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                        ☆ (6月27日 鎮め箱9)


☆帰って来ました、また、始めます。 byつぼつぼ7



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鎮め箱9 

 オババは土間に立つ俺の頭を上から両手で抱え、髪の毛がグチャグチャになるまでグルグルかき回すように撫でニタッと笑う。
俺は少々困った顔をしてニタッと笑い返し、髪の毛を元に戻しながら、一礼をして台所にスイカを食べに行く。
そして、台所に去って行く俺の後ろ姿を眺めながら、オババは再びフォ、フォ、フォ、フォ、フォと不気味に笑うのだ。

 俺と雄一郎は、毎年、このオババの家でひたすら問題を起こしていた。
悪さの度合いとオババの対応は、雄一郎がその都度ノートに記録している。
俺はこのノートをオババノートと呼んでいた。
雄一郎のオババノートには、雄一郎にとって重要と思われる他の情報も山ほど記録されている。
 このオババノートの実家の項目には、例えば、“障子に穴を開ける”は、すりこ木4発、説教34分、“時計を30分進める”は、すりこ木1発、説教17分などと記録されている。
前にこれを不思議に思って、どうして記録を付けるのかと雄一郎に訊くと、統計を取っていると悪さの種類によって、すりこ木と説教の量がほぼ分かるそうだ。
 この説教時間が何分掛かったかと言うことが雄一郎にどうしてカウント出来たかと言うと、俺たちが説教されるのは台所の隣の部屋で、二人並んで座らされると正面右にある黒光りする柱にこげ茶色のふる〜いボンボン時計が掛けられているからだ。
この時計は一日に二分遅れる骨董品で、一週間に一度、オババがゼンマイをギリギリ巻いて動いているシロモノなのだ。
 雄一郎はオババの説教を聞かずに、ひたすらこの時計で時間を測っている。
ホント、とんでもないヤツなのだ。
もっとも、俺も次に何をしようかなと考えて、オババの説教は半分くらいしか聞いていなかった。



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[ 2009/06/27 11:33 ] 鎮め箱 | TB(0) | CM(0)

鎮め箱8 

 夏休み前にお互い連絡を取り合って日程を調整し、毎年、懲りもせずオババの家に遊びに行く。
もちろん、幼稚園の頃こそ親に連れて来て貰っていたが、小学校からは一人旅だ。
一人で旅をすることに、ある種の自負心があったと思う。
それぞれが旅行カバンをぶら下げ、一人で列車を乗り継いでオババの家にやって来るのだ。
 そのカバンには最小限の着替えと多量のお菓子とマンガの本と昆虫ハンドブックが入っている。
オババの家で二人が合流したとき、お菓子とマンガの本と昆虫情報をお互い交換し合うことを楽しみにしていた。


 俺がオババの家の玄関に旅行カバンをぶら下げて入って行って、土間からオババを呼ぶ。

「 来ました〜〜!!」

すると、バ〜〜ンと重厚な襖が両側に開かれ、おもむろにオババが登場する。
 オババは水戸黄門のように伯父夫婦の助さん格さんを後ろに従えて現れるのだ。
そして、玄関先の太い上がり框の上に立ち、日焼けした梅干しのような顔をこちらに迫り出して必ず言った。

「 フォ、フォ、フォ、フォ、フォ。
 このワルガキ、よ〜来たのォ〜。
 また何か悪さをしに来たな。
 まあ〜、ゆっくり遊んでけ。
 おい、スイカ切っちゃれ。」

オババの手先は、そそくさとスイカを切りに台所に消え去る。
入れ替わりにネコが台所の柱の陰から顔だけ出し、フンと言った顔で俺を一瞥し、また台所に引っ込む。




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[ 2009/06/21 15:21 ] 鎮め箱 | TB(0) | CM(0)

鎮め箱7 

 俺たちは始めは神妙に話を聞いているが、途中から足が痺れてモゾモゾし始める。
足が痺れて説教を聞いていないと判断したオババは、“次からは絶対するんでねェ”と決めの言葉を一言言ってから、持っているすりこ木で俺たちの頭を軽くコンコン叩き説教を終了する。
 説教が終わるとスイカが俺たちを待っているのだ。
オババから解放された俺たちはスイカの前にドッカと座る。
そして、痺れてジンジンする足を床から離し、空中に浮かべながら足の親指をクイクイと屈伸運動させ、オババのバカヤロ〜と心の中で叫びながらスイカをガツガツ頬張るのだ。
俺たち二人は、この祖母を“根性オババ”と呼んで極度に恐れていた。

 俺の母である本田良子は、二人の兄と長い間このオババの家で暮らしていた。
そして、母は伊達淳二と結婚して大阪へ、次男は医者を開業するため名古屋に移って行った。
最後に残った長男も遅くに結婚し、根性オババの手先になっていた。
 歴史のある家なので、跡継ぎは必要だった。
でも、気の弱い長男夫婦には子供が無く、養子を迎える話も何回か出ていたようだが、家が家だけに実現はしていなかった。

