深泥沼38 

 深泥沼に行ってから、俺は凄く困っている。
それは、霊が見えるようになってしまったからだ。
先週、俺は法螺に相談した。

「 この前、夜にUちゃんと二人で公園でお話をしてたんや。
 いい雰囲気やなと思った時、俺は後ろから視線を感じた。
 振り返ると、死んだじいさんとばあさんを中心によく似た顔の人達が
 10人ほどニタニタしながら俺たちを見てるんや。
  Uちゃんを家まで送って行ったときも、ゾロゾロ付いて来よったで。
 修学旅行の団体みたいやがな。
 あれ、何とかならんか?
 お前のせいで、いろいろ見えるようになってしもたんや。
 何とかしてくれ。
 先が思いやられる・・・。」
「 ああ、それは、死んだ親戚だよ。
 いいじゃないか、心配して来てくれたんだから。」
「 来て欲しくない。
 都合の悪いときは、追っ払うことは出来るか?」
「 出来るけれど・・・・。」
「 良かった、教えてくれよ。」
「 あはっ、そのうちにね。」
「 今、教えてくれ、頼む!」
「 当分、そのままでいろよ。
 今度、公園に見に行ってやるよ。
 面白そうだもん。」
「 そんな事、言わないで・・・。」
「 やだよ〜ん!!」

俺は、法螺の顔を見ながら頭を抱えた。

そして、今も、まだ、問題は解決していない。


完了

読んで頂き、有難うございました。


次回から、“海亀”を始めます。



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[ 2007/07/07 17:12 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼37 

 もう少しで、街の灯が見える。
車は、暗闇の中を疾走していた。
ヘッドライトは、薄暗く道を照らしていた。
車のヘッドライトは道を照らしていた。
等間隔に並んだ街灯が、後ろに飛んで行く。
街灯の蛍光灯の灯りが、運転している法螺の顔を青白く通過していた。
 途中、雨が降り始めた。
ワイパーが規則正しくフロントガラスを磨き始めた。
ワイパーのゴムがガラスを擦る音が耳障りだ。
四人とも話をしなかった。
 俺は、今まで起こった事を頭の中で反芻していた。
女の子たちも黙って、ボーっと前を見ていた。
おそらく、みんな先程起こった事を思い出しているのだろうと思った。
時間がゆっくり流れていた。
そして、法螺は運転しながら、俺と女の子二人に静かに言った。

「 おかしいね・・・・。
 みんな、僕を、法螺だと思っているのかな?」

 俺たち三人は、その言葉に凍り付いた。
Sちゃんは、助手席の窓の方に体を寄せた。
俺とUちゃんは、後ろから法螺を見つめた。
法螺は真っ直ぐ前を見て運転していた。
暫く沈黙が続いた。
そして、ようやく法螺は口を開いた。

「 あはは、法螺だよ〜ん。
 怖かっただろ。」

止めの、悪い冗談だ。
隣のSちゃんが法螺を思い切りしばいた。

「 バカ!!」

そして、脅かした罰として、法螺はコンビニで全員分のアイスクリーム代を払わされた。



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[ 2007/07/06 20:40 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼36 

 疾走する車の中で、Sちゃんが法螺に聞いた。

「 さっきの、あの手は何だったの?
 私、初めて怖いものを見たわ。」
「 ああ、あれは沼から付いて来ていた。
 俺たちをトンネルに誘導したんだと思う。
 理由は分からない。
 トンネル辺りで事故でも起こしたのかな・・・・。
 沼を出発して、僕は、左折の道が分からなかった。
 おかしいなと思ったんだ。」
「 お前、車に一人で残って、よく無事でいられたな。
 よくある話では、大概、残った奴は精神異常でへらへら笑っていただ
 ろ。」
「 へらへらへら。」
「 もう・・・、答えろよ!」
「 これだよ。」

 法螺は、ズボンのポケットからお札を出した。
札には五芒星の印があった。
これは、S神社のお札だ。
法螺は言った。

「 これと、呪で追い払ったよ。
 大丈夫、いなくなった。
 家を出る時、ちょっと予感がしたんだ。
 出発する時、僕は、再度忘れ物を取りに家に入っただろ。
 忘れ物はこれだったんだよ。
 役に立ったよ。」

俺は、法螺は凄い奴だと思った。



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[ 2007/07/05 19:53 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼35 

 車の運転席側のドアが開いた。
人影がドアから出て、俺たちの方を向いた。
ヘッドライトの逆光で人の輪郭は見えるが顔が見えない。
女の子二人は、手を取り合って俺の後ろに隠れた。
人影は、俺たち三人に言った。

「 遅かったな・・。」
「 法螺か?」
「 待ちくたびれたぞ。
 早く、車に乗れよ。」
「 ほんまもんの法螺だろうな?」
「 偽者だったらどうする?」
「 車のヘッドライトまでさがって、顔を見せろよ。」
「 疑い深い奴だな。」

