海亀28 

私は、即座に聞きました。

「 子供は、元気か?」
「 ええ、元気よ、今、リビングで遊んでるわ。」
「 そうか・・・。」

私は、ホッとしましたよ。
それと同時に、一瞬、気が抜けましたね。
家内は続けて言いました。

「 今月分の養育費、振り込んでよ。」
「 あ、それのことか。」
「 それのことか、じゃないでしょ。
 大事なことじゃない。」
「 分かった、忘れていた、直ぐに振り込む。」
「 じゃ、お願いね。」

 電話は、切れました。
私、思いましたよ。
子供じゃなかったんだって。
でも、おかしいでしょう。
Sの言葉は何だったんだろうとね。
 人違いか・・・。
分からないんですよ。
Sは、もう、外国に行っています。
連絡先は、私、分からないですね。
 そうですね・・。
Mが、お金のことで動き出すか・・・・。
Sの店の賃貸契約が月末で、それが切れたときに何かが出るか・・・。
ま、まだ、月末には、二週間ほどありますけどね。
 私、気になってるんですね。
ちょっと、どうしようかなって思ってね。



 完了

読んでいただき、有難うございました。

次は、“静かの海”です。



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[ 2007/08/08 19:02 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀27 

 私は、雑誌社の近くにある喫茶店まで戻り、Sの言ったことを、ぼんやりとしばらく考えていたんです。

“ 私が黒幕だと言うことは、同窓会のときバレタのか・・。”

でも、昔の記憶が浮かんでくるだけで、Sが言った言葉の意味を読むことは出来ませんでした。
それで、喫茶店に長く居るわけにもいかないので、私は雑誌社に一旦戻ることにしたんです。
 そして、雑誌社に戻った私は、そこで、自分は記者としては三流だということを、はっきりと思い知らされたように思ったんですよ。
なぜなら、雑誌社に戻って席についた時、隣の席のAの筆跡のメモが、私の携帯を重しにして、机の上に置かれていました。
そのメモを見て、ようやく気が付いたんですね。

“ 今日、何回も奥さんから電話がありました。
 早急に電話を入れてください。”

 私は、机の上の携帯を掴んで、私の一番大事な者が無事か電話を掛けたんです。
本当に、大急ぎですよ。
直ぐに、家内が出て来ました。



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[ 2007/08/07 18:54 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀26 

 Mの家を後にして、だらだら下る坂道をSと一緒に歩きました。
そこで、Mから融資を受け、また直ぐにフランスへ行くことをSから聞きました。
Sならば、芸術家として通用するようになるだろうと思いましたね。
 坂を四分の三ほど下った時、Sは前を向いたまま、私に静かに言いました。
私、それを聞いて“えっ”て思いましたよ。
何を言ったか分かりますか・・。
難しいですよね。
それは予想外だったですよ。

「 私は、中学の時、いじめられていました。
 そして、私は、その時一番大事にしていた物も奪われました。
 この前、同窓会の時、Mと話して黒幕があなただと初めて知りまし
 た。
  あなたとは、中学の時、それほど話した事はありませんでした。
 でも、あなたからいじめを受けた事は無かった。
 クラスで、唯ひとりだった。
  卒業式の日、私はあなたに言いました。
 Mに必ず復讐すると・・。
 あなただけは、私の苦しみを分かってくれると思ったからです。
 違っていたんですね。」

 私は、立ち止まりました。
そして、彼の横顔を見ました。
言葉は、返せませんでした。

「 私は、あなたにヒントを与えました。
 そして、あなたは賭けに負けました。
 私には勝ち負けはありません。」

そして、Sはそれだけ言うと、途中の交差点を曲がって行ってしまいました。
私は、去っていく彼の後ろ姿を見つめていました。



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[ 2007/08/06 19:51 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀25 

 2人の会話は、映画の話に戻っているようでした。

「 貧しい芸術家はいません。
 これほどすばらしい言葉は、無いな。」
「 そうです、その通りです。
 食は、芸術なのです。
 海亀のスープの意味が分かってもらえてうれしいですよ。」

 私、鞄の原稿を出す事をやめました。
私は、考え違いをしていたと、その時、思ったんですよ。
Sは言いました。

「 この映画を見て、我が身を顧み、自分の心の貧しさに改めて気付か
 された人は多いんじゃないでしょうか。
 人生を真に豊かにする方法は、自分のライフスタイルを確立し追及す
 る。
 そして、自分を幸せにすると同時に、他者をも幸せにする心を持ち続 けることが重要であることを思い知らされた映画ですよ。
 私は、料理人の心を石に刻みました。」

 この言葉で、私はSの人間性を勘違いしていたと思ったんですよ。
石に刻むって、あ、「石刻」ですよ、冷蔵庫の・・。
それって料理人の心だったんですね。
 私、昔のことに拘って、先入観を持ってSを見ていたとも思いましたね。
そして、Sは私の下卑た考えをはるかに超えた人間に成長していたんじゃないかと妙に感心したんですがね・・。
 Sは私に言いました。