 俺と雄一郎は同い年で、どちらも男の一人っ子だ。
二人そろって幼稚園の頃から、夏休みには親から離れて、この実家に10日程遊びに行くのが年中行事となっていた。




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鎮め箱6 

 もしも、運良く二人で逃げ出せたら、後ろを走っている方が狙われる。
必死で逃げる俺たちの後ろにヒタヒタヒタヒタヒタと足音が近付いて来る。
そして、後ろを逃げるヤツの服の首筋を左手でムンズと掴んで、右手に持ったすりこ木を振り回す。
 すりこ木は木刀のように風を切り、思いっ切り尻にヒットする。
バシッと尻を叩かれると尻に衝撃が走り、尻の穴がキュッと締まるのだ。
イデデ、イデデとヒーヒー言ってしゃがみ込むと、次は先を逃げるもう一人の獲物を追い掛ける。
 武器であるすりこ木が近くに無い緊急時は、オババは素手で追って来る。
そして、左手で服を捕まえると、右手で頭を思いっ切りしばく。
 しばかれた頭はパコーンと言ういい音がする。
手から出ている音か頭から出ている音かは分からない。
でも、どちらからの音かは分からないが、あんないい音が出せるのはオババだけだ。
痛みは不思議とあまりない。
 これは学校の先生とは大違いだ。
学校でもよくしばかれたがヒリヒリ痛い。
特に酷かったのは、プールの着替えで、誰もいないのを良いことに二人の友人のパンツを交換しておいたときだ。
あのろくでもない担任に、しばき方を教えて欲しかったくらいだ。
 そして、次は二人並んで正座させられ、オババの有り難い説教が始まる。
説教が始まると家の奥の方から、ネコと言う名前の尻尾の先だけが白い黒猫が様子を見にやって来る。
ネコは説教されている俺たちの前まで来ると一瞬動きを止め、“フン、馬鹿が”と一瞥し冷たく去って行く。
コイツは俺たちがヒゲを抜こうとしたことを恨んでいるのだ。



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[ 2009/06/10 22:23 ] 鎮め箱 | TB(0) | CM(0)

鎮め箱5 


   §2 家


 俺は、小学校の頃、母の広い実家でよく遊んでいた。
母の実家は、本田と言う名の北陸地方の豪農である。
敷地は桁外れに広く、大昔から建っている母屋は部屋が幾つもある。
何度か改修したとは思えるが、基本的には江戸時代の作りだ。
 内部は、天井への吹き抜けが高く、薄暗く、夏ひんやりとしている。
使ってはいないが竈があり、時代を感じさせる掛け軸や骨董品も珍しかった。
蔵も三つあり、大きい蔵が一つと横に小さい蔵が二つ並んであった。
小さい蔵と言っても、他の地方では、とてもそう言う言葉では表せない規模だった。

 当時、母の実家には祖母である本田トヨと言う名の強烈な根性オババと気の弱い長男夫婦である本田雄一と清子の三人、それとネコが一匹住んでいた。
養子である祖父は若くで亡くなっており、根性オババの祖母が中心となり長い間大きな家を守っていた。
 で、この根性オババの支配する家に、二人の孫が夏休みになると遊びに来ていたのだ。
一人はオババの末娘の子である俺、もう一人はオババの次男である名古屋の伯父本田雄次の子である本田雄一郎である。
 このオババに、俺と雄一郎は、何回も、悪いことをする度にしばかれた。
オババは悪いことをする現場に、何故かすりこ木を持って突然現れるのだ。
そして、俺たちが逃げようとすると、すりこ木を振り上げ風のように追って来る。
まるで、忍者のように横に走って来るのだ。
 ホント逃げ切れないことも多かった。
大抵は逃げ遅れた一人が、まずその場でオババに捕まり餌食になる。
そして、次は逃げ出したもう一人を風のように追跡し捕獲するのだ。



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[ 2009/06/07 22:31 ] 鎮め箱 | TB(0) | CM(0)

鎮め箱4 

 名古屋の伯父は地元で医者をやっているし、俺の家の父親は根っからのサラリーマンで引越しなど到底出来るものでない。
仕方が無いので、実家はそのままの状態で名古屋の伯父が管理し、それを母が補助すると言うことで当面行こうと言うことになった。
 伯父も母も実家には愛着があったし、何らかの形で残して行く方向を考えていたのだ。
維持費の大部分はお金持ちの伯父が負担しているが、それでも母は維持費が掛かると日々ブツブツ言っている。
だから、実家がそのままと言うことに俺は安心し切っていた。
 ところがこれが甘かった。
最近流行の町興しの一環と言うことで、まさか母の実家が文化財指定を受けるなんて夢にも思っていなかった。
それも、さらに悪いことは管理棟を建てるための用地として蔵が跡形も無く消滅してしまったこと。
 これは、いわゆる想定外ってヤツだ。
こんなことなら、実家の伯父が生きているうちに相談するべきだったのだ。
で、俺が何を怖れているかを説明するには記憶の整理に少々時間が掛かる。
ことの起こりは遥か昔、俺が小学校のころに遡るのだ。
 俺の頭の中の奥深くには、グチャグチャと積み重なった幼いころの母の実家での記憶の地層がある。
その斑になった記憶の一つ一つの塊が、ボコッ、ボコッと坊主地獄のように年代順に俺の頭の深層から浮かび上がって来る。
そして、それらは順々にパチンパチンと割れ、割れて出て来た思い出はニタニタ笑いながら古いものから新しいものへと仲良く手を繋いで輪を作り、俺を中心にしてグルグル回り始めたのだ。