 人影は後退りして、車の前に出て顔に光が当たった。
法螺の顔が、ニヤッと笑った。
俺は、言った。

「 そこで、ぴょんぴょん跳ねろ!」

法螺は、ぴょんぴょん跳ねた。
法螺のズボンのポケットから何かが落ちた。

「 三回、廻れ!」

法螺は、三回廻った。

「 ワン、と言え!」

法螺は、突然ダッシュして来て、俺の頭にヘッドロックをかけた。

「 いい加減にしろよなぁ〜。」
「 あはは、おもろかった。
 ほんまもんだ。」
「 出発しようぜ。」

法螺は、落としたものをズボンのポケットに仕舞って車に乗り込んだ。
女の子たちも車に乗った。
 俺は、車に乗り込む時、もう一度、車の天井を見た。
天井には汚れも凹みも無かった。

“ さっきの奴は、何処に行ったのか・・。”

 俺は疑問を持ったまま、自動車に乗り込んだ。
俺が乗り込むと、直ぐに自動車は動き出した。
大きなエンジン音を響かせながら、自動車は出口の街灯を無事通り過ぎた。
俺たちは、まだ民家の見えない暗い道を街に向かって走っていた。



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[ 2007/07/04 19:52 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼34 

 俺たち三人は、トンネルの中を窺った。
トンネルは真っ直ぐで、遠くの方に街灯に照らされた出口が小さく見えた。
でも、自動車は見えない。
車のライトは消えているようで暗かった。
 Uちゃんが俺に言った。

「 あの手、何だったの?」
「 見えたか。」
「 見えたわ。」
「 そうか・・。」
「 そうかって何よ・・。」
「 いや、見えたのは俺だけかって思ったから。」

Sちゃんも言った。

「 私も見えたわ。
 信じられない。」
「 う〜ん。」

しばらくの沈黙の後、俺は二人に言った。

「 助けに行くで。」
「 怖いわ。」

Uちゃんは、かなり怖がっている。
でも、Sちゃんは、きっぱりした口調で言った。

「 でも、行かなきゃ。」
「 そうや!
 その通りや!!」

気合いを入れないと戻れない。

「 俺が先に歩くから、後ろを付いといで。」

 俺たち三人は、トンネルの中を恐る恐る歩いた。
歩きながら、俺は、昔読んだ物語のいくつかを思い出していた。
どの物語でも、取り残された者は悲惨な状態で発見される。
これは、最悪だ。
 しばらく歩くと自動車の輪郭が見えてきた。
車の天井には誰もいない。
あの白い手は何だったんだろう。
 俺たちは自動車に近付いた。
もう少しで、窓から中を覗きこめる位置まで来たとき、突然、自動車のエンジンが掛かった。
俺たち三人は、ビクッとして後退りした。
後退した俺たちは、遠巻きに自動車を見た。
エンジンの回転音が大きくトンネルに響いている。
そして、ヘッドライトと室内のライトが眩しく点灯した。



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[ 2007/07/03 20:44 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼33 

「 おわっ!」
「 キャーッ!!」

女の子たちの悲鳴がトンネルにこだました。
俺は叫んだ。

「 逃げろっ!!」

 俺たちは、自動車のドアを開け外に飛び出した。
自動車の後ろの先には、トンネルの入り口が街灯に照らされて見えている。

「 入り口に走れ、早く!」

俺たちは、トンネルを後戻りして入り口に走った。
俺は、女の子たちに言った。

「 前だ、前を走れ!」

 女の子たちを前に走らせて、俺は後ろを走った。
もう、必死だ。
直ぐ後ろに霊が迫っているようで、心臓が止まりそうだった。
複数の足音が甲高くトンネルに響いていた。
息が切れて、酷く苦しいが、そんな事かまっていられない。
とにかく、トンネルから出たかった。
 俺たちは必死に走って、トンネルから抜け出した。
トンネルの入り口近くにある街灯の下で、俺たちは俯いて肩で息をしていた。
しばらく息を整えてから、俺は俯いて荒い息をしている女の子二人に声を掛けた。

「 大丈夫か?」

 女の子たちは顔を上げて頷いた。
頷いたSちゃんが、直ぐに泣きそうな顔になった。
Sちゃんは、Uちゃんと俺に言った。

「 法螺君が居ない・・・。」

 俺は後ろを振り返った。
法螺は居なかった。
俺は、後ろを走っているものと思っていた。
でも、トンネルの入り口に立っているのは三人だった。
Uちゃんが、二人の顔を見て言った。

「 いないわ。
 どうしよう・・・・。」
「 ほんまにおらんわ。
 一緒に車を飛び出したと思ったのに・・・・。」



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[ 2007/07/02 20:00 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼32 

 俺は、窓の外を眺めた。
道の両側は暗い。
そろそろ民家が見えてもいい頃だ。
俺は、法螺に尋ねた。

「 そろそろ、民家が見えて来る頃やな。
 灯りが見えへんと寂しいな。」
「 いや、もうちょっとかかると思う。
 来た時と、道が違うんだよ。」
「 お前、何処走っているのか分かってるんか?」
「 ああ。
 でも、途中の左折の道が分からなかった。
 注意はしていたんだけどね。
 おかしいな。
 まあ、この道を真っ直ぐ行っても帰れるよ。
 遠回りになるけどね・・。」
「 おいおい、道を間違えたんか。」
「 やだわ、早く帰りたいわ。」
「 早く街に出てよ。
 アイスクリーム食べたいわ。
 途中、コンビニでも寄ってよ。」
「 もうちょっとだよ。
 ほら、トンネルが見えてきた。
 あれを抜ければ、直ぐに街だ。」

