・・・。
眼を閉じたままどうしようか考えました。
 電車は、ガタガタ揺れています。
だんだん我慢ができなくなって、前の車両に行くことを決心しました。
眼の前には、後ろの車両に行く扉があるのですが、扉の前は、男に近づくし、開けることに手間取るかもしれないのも嫌だったんです。



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[ 2007/01/01 01:07 ] 青電車 | TB(0) | CM(0)

青電車6 

 私は、鞄をぎゅっと握って、眼を開けました。

「 うわっ!!」

私は、体を後ろに引きました。
首も後ろに引いたので、後頭部が窓に当たってしまいました。
 男の顔が、眼の前30センチ位にあったのです。
男は、右手を扉の端に、左手を座席に置いて私を逃がさないように両手で囲み、しゃがんだ格好で見上げていました。
私は、ボクシングでコーナーに追い詰められたカエルのようでした。
狼狽している私に、男は、言いました。

「 僕は、重要な話があります。」

 もう、やめてくれ、と思いました。
宗教の勧誘か。
今月、保険の売り上げが少ないので無理やり勧誘攻撃か。
なにがなんだか、私には分かりませんでした。


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[ 2007/01/01 01:06 ] 青電車 | TB(0) | CM(0)

青電車7 

 男は、私の困惑を無視して話しを始めました。

「 僕は、黒い影を見ました。」

何、訳の分からないこと言ってんだ。
私は、困りました。
なんとか、こいつから逃げ出そうと考えていました。
男は、話を続けました。

「 とにかく聞いてください。
僕が、小学校に入る前の年のことです。
お盆に家族で3日間、父親の実家に行きました。
家族は、両親と兄と僕の4人です。
昼は、兄と一緒に山に暗くなるまで虫取りに行っていました。
夜は、遊び回ってくたびれていたので、結構早くから寝ていました。
 普段なら朝まで、めったに眼を覚まさないんです。
でも、2日目の夜中に寝苦しくて、珍しく眼を覚ましました。
薄明かりの中、障子に黒い影が動いているのが見えました。
左から右へすーっと廊下を移動していくんです。
何かなあ、と思って、障子を開けて、覗き込みました。
 黒い影は、廊下の突き当たりにあるおじいちゃんの部屋に吸い込まれていきました。
おじいちゃんは、脳梗塞の後遺症で寝たきりの状態でした。
何だったんだろうとは思いましたが、眠かったので、また、寝てしまいました。
 そんなこと、子供ですから次の日には忘れていました。
でも、自分の家に帰って、3日後に急におじいちゃんが亡くなった知らせが入りました。
そのとき、あれは何だったんだろうと再度思ったんですが、変な話なので誰にも言いませんでした。



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[ 2007/01/01 01:05 ] 青電車 | TB(0) | CM(0)

青電車8 

 中学校3年のとき、骨折で入院したことがあります。
でかい総合病院でした。
夜は長い廊下の真ん中にあるロビーによく行きました。
漫画が、沢山置いてあったのです。
僕は、身体が動かせるようになってから、暇なので漫画を読みに行っていました。
 もう暫くで退院というとき、いつものように漫画を読んでいると、初老の男の人が、ロビーの前の廊下を通過しました。
僕は、えっと思いました。
初老の男の人の後ろに黒い影が、付き添っていました。
そして、ずーっとその人に付き添って移動していました。
僕は、昔のことを思い出し悪い予感がしました。
 次の日、その人に、お互い早くよくなりましょうね、と言うのが精いっぱいでした。
その人は、3日後、容体が急に悪化して亡くなってしまいました。
僕には、何もできないんです。
廊下に出してあるその人のベッドを見ながら無力だと思いました。
 今まで何回か、こんなことがありました。
でも、兄以外の誰にもこんな話をした事はありません。
話しても、信じてくれないし、それに嫌がられるだけだからです。
先程、私が眼を覚ました時、驚きました。
あなたと新聞を読んでいる人の間に黒い影が見えたんです。
私は、どちらだろうかと思いずっと見ていたんです。
新聞を読んでいた人は、前の車両に行ってしまいました。
でも、影は付いて行きませんでした。
影は、あなたの横に残っていました。
 私の経験では、影は消えません。
その人に寄り添っているんです。
でも、不思議なことに、今、影はあなたの隣で、すーっと消えてしまいました。
どうしてなのか、理由は分かりません。
これが、私が見たすべてです。



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[ 2007/01/01 01:04 ] 青電車 | TB(0) | CM(0)

青電車9 

 最後に、今まで誰にも言ってなかったこの話を、何故あなたに嫌がられる事を覚悟の上で話したのか理由を言いたいと思います。
僕は、今回、悪い予感が何故かしないんです。
それに僕は、あなたと縁がありそうな気がするのです。
あなたとは、もう一度、何年後かに会えるような気もします。
何年後かに会えるという事は、あなたは、良くないことを乗り越えて行けるからだ、と思ったからです。
また、そのときは連絡させていただきます。
 とにかく、3日間は、周囲に気をつけてください。
長い話を聞いてくれてありがとうございました。
疲れたので席に戻ります。」

 そのサラリーマンは、立ち上がって、後ろを振り向いた一瞬動きが止まりました。
そして、言いました。

「 えっ、どうして、僕の後ろに・・・・・。」

 私は、その隙を突いて、前の車両に向かって席を離れました
後ろを振り返らないで、車両の揺れによろよろしながら、足早に前の車両に移動しました。
後ろから追いかけてきたらどうしようかとすごく不安でした。
直ぐにT駅についたので、車両から降りてホームの前の方まで急いで歩きました。
 ホームの端の先頭車両の乗車位置まで行って、ようやく後ろを振り向きました。
ホームには、男はいませんでした。
T駅、正午発の快速電車が直ぐにやってきました。
一番前の車両に乗り込み、扉の横の壁にもたれて、電車に揺られながら先程の話を反芻していました。
会社についても、気になって仕事が手に付かず、風邪の熱もまたぶり返してきたので、結局早退してしまいました。



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[ 2007/01/01 01:03 ] 青電車 | TB(0) | CM(0)

青電車10 

 朦朧とした状態で家に帰ってきて、直ぐに寝てしまいました。
何時間寝たのか分からないのですが、寝苦しくって、夜中に薄く眼を開けるとベッドの横に黒い影がありました。
黒い影は、私に覆い被さってきました。
生臭いにおいがして、意識が飛びました。
 朝になって、眼が覚めたとき、悪い夢を見たと思いました。
昨日の話が、意識に食い込んでいたのが原因です。
まだ熱が残っていてふらつくので、当分会社には行けそうも無いなと思いました。
 何か食べないと体が持たないと思ったので、バタートーストとコーヒーを用意して椅子に置き、ベッドに座って新聞を読みました。
三面記事を見たとき、えっと思ったんです。

“ 昨日、正午、JRのT駅において、京都発西明石行きの普通電車の先頭から5両目の車両の最後尾の席で、心不全で死亡している20歳代後半の男性が発見されました。
男性は、死後およそ5時間経過、目撃者は、午前8時頃男性は既に電車に乗っており、窓にもたれて寝ているように見えたと証言しています。
現在身元を調査中です。”

「 あの男だ。
 でも、死後およそ5時間経過・・・・。
 既に死んでいる・・・。」


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[ 2007/01/01 01:02 ] 青電車 | TB(0) | CM(0)
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