「 海亀のスープは、美味しかったですか。」
「 満足したよ。」
「 それは、良かった。」

それで、一通り、それぞれの話が終了したんです。



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[ 2007/08/05 18:56 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀24 

 そこに並んだ、料理や飲み物は、一流のすばらしいものばかりだったが、姉妹や村の人たちには分からない。
その招待客の中で、ただ一人、伯母に連れられて同席した将軍が気付いた。
 食前酒がアモンティヤード。
シャンパンは1860年のヴーヴ・クリコ。
そして将軍は、フォアグラとトリュフのソースがかかったうずらのパイを口にした時、若いころパリの高級レストラン「カフェ・アングレ」で食べた女料理長のオリジナルメニューであることを思い出した。
 村人たちは、食事を食べるに従って、心が豊かになっていくことを感じた。
そして、最後には、星降る空の下、幸福な気持ちで満たされた村人は輪になって賛美歌を歌い出した。
 晩餐会が終わった後、姉妹が礼を言うために厨房へ行きました。

「 私はカフェ・アングレの料理長でした。」

椅子に腰を降ろし疲れを癒していたバベットが告白をします。
そして、老姉妹は宝くじにあたった1万フランをすべてこの晩餐に使ったことを知ります。
老姉妹は、大金を使ったバベットに一生貧しいままになると心配します。
しかし、そのとき、バベットは答えました。

「 貧しい芸術家はいません。」

ここまで読んだ時、同じ言葉を言うMの声が、私の耳に入って来たんです。



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[ 2007/08/04 18:16 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀23 

    バベットの晩餐会

 19世紀後半、デンマークの小さな漁村が舞台である。
厳格なプロテスタントの牧師の父に育てられた老姉妹マーチーネとフィリパには、バベットというフランス人の召使がいた。
また、ある宗派の創始者であった彼女たちの父親は、今はもう亡くなっているが、父の教えは二人の心にしみ込んでいた。
 バベットが姉妹の家にやってきてから14年の月日が流れた。
月日がたち、村人の熱心な信者は少なくなり、村人同士の諍いも増え礼拝もおざなりになっていた。
そして、姉妹は、父の生誕100周年を祝う晩餐会を開くことを計画する。
そんな状況のもと、バベットにフランスからの郵便が届き、そこには一万フランの宝くじが当たったことが記載されていた。
 そして、バベットは姉妹に初めて願い事をした。
それは、フランス式の料理で牧師の生誕100周年を祝う晩餐を作らせてほしいというものだった。
バベットは、晩餐の準備のために8日間の休みを取りフランスへ戻った。
そして、フランスからウズラや海がめなど、恐ろしげな今まで見たことも無いような食材を持ってバベットが戻ってきた。
 それらを見た姉妹は、悪魔の料理を食べさせられるのではないかと恐れた。
そして、晩餐の日、料理を恐れる招待客と姉妹は料理の話題に一切触れない約束をして食卓に着いた。

         バベットの晩餐メニュー

         Potage a la Tortue
           海亀のスープ

         Amontillado Sherry
          アモンティラード

       Blini Demidoff au Caviar
      キャビアのドミドフ風ブリニ添え

       Veuve Clicquot Champagne
          ヴーヴ クリコ

   Caille en Sarcophage avec Sauce Perigourdine
   フォアグラとトリュフのソースがかかった鶉のパイ

        Clos de Vougeot 1845
      クロ ヴィージョ 1845年もの

           La Salada
          季節のサラダ

          Les Fromages
  チーズ カンタル ブルムダンベール ブルーオーベルニュ

     Baba au Rhum avec les Figues
   乾燥イチジクとラム酒が注がれたレーズン入りケーキ

           Les Fruits
            フルーツ

             Cafe
            コーヒー

          Fine Champagne
        フィーヌ シャンパーニュ



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[ 2007/08/03 18:56 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀22 

 それでね、話が一段落して、Mが私を見て言ったんですよ。

「 昨日の海亀のスープが分かったよ。
 昨日、夜遅くSから聞いて、レンタルビデオの店を探し回ってビデオ
 を借りてきた。」

私、昨日の夜、Mの家に電話を掛けても掛からなかったのは、ビデオを探してウロウロしていたからか、と思いましたね。
それで、Mは、私に言ったんですよ。

「 この映画、なかなかの名作だと思うね。
 昨日の夜中に、見ていたんだ。
 賞を取った映画だそうじゃないか。
  その顔じゃ、分からなかったみたいだな。
 さっき、Sが粗筋のパンフレットを持って来てくれたよ。
 読んで見るかい。」

私、何のことか分からず、Mに聞きました。

「 映画?」
「 そうだ、映画だよ。」

 私は、Mから写真の入った綺麗な映画のパンフレットを受け取りました。
それで、パンフレットをパラパラ捲って見たんですよ。
途中にカフェアングレって言葉を見つけましてね。
カフェアングレ、知ってますか?
知らないですか・・。
料理関係では有名な店でね、パリにあるんですよ。
 映画はね、少し、古いヨーロッパの映画でしたね。
もちろん、料理がらみの映画ですよ。
私、その映画、全然知らなくってね。
話に付いて行けていないんで、映画のパンフレットを急いで読み始めたんです。
 MとSは、パンフレットを読んでいる私を置いておいて、フランス料理について話を始めました。
私がパンフレッをト読み終わるまで待っていてもヒマでしょう。