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[ 2009/06/03 12:02 ] 鎮め箱 | TB(0) | CM(0)

鎮め箱3 

 ヤバイ話に入る前に、俺について説明して置く。
呆然としている俺の名前は伊達廉太郎、京都の大学の一回生だ。
住んでいるのは大阪で、阪急電車に毎日揺られながら京都まで通っている、ごくごく普通の大学生だ。
 俺の生活信条は“適当”。
すべてのことを適当に処理し、日々を楽しく過ごす。
これが一番!
 でも、いつも楽しく過ごせるとは限らない。
災難は度々向こうの曲がり角からヒョッコリ顔を出して、笑いながら近寄って来る。
少々の災難だったら適当にクリンチしながら体を入れ替え、横をすり抜けることを旨としている。
 しかし、やって来た災難が道いっぱいに広がって、ドドドドドッとがぶり寄りで迫って来ると、とてもじゃないが避け切れない。
これまでの状況から考えて、今回は相手が相手だけに普通の人間では避け切れないと俺は判断した。
それほど今回の災難は、久々の大きな試練なのだ。

 この電話が名古屋の伯父からあったのは7月の始めの頃だった。
現在、母の実家は始めに言ったように空である。
実家の伯父が亡くなってから、子供も無く一人になった伯母は自分の実家に帰って行った。
でも、母の実家が空になったからと言って、残った兄妹で実家を継いで住むと言うことは不可能だった。



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[ 2009/05/31 21:00 ] 鎮め箱 | TB(0) | CM(0)

鎮め箱2 

鎮め箱2

 俺はどうでも良いような伯父の近況を続けて話す母の様子を窺った。

“ 蔵にちょっと困ったものがあったんだけど・・・。
 母はあれを知らないのかな・・・?”

母は特に動揺する様でもなく平然と話をしている。

“ ホントに知らないんだ・・・・。”

そして、伯父の近況を満足するまで話し終えた母は、困って歪んだ顔をしている俺に能天気に言った。

「 実家の整理が出来て良いじゃないの!
 何をオロオロしてるのよ!」
「 いや、ちょっと気になることがあって・・・・。」
「 お宝になりそうなものなんて無いって伯父が言ってたわよ。
 歴史的には価値があるものはあるだろうけど、お金にはならないよ!
 何か欲しい物でもあったの?」
「 いや、欲しくはないけど・・・。」
「 じゃ、良いじゃない、寄付すれば。」
「 でも・・・・。」
「 何、言ってるのよ。
 市役所で管理してくれるのよ。
 今まで放置されていたんだから整理出来て、良かった、良かったじゃん。
 お金だってちょっとは貰えるみたいだし・・・・。
 じゃ、私、夕食の支度をしなくっちゃ!!」

母は言うだけ言うと、呆然としている俺を残して台所に去って行った。



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[ 2009/05/29 20:54 ] 鎮め箱 | TB(0) | CM(0)

鎮め箱1 

      鎮め箱



§1 始

鎮め箱1

 とうとう、母の実家が文化財指定を受けて市で保存保管する事になった。
俺は、マズイなァと思った。
敷地を整理して、他の豪農の家と同じように文化財として観光客に開放すると言う計画らしい。
俺は、ますます、マズイなァと思った。
 母の実家は、実家の伯父が亡くなってから空き家になっていた。
母に、この事について名古屋の伯父から電話連絡があったと聞いたとき、俺は聞き返した。

「 蔵は残してあるよな・・・。」

母は不安げな俺を尻目にあっさり答えた。

「 壊したって言ってたよ。」
「 えっ、壊した・・・!?」

母の説明では、蔵は母屋の管理棟を建てるための用地として、お役所が、先週、取り壊したと言うことだった。
 実家の大きな蔵には年代物のガラクタがゴロゴロ転がっている。
俺は、実はその中のあるものが気になっていた。
俺はそれを思い浮かべながら、恐る恐る母に訊いた。

「 で、えっと・・・、蔵の中のものは?」
「 中のものは市役所に一旦保管して、開けてみてから整理するらしいよ。」
「 えっ、開けてみるって・・!?」

俺はそれを聞いて思わず仰け反ってしまった。

“ ヤバッ!!”

これは、えらいこっちゃ、とんでもなくマズイことになったと思った。


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[ 2009/05/27 22:27 ] 鎮め箱 | TB(0) | CM(0)