 法螺の自動車は、トンネルの暗闇に吸い込まれて行った。
自動車のエンジンの音が、トンネルの壁に反響してゴォーと唸っていた。
ライトだけが先を照らしている。
そして、トンネルの中程で法螺が呟いた。

「 来る・・!」
「 何?」

“ ドサッ。”

大きな何かが車の天井に降って来た。
重い響きと振動が車を揺さぶった。

「 うわっ!!」

車はタイヤを軋ませ、右に半回転して急停車した。
俺たちは前のめりになった。

“ ずるっ。”

天井を何かが前に滑った音がした。
俺たちは、顔を上げた。
そして、俺は見てしまった。
法螺の前のフロントガラスに車の天井から白い手が一本ずり下がっていた。




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[ 2007/07/01 18:18 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼31 

 二つの青黒い光は、沼の上を滑るようにこちらに近寄って来ていた。

「 うわっ!!!」

俺の大声でみんな一斉に走り出した。
法螺が走りながら叫んだ。

「 うわっ、まずい、急げっ!!」

 俺たち四人は、必死に走って車に到着し大急ぎで沼を後にした。
急発進した車はスピードを上げてガタガタ道を通過し、舗装道路を進み、沼から遠ざかった。
 走っている自動車の中でSちゃんが俺に聞いた。

「 ねぇ、何がいたの?
 急に大声を出すからビックリしたじゃない、ねえ、Uちゃん。」
「 そうよ、沼の方を法螺君と二人で見て・・・・。
 私、沼を見たけど、何も見えなかったわ。
 変よ、私たちを脅かそうと相談していたんじゃない?
 いやーねぇ。」

俺は女の子たちに言った。

「 ははは、バレタか。
 実は、そうだったのです。
 怖かったやろ。」
「 バカ。」

俺は、本当のことを言わなかった。
法螺がルームミラー越しに俺を見た。
俺は、法螺の今までの気持ちが分かったような気がした。
それにしても、法螺が喋らない。
どうしたのだろう。



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[ 2007/06/30 19:13 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼30 

 俺は広場から出るときに、後ろをチラッと振り向いた。
法螺が、それを見て俺に言った。

「 おい、振り返ってジロジロ見るな。」
「 あいつは危ない奴か?」
「 いや、青白いからな。
 眼が虚ろだし、ジッとあそこにいるだけだろ。
 自分が死んだことが理解できないんだろうな。」
「 憑いてきたりしないか?」
「 大丈夫だと思う。
 危険な奴は、もっと黒いな。
 それに、危ない感覚を感じるよ。」

Uちゃんが、法螺に聞いた。

「 何か、いたの?」
「 いや、たいしたことはない。
 大丈夫だよ。
 さあ、行こうか。」

女の子たちは、怪訝な顔をした。
俺は、女の子たちには、見えていなかったんだと思った。
 俺の前を三人が歩いていた。
俺は、三人の後ろ姿を見ながら、沼に沿った道を歩きつつ考えた。
法螺は、法螺吹きじゃなかったんだ。
本当に見えていたんだ。

“ そうだったのか・・・・・・。”

 その時、俺は、沼の方から誰かに呼ばれたような気がした。
俺は、顔を上げて振り返り沼を眺めた。
眼を凝らして見ると、沼の向こう岸に、青黒い光が二個浮かんでいる。
俺は、法螺に聞いた。

「 おい、法螺、沼の向こうのあれ、何や?」

振り返った法螺は、それを見て叫んだ。

「 あっ、あれは、・・・・。
 うわっ、まずい、見つかった!
 逃げろっ!!」



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[ 2007/06/29 18:39 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)

深泥沼29 

 法螺は、俺に言った。

「 顔を向けるなよ。
 眼だけで左の木の所を見ろ!」

俺は、建物の左脇に立っている大きな木を見た。

「 嘘やろ・・・・・・・。」

 木の根元には、しゃがみ込んでいる青白い男が見えた。
僅かに俯いた顔で、眼は俺たちを見ていた。
俺と法螺は、門への道の左側に手を繋いだまま縦に並んだ。
法螺が女の子たちに言った。

「 俺たちの右にまわれ。」

 女の子は、黙ったまま、二人くっついて道の右側に移動した。
そして、俺たち四人は、そのまま道を前進して門から外に出た。
俺は、法螺に言った。

「 あれは、あれか?」
「 そうさ、僕がいつも見ている奴だよ。」
「 俺にも、見えたで。」
「 ああ、お前は、もともと、見えるんだよ。
 ただ、見ようとしなかった。
 今までは、声は聞こえていたと思う。
 僕と手を繋いだから、波長が感じ取れたんだ。
 一度、感覚が身に付いたら、もう、何時でも見える。」



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[ 2007/06/28 19:45 ] 深泥沼 | TB(0) | CM(0)
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