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[ 2007/08/02 19:46 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀21 

 私、Mのでかい家に入りました。
Mの家の玄関のフロア、広いですよ。
和風の家でね。
金、掛けてますよ。
欅の衝立とか、壺の置物とか置いてあるんです。
 家の中は、静かでしたね。
それでね、Mに連れられて廊下の左にある応接室に入りました。
応接室はね、革張りのソファーとかあってね、和洋折衷ですよ。
でね、Sは奥のソファーで寛いで座ってましてね。
とりあえず、私はSに挨拶したんです。

「 昨日は、ありがとう、美味しかったよ。」
「 気に入ってもらえて良かったよ。」

 Mは、Sの向かい側に座ってSとの話の続きを始めました。
私は横に座って、しばらく二人を見ていたんです。
その時、特に変わったことは感じなかったですね。
普通なんですよ、二人とも。
どうなっているのかって言う疑問はありましたけどね。
それに、私、鞄の中の原稿をどうしようか迷ってました。
 SとMの話の内容はね、金の話でしたね。
Sは、Mに巨額の融資を頼んでいる最中だったみたいでね。
自前の店を持つための資金の交渉ですよ。
 儲け話に聡いMは、料理の味や店の客の入り具合を考えて乗り気だったですね。
それで、即決ですよ。
上機嫌で資金の融資を了承して、インターネットでSへの振り込みの指示をしましたね。
そんなに早く決めていいのかなって思いましたけどね。
まあ、二人の話ですからね、私、関係無いですからね、口を出す所じゃ無いでしょう。
SもMも、話がまとまって、その時、上機嫌だったですよ。



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[ 2007/07/28 18:06 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀20 

 坂道を登り切って、Mの家のインターホンを押しました。
私、誰も出て来ないんじゃないのか、なんて思いましたけど・・。
ところが、予想に反してMはいつもと変わらない様子で、インターホンに出て来たんですよ。
私としては、意外だったですね。

「 どちらさん?」
「 私だ、ちょっと、海亀のスープについて話がある。」
「 あ、丁度いい、今、Sが来ているところだ。
 入ってくれ。」

“ Sが、来ている・・・。
Sは、何をするために来たんだろう?”

私は、分かりませんでした。
玄関まで私が進むと、家のドアが開いて、Mが顔を出しました。
特に慌てている様子も無く、普段通りのMでしたね。
私は、ホッとすると同時に、家族の様子も玄関口で尋ねて見ようと思いました。

「 家の人は、いるのかい?」
「 いや、家内は買い物だし、息子は、塾に行っているので俺一人だ。
 きのう、お前から電話があって、その後、遅くに息子は帰ってきたよ。
 帰りのタクシーが接触事故を起こして、時間を食ったらしい。
 ま、怪我も無かったし安心したよ。」

 私は、いい意味で肩透かしを食らったと言うことです。
私の悪い予感は、ことごとく外れました。
私は、自分の思い込みの激しさに、ちょっと恥ずかしくなりましたね。
ただ、ここにSがいる事は気にはなっていました。



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[ 2007/07/27 17:22 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)

海亀19 

 次の日の日曜日、気になったので、Aから送られたファクスを鞄に突っ込み、朝から雑誌社に顔を出してから、直ぐにSの店へ出かけました。
でも、Sの店は閉まっていて留守みたいでね。
それで、Sが何処に行ったのか気になって、店の前でSに携帯を入れようとしたんですよ。
でも、携帯が鞄に無いんです。
慌てていたから、携帯を雑誌社の机の上に忘れてきたことに気が付いてね。
しかたがないので、Sの店の周囲を調べてみる事にしたんですよ。
記者根性って言うのですかね。
 店の正面の扉も窓も、鍵が掛かっていましてね。
窓から覗くとレースのカーテン越しに室内は見えましたが、Sの姿はありませんでした。
店の駐車場をまわって、側面のすりガラスの窓も調べましたが鍵が掛かっていました。
 店の裏にも行ってみました。
裏口の扉にも鍵が掛かっていて開かなかったですね。
そして、その扉には、小さなガラス窓が付いていたんですよ。
覗いて見ると、厨房の大きな冷蔵庫が見えました。
それを見た瞬間、寒気がしましたね。
 冷蔵庫の正面には、一枚の薄汚れた紙が貼り付けてあったんです。
そこには、中学生が殴り書きしたような汚い字で「石刻」と書かれていました。
普通、そんな紙を冷蔵庫に貼りますか。
貼るわけないでしょう。
あの冷蔵庫に、何が入っているのか。
私、おぞましい思いにゾッとしましたね。
 それで、私、Mの家に急いだんです。
Mからの連絡は無いし、M自身にも危険性があるかもしれないでしょう。
私、Mの家に続く坂道を登りながら、悪い出来事ばかりを考えていましたよ。
とにかく、私は、道を急いだんですね。




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[ 2007/07/26 18:59 ] 海亀 | TB(0) | CM(0)
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